夏休み(3ヶ月以上先)のお話

「四人で夏休みどっか行こうよ」


 放課後にしか立ち入った事の無い吉乃のクラス。話があると呼ばれてどことなく居心地の悪さを感じつつの昼食時、響樹を呼び出した友人、ではなくその恋人が随分と先の話題を出した。いつも通りの随分と明るい調子で。

 もちろん響樹としては賛成である。吉乃と二人きりでいる時間は大切だが、何だかんだでこの四人で過ごす時間も楽しいのだ。特に今は響樹だけクラスが離れてしまっているので、こういう機会は一層ありがたい。


「ずいぶん先の話だな。でも楽しそうだし、俺は歓迎」

「ええ。私も賛成です」


 吉乃に対しても言っていなかったのだろうなと、優しく目を細めたその表情から読み取れた。優月らしいと言えば優月らしい。

 ただ当然恋人である海には事前に相談していたのだろうと視線を送ったが、彼はどう見ても気まずそうな顔を響樹に向けていた。理由を聞こうと口を開こうとした時――


「泊まりでちょっと遠出とか、どう?」


 その言葉と、それに対し目を伏せた海を見て、理由が分かった。そして二人の間にどんなやり取りがあったのかも、何となく察した。

『夏休みに泊りで遊びに行かないか? ………………響樹と烏丸さんも誘ってさ』と、恐らく海がそんな感じでヘタレたのだろう。


「それはますます楽しみです。ねえ、響樹君?」

「ああ、そうだな」


 友人の本懐を思えば断るべきだっただろうが、済まないと思いつつも吉乃のこの笑顔を裏切る事だけはあり得ないのだ。元はと言えば多分海が悪いのだし。


「じゃあ決まりで考えちゃうよ? 後からやっぱやめたは無しだからね」

「大丈夫ですよ。ただ、お盆は外していただけると助かります」

「了解了解。どうせその時期は混むだろうしね」

「ありがとうございます」


 優月が手帳を取り出してサラサラとペンを走らせる様子を、吉乃が楽しそうに眺めていた。楽しそうとは言っても響樹以外の人間にはそれ程分からないだろうが、以前であれば全く分からなかったのだ。いくら響樹や優月と一緒とは言え、クラスの中でそんな吉乃を表に出すという変化は微笑ましい。

 ただまあ、そんな視線を向けてしまった事で圧をかけられる結果となったのだが、これに関しては響樹以外の人間には分かるまいとやはり嬉しく思ってしまうのだ。そしてそんな響樹を見て、少し眉尻を下げた吉乃が仕方の無い人だと言いたげに僅かだけ口角を上げた。


「でもお盆以外オッケーって事は吉乃は夏期講座受けない感じ?」

「ええ、受けないつもりでいます」

「流石と言うかね……天羽君は?」

「俺も受けないから日程はいつでもいいよ」


 去年は参加した学校主催の夏期講座だが、今年の響樹にはもうほとんど必要が無い。示し合わせた訳ではないが、二人で過ごせる時間が増えると分かったのか、吉乃がほんの少しだけ頬を緩ませた。多分、響樹の方も似たような顔をしていただろう。


「こっちもかよ」

「ねえ?」


 いつの間にか通常に戻った――フリをしているであろう――海が、恋人と同じような呆れ顔を向け合っていた。

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