試験勉強の予定と口実
響樹が学校で吉乃と昼食をともにするのは週に一度か二度。毎日でもという気持ちが無い訳ではないが、互いにクラスメイトとの付き合いもあるので、このくらいがちょうどいいのだろうとも思っている。
正確に言うと恋人と二人きりではない──そもそも衆人環視だ――のだが、互いの友人を交えた昼食は賑やかでいい。
「そろそろ中間だけど勉強会とかしない?」
賑やかな内の一人が何気なくそんなことを言い出し、もう一人が「お、いいな」と即座に賛意を示した。
「どう? 吉乃」
「はい。私も賛成です」
ニコリと笑った吉乃も同じ。普段よりも少しだけ上がった口角と僅かに細められた目元には、彼女の期待が滲んでいた。
「ファインプレーだ、優月」
「何が?」
「先に響樹に聞いてたら、『それ必要か?』とか言ったはずだからな。烏丸さんに聞いたのはナイスだ」
「あー。天羽君は言いそう」
海と優月がけらけらと笑い合う横で、響樹に視線を送った吉乃がくすりと口元を押さえた。半眼を向けると、少しだけ眉尻を下げた彼女の目元がごめんなさいと優しく笑んでいた。
「言わねーよ」
と口にしたものの、確かに響樹なら言いそうだと言われるのも少しだけわかる気がする。実際のところ文理に分かれた今、この四人の勉強会はほぼ必要あるまいと思う。
ただ、そんなことは二人もわかっているのだろうし、もちろん吉乃もだ。
「いいんじゃないか、そういうのも」
「じゃあ全会一致で、天羽君ちで開催決定」
「おー」
「待て待て」
開催は吝かではないのだが、その前の文言は初耳だ。別にダメだというつもりは無いが、反射的に待ったをかけてしまう。優月や海としても響樹のこういった反応は織り込み済みなのだろうし、会話のネタのつもりではあるはずだ。しかし、優月はニヤリと口の端を上げる。
「天羽君の家がダメだと吉乃の家になるけど、いいの?」
「私は構いませんが……」
吉乃も優月の表情の変化には思うところがあったのか、少しだけ首を傾げている。
「吉乃の部屋に海みたいなチャラいのが上がってもいいの?」
「おい」
「是非俺の部屋で開催してくれ」
「おい」
ニンマリと笑う優月の視線を受け、吉乃は恨めしげな目線を響樹に送ってきた。少し朱の差した頬をほんの僅かだけ緩ませながら。
◇
「テーブルどうするかな」
「確かに、四人で勉強となると少し手狭かもしれませんね」
図書室で少し時間を過ごした帰り道、勉強会のことを考えてそう呟いた。
「ピザの時でも結構狭かったからな。勉強道具四人分だと厳しいな……買うか」
「普段邪魔になりませんか?」
「折り畳み式の小さいやつ買うつもり。二人ずつで使えば足りるだろうし」
どことなく気遣わしげな吉乃に軽い調子で答えると、「そういうことでしたら」と彼女は微笑みながら顔を上げる。
「費用は折半にしましょう」
「いや……いいよ大した額じゃないだろうし、あれば便利だろうから余計な出費でもないし」
素直に気遣いを受けるか少し悩んだが、響樹の私物になる以上吉乃に金銭を出してもらうのには抵抗がある。
しかし、足を止めた吉乃は口を尖らせて響樹をじっと見つめる。繋いだ手に少し強めの力が込められた後、彼女がふっと笑んだ。現れた可愛らしい小悪魔に、響樹は既に敗北を予感した。
「テーブルがもう一台あると便利なのはどんな時ですか? 一人暮らしの響樹君が」
「あー……」
「私がお邪魔した時ではありませんか?」
「……邪魔される時なんて無いけどな」
「そうですか」
目を細めて口の端を上げた吉乃がふふっと笑い、「ああ言えばこう言うんですから」と響樹に愛らしい笑顔を向ける。
「じゃあ、半分持ってもらってもいいか?」
「ええ」
我が意を得たりと笑う吉乃に降参の意を示して歩き出して少しして、彼女がくすりと笑った。
「どうかしたか?」
「響樹君は鈍いので、直接伝えた方が良さそうだと思いまして」
「何をだよ?」
「折半でというのは、一緒に買いに出かけましょう、という意味ですよ?」
「あー」
我ながら随分と鈍いものだと、笑顔で見上げる吉乃から一瞬顔を逸らしてから戻し、見つめ合う。
「
「はい。当然です」
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