第6話 ネットの中は別の世界
オンラインゲームは俺の生きがいだ。
中学の頃からリアルの友人よりもゲームの中の友人の方が多かった俺にとって、ネットの繋がりの方が濃くて強い気がした。
ネットなら相手の表情が見えないから何でも言える気がした。
そんな俺を受け入れてくれる人も多かった。
だから、俺にとってオンラインゲームやネットの繋がりは普通の人よりも大きい。
「赤椿さん、最近連絡くれないんだよなぁ……」
だからこそ、ネットで一番仲の良い人から連絡がないのは俺にとってかなりショックだ。
数日前から俺がメッセージを送っても赤椿さんは俺に連絡を返してくれない。
なんでだ?
いつもは連絡して直ぐ返信が来るのにこんなの初めてだ。
「はぁ………」
「どうしたんだ? ため息なんて吐いて」
「ちょっとな……なぁ英司少し聞いても良いか?」
「なんだよ、何か相談か? というか、お前この間の事ちゃんと高城に謝ったのか?」
「まぁ、リアルの話は一旦こっちに置こう」
「地面に置くなよ……それで机の上に残った話ってのは、あの優しい高城を泣かせたことより重要なのか?」
「泣かせては居ないだろ……」
「泣かせたようなもんだ」
あの日、高城から友達にならないかと言われた俺は高城のその申し出をバッサリ切り捨てた。
泣いてはいなかったけど……まぁ悲しそうな顔をして教室を後にしていった。
「俺はただ友人になりたくないと言っただけなのに……なんであんな悲しそうな顔をしたんだ……」
「はぁ……お前は少し他人の気持ちを理解した方が良いと思うぞ」
「うーむ……嫌なことを嫌と言っただけなのに……」
「あのなぁ……まぁいいや、とりあえずどうしたよ?」
英司はそういうと俺の席の前の席に座り、俺の話を聞き始めた。
今は昼休みで前の席の主はどこかに行ってしまったらしい。
「実はネットで仲良くしている赤椿さんが、ここ最近連絡をくれないんだ」
「あぁ、あの二年くらい前からお前が仲良くしてるっていうネットの?」
「そうなんだ、いつもなら直ぐに返信を返してくれるのに」
スマホの赤椿さんとのチャット履歴を見せながら、俺は英司にそのことを話す。
「なんか怒らせるようなことでも言ったんじゃねーのか?」
「うーん、でも最近はどうでもいい話しかしてないし……」
「そうだな、見る限りは変な内容はない……ってか、お前らのチャットなにこれ? 暗号?」
「え? 日本語だけど?」
「この 『理』とか『了』ってなんだよ」
「理解と了解を簡略かして打ってるんだ」
「見たところゲーム用語も多いし……俺には一部解読できない分もあるんだが……」
「そうか? 俺は別に特別な用語を使ってるつもりはないぞ?」
「自覚がないんだったらもう末期だな……スマホが壊れたとかじゃないのか?」
「いや、それなら赤椿さんはパソコンからアカウントにログインして連絡をしてくるはずだ……」
「じゃあこんなことを言うのはあれだけど、事故にあって返信を打てなくなったとか?」
「うーむ……それはあるかもしれない。だとしたら心配だ! もしそうなら見舞いに行ってあげたいけど」
「あぁ、そうかネットで知り合ったんならお互いどこに住んでるとかわからねーもんな」
「いや、直接会ったらリア友になるから見舞いに行けないなと……」
「そこは行けよ」
「はぁ……心配だぁ……もし本当に事故だったらどうしよう!!」
「なんだよ、そんなに大切なのか? たかがネットだけの繋がりだろ?」
「馬鹿野郎!! 俺にとって赤椿さんは大切な人なんだ! 確かにリアルでは会えない! だが! ネットではかけがえのない大切な存在だ! そんな人を心配して何が悪い!」
「わ、悪い……そうだよな、どんな形でも大切な人は大切だよな」
「わかればいいんだ……まぁでも……ここまで気が合うなら一度会ってみたい気もするけどな……」
「え? マジで? もしかしてこの人とだったら友人になるのか?」
「可能性はあるな」
「お! ついに友人の拡張か?」
「だが、ネットだけの付き合いだ、それにあっちにリアルで会おうと言っても断られるだろう、ネットで友人を作るメリットは相手に顔を見せなくていいことだからな」
「ふーん、じゃあ会いたいって向こうが言ってきたらどうすんだ?」
「その時はちゃんと会うさ……それが赤椿さんの望みならね」
「なんでだ? 会わなくてもネットの関係は続けられるだろ?」
「そうだけど……でも赤椿さんにはお世話になってるから……一つくらい頼みを聞いても良い気がしてな」
「なるほどな」
俺と英司がそんな話をしていると近くで何かが落ちる音が聞こえた。
どうやら少し離れたところに居た井宮がスマホを落としたらしい。
友人たちに何かを言われながら井宮はそれを拾い上げていた。
てか、あいつまた俺を見てないか?
あの時の事まだ根に持ってるのか?
俺はただ友達になりたくないって言ったのに……。
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