第5話 彼女はKさんを知っている
私の名前は井宮椿、今年高校に入学した女子高生だ。
入学して二か月、私のクラスの女子の間ではとある男子が有名になっていた。
とはいってもみんな陰で噂している程度なので、本人はそれを知らない。
その男子の名前は前橋圭司、ルックスが良くクールでよく一人で居ることの多い男子だ。
「はぁ……今日もカッコいいなぁ圭司君」
「あれだけイケメンなんだから絶対彼女居るよねえ~」
「どうなんだろう? そんな話あんまり聞かないし……てか、男子に聞いても男子も圭司君の事良く知らないみたいなんだよね?」
「良く一人で居るもんねぇ~クールでカッコいい~」
クラスの女子は前橋をそんな風に見ていた。
確かに外見は良いし、落ち着いてクールな印象を持つ人がほとんどだろう。
しかし、私は知っている……あいつの本当の顔を……。
「ねぇ椿」
「え? 何?」
「あんたならいけるんじゃない?」
「何がよ」
「だから、前橋君に告白して成功するんじゃないかって話」
「え? なんで私があんな奴……」
「でも、椿いつも前橋君の事見てない?」
クラスメイトで友人でもある近衛美佳(このえ みか)が私にそういってくる。
この子、意外に見てるのね……。
確かに私は良く前橋に視線を向けていることがある。
しかし、それは別に好意というわけじゃない。
ない……と思う……。
「気のせいよ、それに入学して二か月で告白って……お互い良く知らないんだから、絶対破局するわよ」
「でも、もう少しで高校最初の夏だよ? 彼氏と一緒の方が良くない?」
「私は別にそうは思わないわ」
「乗り悪いなぁ~そんなビッチみたいな恰好で~」
「誰がビッチよ!」
「いてっ! もう叩かないでよぉ~」
「美佳変なことを言うからでしょ、まったく」
実は私は彼を知っている。
しかもこの高校に入学する前からだ。
しかも、私と彼の出身中学は違う。
それではなぜそんなことを知っているのか、それは……。
「あ、Kさんからプレゼントだ」
オンラインゲームのフレンドだからなのです。
私は中学時代から結構なゲーマーだ。
見た目からは想像出来ないと良くみんなから言われるのだけど、そんなことを言われても私はゲーマー。
家庭用ゲームはもちろん、PCゲームやスマホゲームまで私は様々なゲームをしている。
そんな私のゲームフレンドKさん、この人とは二年前にオンラインゲームで出会った。
初心者の私にゲームの事をいろいろと教えてくれた親切な人だった。
とは言っても、Kさんとの交流はネットの中のみ、顔も知らなかったけど……まさか同じ学校の同じクラスになるなんて……。
私もプレゼント送っておこう。
「あ、またゲームしてる」
「まぁね、面白いよ」
「毎回やってるゲーム違うよねぇ~そんなに面白い?」
「まぁね~」
私は美佳にそう言い、スマホのゲームを続ける。
私が前橋の事をKさんだと知ったのはつい一か月前のことだ。
前橋の恐らく唯一の友人である笹原君と話をしている会話の内容からだった。
『なぁ、その赤椿さんってこの間もチャットしてなかったか?』
『あぁ、二年前からなんだけどオンラインゲームで知り合ってな、話も合うし仲の良いネット友達だよ』
赤椿とは私のネットでの名前。
最初は何かの偶然かと思った。
私は確かめる意味でその場ですぐにKさんにメッセージを送ってみた。
すると……。
『あ、また赤椿さんからだ』
『なんてだ?』
『いや、別にどうってことないスタンプだよ、多分新しいのを買ったから送ってみたんじゃないか?』
私はその言葉を聞いて確信した。
まさしく私が今送ったのは新しく買ったスタンプ。
まさかKさんが前橋だったなんて……。
正直私はKさんと一度会ってみたいと思っていた。
好きな動画や好きな漫画など、Kさんとは妙に気が合ったからだ。
それでこの前私が赤椿であることを打ち明けようと前橋を放課後に呼び出したのだが……本人を前にして緊張してしまい、何を話して良いかわからず、とりあえずみんなが話していて気になった彼女が居るのか聞いてみたりしたのだが、なかなかうまくいかず、しかも友達になることまで拒絶されてしまった。
「なんなのよあいつ!!」
「お、落ち着いてよ椿」
「なんなのよ! 普通言う? 友達になろうって言って嫌だけどなんていう? あいつ何様なの!?」
私は翌日、美佳に昨日のことを尋ねられ階段の踊り場で話をしていた。
まさかあんな失礼な奴だったなんて!!
「あはは、振られたんだぁ~どんまーい」
「だから告白とかじゃない!!」
「いやでもまぁ、椿が持ち帰った情報は大きいよ! そっかー彼女居ないんだぁ……うふふ」
「あんた……まさかと思うけど、あんな男が良いの?」
「えぇ~だってかっこよくなぁ~い?」
「見た目だけね……性格悪いわよあいつ」
やっぱりネットだけの交流じゃ人の本質なんて見えないわね……。
でも……。
「ネットの中では優しいのに……」
私はそんなことを考えながらスマホのKさんの連絡先を見る。
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