第7話 彼女は再び俺と対峙する



 私は教室で前橋と笹原の話を聞き、思わずスマホを落としてしまった。

 まさか前橋が私の事をそんな風に思っていたなんて知らなかった。

 そう、先ほどまで前橋が話していた赤椿とは私のネット上で名前だ。

 あの日、前橋が私の申し出をばっさり切り捨てたあの日、私はなんだかネット上でも前橋と付き合うのが少し嫌になってしまった。

 その理由は単純で、あんな奴だと思わなかったからだ。

 でも、さっきのあの話を聞き私の考えは変わり始めていた。


「椿? どうしたの?」


「え? な、何が?」


「いや、なんか顔赤いよ?」


「え? そ、そう? き、気のせいじゃない?」


「いや赤いよ、どうしたの?」


「あ、あぁ……なんか少し熱いかも」


「そう?」


 私は隣で話掛けてくる美佳の声に耳を貸しながら、前橋ことKさんの事を考えていた。

 てか……ネットではかけがえのない大切な存在って……。

 

「わ、私の事……そんな風に思ってたんだ……」


 正直先ほどの話を聞いていて、私は少し恥ずかしくなってしまった。

 まさか数日メッセージを送らないだけで、ここまで心配してくれるなんて……。

 やっぱり前橋はネット上の優しいKさんなのだろうか?

 私は再び前橋の事を考えるようになっていた。


「やっぱりルックスは良いわね」


「どうしたの急に?」


「なんでもないわ、それより美佳」


「何?」


「今日のカラオケだけど、ごめん私パス」


「え!? せっかく久しぶりに遊べるかと思ったのにぃ~!!」


「ごめん、でも大事な用事があるの」


 あの日、私は前橋に伝えるべき重要なことを伝えなかった。

 それにより私は前橋を誤解してしまったかもしれない。

 だから私は、もう一度前橋に私が赤椿であることを打ち明けてちゃんと話たかったことを話そうと決意した。





「おぉ! 赤椿さんから連絡が来たぞ!!」


「お、よかったな。なんて来たんだ?」


「えっとなになに……ん? なんだこのメッセージ?」


「どうした?」


「いや、おかしいんだ。いつもなら少しでも返信が遅れたら、謝罪してスタンプを送ってくるのに、今日は『今日の放課後は屋上に行って』ってなってるんだ」


「え? その赤椿さんってお前がこの学校に通ってるの知ってるの?」


「いや、話した覚えはないな……お互いに同じ県に住んでるのは知ってるけど、詳しい住所なんかは当たり前だけどお互い教えないし……なのになんで屋上?」


「もしかしてだけど……アカウントを乗っ取られてるとか?」


「でも、乗っ取られても屋上に来いなんてメッセージを送ってくるか?」


「まぁ確かにそうだな……」


「うーむ……どういうことなんだろう?」


「とありあえず行ってみたらどうだ?」


「うーん、それしかないか」


 俺は赤椿さんから来た不自然なメッセージを見ながら英司にそういった。

 赤椿さんは一体どうしたのだろうか?

 屋上に行ったら一体何が待っているのだろうか?

 謎は深まるばかりだ。

 午後の授業は、結局メッセージの事をずっと考えてしまい、あまり授業に集中できなかった。

 そして放課後、俺は言われた通りに屋上にやってきた。


「来てはみたけど……誰も居ないし何もないな……」


 俺は一体何が起きるのか気になり、赤椿さんにメッセージを送る。

 

【赤椿さん、屋上に来たけど何があるの? 早く帰って一緒にゲームしたいんだけど】


 すると、すぐに既読が付き返信が返ってきた。


【ドアの方を見て】


「ドア?」


 俺は言われるがままに屋上のドアの方を振り向く。

 するとそこには同じクラスの井宮が立っていた。


「ん? なんだお前? どうして屋上に居るんだ?」


「………」


 メッセージの事もあり、俺は井宮にそう尋ねた。

 すると井宮は俺の質問に答えずスマホを操作し始めた。

そして井宮がスマホを操作し終えると、今度は俺のスマホの通知音が鳴った。

 俺が再びスマホを確認すると、またしても赤椿さんからメッセージが来ていた。


【私が赤椿です】


「え?」


 俺はそのメッセージを見た瞬間意味が分からなくなってしまった。

 俺がメッセージを送っている相手は赤椿さんで間違いない、なのになんで赤椿さんはこんなことを言ってるんだ?

 不思議に思った俺は赤椿さんにメッセージを送る。


【どういう意味ですか?】


 そう送ると、今度は俺じゃないスマホの通知音が鳴った。

 俺はまさかと思い、井宮の方を見る。

 すると、井宮は自分のスマホの画面を俺に見せてきた。

 そのスマホの画面のメッセージアプリの名前を見て、俺は心臓が止まるかと思うほど驚いてしまった。


「え?」


 井宮のスマホのメッセージアプリの名前が赤椿だったのだから。


「え? ど、どういうことだ?」


「……Kさん」


 井宮が俺に向かってそういった。

 Kさんとは俺のネット上での名前だ。

 英司以外に知っている人間はネットの世界にしかいないはずだ。

 俺はその時、すべてを理解してしまった。

 数日前から赤椿さんから連絡がなかった意味もどうしていまここに井宮が居るのかも、この前俺をなんで呼び出したのかも……。

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