家具選びの楽しさ

「前とおなじとこでいいか?」

「せっかくですから、家具の専門店に行ってみませんか? 他にも色々見られますよ」

「そうだな。そうしようか」


 買い物を口実にしたデートなのだから、他に繋げやすいショッピングモールにしておこうかと思ったが、期待に満ちた吉乃の提案に乗ることにした。

 あとは、前と同じ場所というのはあまり良くなかっただろうかとも思った。前回から期間は空いているし吉乃は全く気にしている様子も無かったが、これは響樹の問題だ。次からは意識しておこうと思う。


 こんなやり取りの末、学校帰りに制服のままやって来たのは家具の量販店。歩くには少し遠い距離だったので、バスを使った。

 広い駐車場付きの店舗は二階建てで、響樹が想像していた家具の他にも家電なども豊富に取り揃えていた。


「システムキッチンなんかもあるんだな」

「ショールームのようですね」


 少し驚いたように笑う吉乃だが、視線の具合からすると興味があるようだ。彼女の部屋もシステムキッチンなので今すぐ欲しいという訳ではないだろうが、料理好きからすると惹かれるものがあるのだろう。


「時間あるし、二階に上がる前に見てくか?」

「……いえ、やめておきます」


 売り場の方を見て逡巡した吉乃が響樹を見上げ、少し眉尻を下げ、そして頬をほんのりと染めながらはにかんだ。


「今は必要ありませんし、新しい物も出るでしょうから。また将来、一緒に見にいってください」

「……了解」

「今回は直接言わなくても伝わったんですね」

「そりゃな」


 必要になる将来が何年先かはともかく、どのタイミングかがわからないはずはない。

 今のところ二人がキッチンに並ぶことはほとんど無いが、そのにおいてはきっとあるのだろう。

 そんな想像をして僅かに頬の緩んだ響樹の横で、ふふっと笑った吉乃が指先だけをふれ合わせてきたので、エスカレーターで二階に上がるまでの間だけ指を絡めておいた。


 二階で目的の売り場にたどり着き、買う物はすぐに決まった。


「大きさも過不足無いですし、色合いやデザインも響樹君のお部屋に合うと思いますけど、もっと他の物も見なくていいんですか?」


 響樹が示したテーブルを見つめる吉乃が、どこか不安そうに首を傾ける。


「ああ、俺もこれがいいと思う」


 直接助言を受けた訳ではないが、吉乃が見ていたのがこれだったのだ。サイズは問題無さそうだったし、デザインの目利きは彼女の方が上だろうという信頼もある。


「もう。合わなくても責任は取りませんからね」

「合うから大丈夫だって」


 口を尖らせている割に嬉しそうな吉乃に笑って返すと、諦めたようにくすりと笑われた。


「今は構いませんけど、将来は一緒に選んでくださいね」

「了解。って言いたいところだけど、吉乃さんのセンスを信じてるからなあ」

「私に任せて家が真っ黒になっても知りませんからね」


 ならないだろ。いたずらっぽく笑う吉乃にそう心の中でツッコミを入れつつ、「夏は暑くなりそうだな」と返すと、彼女は「もう」と楽しそうに微笑んだ。


「まあでも、こうやって実際見に来たりカタログ見たりしながら、一緒にこれがいいあれがいいってのは楽しそうだよな」

「ええ。ですから、しっかりとお願いします」

「将来はな」

「はい。将来の話です」


 ニコリと綺麗に笑った吉乃が、少しずつ頬を緩ませてから表情を崩し、噛みしめるようにもう一度、「将来」と口にした。

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