第8話 彼女はまさかのあの人だった

「ま、まさか……お前……」


「驚くのも無理ないわよ、私も実際驚いたし……」


「お前……赤椿さんのスマホハッキングしたな!」


「はぁ?」


 そうだ、きっとそうに違いない!

 こいつめぇ……赤椿さんに一体何の恨みがあって!

 はっ!

 まさか赤椿さんのアカウントを人質に俺に何か要求するつもりか!


「い、一体何が目的だ! 良くも赤椿さんのアカウントを!」


「あんたアホなの!? そんなわけないでしょ! 私が赤椿なの!! 気が付きなさいよ馬鹿!」


「嘘だ! お前が赤椿さんなわけあるか! 赤椿さんはメチャクチャ良い人なんだぞ! 気は使えるし、空気は読めるし! 俺の大切な人に一体何をした!」


 俺がそう言うと、井宮は顔を真っ赤にしながら頭から湯気を出し始めた。

 

「な、なに恥ずかしいことを平然と言ってるのよ! 馬鹿!」


「大切な人を大切と行って何が悪い! リアルに友人は居ないが、ネットにはこれでも友人は多い方でな、その中でも赤椿さんは特別大事な人だ! 何かしたらたとえ女でも許さないぞ!」


「あぁもう! わかったから! わかったからもう何も言わないで! こっちが恥ずかしくなる……」


 井宮はそう言いながら、顔を隠しその場にうずくまった。

 なんだ?

 もしかして俺の熱意に恐れをなしたか?


「はぁ……アンタの最近ハマってるマンガは『夢の中のアルカディア』でしょ?」


「な! なんでお前がそれを!! その話はまだ英司にもしていないのに!!」


「この間買った新作ゲームの題名は『クロスフィールド』でしょ? 私も買ったわ、アンタは店舗特典が欲しくてネットじゃなくて店頭で予約購入したわよね?」


「な、なんでそんなことまで!!」


「まだ言えるわよ、一番好きなアニメは私と同じ『澄清のヒュドラ―』、キャラで好きなのは隊長の明野さんが好きよね? 私はヒロインのマイちゃんだけど」


「そ、そんなことまで!!」


 な、なんでこいつこんなことまで!!

 井宮とはあまり話たことはない、というか話したことが全然ないのになぜだ?

 こいつやっぱり!!


「お、お前……まさか……」


「やっとわかった? はぁ……」


「ストーカーだな!!」


「だからなんでそうなるのよ! 私が赤椿本人だって言ってるでしょ!」


「むっ? しかしなんで俺みたいな不細工をなんでストーキングしていたんだ? まさかお前、やっぱり何か俺に要求するために!!」


「あぁもう!! 本当に面倒くさい! いい加減信じなさいよ!!」


 俺たちが言い争っていると、突然俺のスマホの通知音が鳴った。


「ちょっと待て、通知が来た」


「そんなの後にしなさいよ! 今は……」


 そう井宮が言いかけた瞬間、井宮のスマホからも通知音が鳴った。

 

「こんな時に何よ……って、あぁぁぁぁぁ!」


「あぁぁぁぁぁ!!」


 井宮と俺は同じタイミングでスマホを見て叫んだ。


「「イベント今日からだった!!」」


「「え?」」


 同じことを言った井宮の言葉を聞き、俺は顔を見上げ井宮の顔を見る。

 

「お、お前もこのゲームやってるのか!?」


「やってるっていうか、今から大事なイベントよ! すっかり忘れてた……」


「おい、お前協力しろ! 今からボス戦に潜ってひたすらボス倒すぞ! このボスイベント期間中の一日一時間しか出ないから、一回でも逃すと損なんだよ!」


「わかってるわよそんなの!」


「よし、じゃあ俺はサブスマホを使って三アカウントで……」


「私もサブスマホ持ってるから四アカウントで行けるわ!」


「やるなぁお前! 見直したぞ! よし、さっそくフレンドに……」


「大丈夫よもうなってるから」


「なんだと!? そんなわけ……あ、来た」


「だから、さっきから言ってるでしょ……私が赤椿だって」


「今はそんなことどうでもいい! 行くぞ!」


「それもそうね!」


 それから俺たち二人は放課後の屋上でイベントボスの討伐をしまくった。

 

「え? 何よこれ! 新しいフィールドギミックとか聞いてないんだけど!」


「大丈夫だ! 俺のキャラで回復できる! よし!」


「流石っ! やった! とりあえず一体!」


「この調子でどんどん行くぞ!」


「もちろんよ!!」


 そして一時間後、俺たちは二人でイベントボスのステージを軽く20週は回っていた。

 

「はぁ……いやぁ良かった。二人でやったからかなり効率よく回れたぞ」


「危なかったわね、この手のイベントは私たちみたいな学生は授業中回れないからね」


「ありがとう井宮、まさかお前もゲーマーだったとは……」


「いや、だからさっきから言ってるでしょ! いい加減気が付きなさいよ!」


 そういわれ、俺は井宮の顔を見る。

 あの話、そしてさっきのゲームのやり方……まさかこいつが本当に赤椿さん……。

 俺はそう考えながら、赤椿さんのメッセージアプリのアカウントを見る。


「……否定出来る要素を考えたが……もう何も否定できないな……」


「もう、やっと気が付いたの?」


「あぁ……まさかこんなに早くリアルで会うなんてな……」


 俺はそう言いながら手を差し出し、井宮に握手を求める。


「改めてよろしくな」


「な、なによ急に……もう……」


 井宮は少し恥ずかしそうにしながら俺の手を握った。

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