第4話 彼女は善人である

 英司から友達を辞めると言われて一週間が経った。

 あれから英司と絡む機会はかなり少なくなった。

 俺が基本学校では一人で過ごしていた。

 こんな時思う、友人が一人でもいるのと居ないのでは……。


「あんまり大差ないな」


 特別何か問題があるわけでもないし、飯の時に食堂で一人でもこれと言って問題はない。

 なんだ、やっぱり一人は最高じゃないか、これならずっとこのままで良いかもしれない。

 まぁ、体育の時の二人一組を作れというあの地獄のような命令さえこ来なければ、問題は一切ない。

 

「ふー、やはり一人は最高だな」


「じゃねぇだろ!!」


「いきなりなんだ」


 俺が屋上でそんなことをつぶやいていると、元友人の英司が俺に向かって叫んできた。


「いや、少しは行動しろよ! お前は今ボッチなんだぞ!」


「いやぁ、意外にそれも悪くないなって」


「お前……そこまで行くと人間嫌いとしか思えないぞ」


「いや、嫌いではないぞ、ただ関わるのが面倒なだけで」


「人間嫌いの方がお前にまだ同情出来たよ」


 英司は呆れた様子でそう言い、ため息を吐きながら俺に隣にやってきた。


「俺はお前を心配してたんだが」


「英司……お前……」


「一応、お前の唯一の友人だったからな……すこしやりすぎたとか考えてたんだぞ」


「英司……悪いな」


「別に良いよ、お前がそういう性格だってわかってたし」


「いや、違うんだ、お前が居なくても全然平気だったから心配しないでくれと……」


「圭司、一回で良いぶん殴らせろ」


「え? なんで?」


 こうして俺と英司は友人に戻った。

 英司いわく、これからは英司が無理にでも友人を俺に作らせると言っていたが、果たしてそんなことを出来るのだろうか?

 俺は相当面倒な性格をしているというのに。


「まぁ、まずはお前の意見だ、どんな奴と友人になりたい?」


「友人という肩書だけで、あまり俺に干渉してこず、おはようって言ったらおはようって返すくらいの会話で満足できるやつ」


「それはもう果てしなく他人だぞ」


 教室に戻った俺と英司は机を挟んで向かい合い、どんな奴と友人になるかを話していた。

 

「はぁ……まぁ無理に友人を作れと言ってる俺も悪いのかもしれねぇけど、他人に合わせるって社会で生きていく中でも大切だと俺は思うんだよ」


「英司、俺たちは学生だまだ社会に出ても居ないし、そんなことを考えなくても良いんじゃないか?」


「数年後には出る奴だっているんだよ、それにバイトとかですでに社会を垣間見てるやつだっているだろ?」


「はぁ……出来ることなら働きたくない」


「頼むからお前ニートにはなるなよ、親が泣くぞ」


 放課後の教室でそんな話を俺と英司がしていると、教室に一人の女子生徒が入ってきた。

 

「あれ? 二人ともまだ残ってたんだ?」


「ん? なんだ高城(たかしろ)お前まだ学校に居たのか」


「うん、ちょっと先生に呼ばれてねぇ」


 先ほどから英司が話をしているのは高城優菜(たかしろ ゆうな)。

 この学校一の美少女のうちのもう一人で一号の方だ。

 ギャルっぽい井宮と違い、優菜は清楚で王道な感じ美少女だ。

 ショートボブの黒髪で瞳は大きく胸もデカい。

 誰にでも分け隔てなく優しく、一部の男子からは姫と呼ばれているらしい。


「あれ? 二人とも仲直りしたの?」


「はぁ? なにがだよ?」


「だって先週は全然二人で居るところを見なかったから」


「あぁ、実はな……」


 英司は高城に事の経緯を説明する。

 ちなみにここまで俺は一言も発さずスマホを見ていた。

 てか、そんなことを高城に話さなくても良いだろ……流れで「じゃあ私と友達になる?」とかなったらどうする!

 こんな学園カースト最上位の女子と友達なんかになってみろ!

 絶対に面倒だぞ!

 しかもこの高城は気遣いの出来るメチャクチャいい子だ、クラスで「みんなでカラオケ行こうぜー」とかなって、呼ばれていない奴が居たら絶対にそいつらを自分から誘うような善人だぞ!

 そんな善人ほど面倒な奴は居ない!


「え? そうなの?」


「あぁ、それでこいつに今、どんな奴と友達になりたいか聞いてたんだ」


 俺がそんなことを聞いている間に英司は高城に話し終えてしまった。

 頼む、社交辞令とかいらないからな!

 絶対にあのワードはだすなよ!


「じゃあ、私と友達にならない?」


 あぁ~出っちゃったよぉ~悪魔の言葉がぁ~。

 きっと彼女は善意で言っているんだろうけど、俺みたいな根暗でひねくれた不細工からしたら、ここまで嫌な言葉はないんだぞ~。


「え? いや、そういう気遣いは良いよ」


 ここで俺はようやく言葉を発した。


「気遣いとかじゃないよ……その……わ、私も前橋君とは友達になりたかったし……」


 なぜか恥ずかしそうにそういう彼女。

 そういわれても俺は別に友達になりたくないし……。


「おぉ良かったじゃないか圭司!」


「お前はおかんか。悪いけど俺の友人枠は一つだけだ」


「だからさっさとその枠を増設なり広げるなりしろ! せっかく高城が言ってくれてるのに失礼だろ!」


「い、いや……別に私は……」


「あ、馬鹿! 高城が泣いちまうだろ! お前、高城泣かせたらこの学校のほとんどの男子から恨まれて報復されるぞ! お前の言う面倒なことになるぞ!」


「なに!? た、高城! すまん謝る!」


「じゃ、じゃぁ私と友達に……」


「それは嫌だ」


「どんだけだよ……お前」

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