07_【将軍】オライアス・アーベント
巨大な光の槍。
それが帝国軍の戦列を
右翼側に陣取っていたオライアスは、馬上でその様を見ていた。
中央には『機兵』とその随伴兵をまとめて並べており、合図と同時に全機を敵陣へ突撃させる予定だった。
将や武官などは左右に散っていたから――光に呑まれずに済んだ。
それが良かったのか、悪かったのか。
少なくとも自陣の中央は大地と一緒に消し飛ばされてしまった。
光の槍はちょっとした貴族の屋敷であれば丸呑みするほど巨大で、そしてその速度はあまりにも速すぎた。回避だとか防御だとか、そんな問題ではない。敵陣の先頭から光が見えたと思った瞬間には、自陣の中央が一直線に消滅していたのだ。
「アーベント将軍!」
消えてしまった場所を呆然と眺めていたオライアスに怒鳴ったのは、トモキだった。自分たちに『機兵』をもたらした勇者が、焦燥感を隠さず声を張っている。
「もう間違いない、あれは敵の『勇者』だ! 俺が行く!」
駆け出したトモキの姿は、あっという間に小さくなっていく。そうかと思えばその姿が光り輝き、遠近感の狂った大きさに変貌した。
勇者専用の魔甲機兵を召喚したのだ。
他の兵たちが使っている『機兵』よりもはるかに高性能な専用機。勇者以外に扱えないのは、操縦する際に必要な魔力が多すぎるせいだ。
どうっ、と地を踏み、『機兵』が跳ぶ。いや、それは飛ぶと表現した方が正確だ。実際、勇者の専用機は着地せずに平原を飛んでいる。
「ぐ……ぅ!」
どうする? 兵を動かすなら、恐慌状態に陥ることすらできていない今この瞬間しかない。オライアスの武官としての経験がそう囁く。
トモキが『敵の勇者』を討ち取るなら、軍は前進させておく必要がある。間を置けばトモキ以外の『機兵』を失ったこちらが不利になるからだ。そしてなにもせずに間を置いてしまえば、どう考えても全軍が恐慌状態に陥るはずだ。そうなっては軍を動かすことができない。
トモキが『敵の勇者』を討ち倒したとしても、こちらの軍が動けないのでは進軍も制圧も叶わない。
オライアスは知っている。
召喚された勇者は、別に戦いなど好きでもなんでもないということを。あの少年は戦いなど知らぬ場所で生まれ育った民間人だった――それを戦場へ連れ出し、仲間をつくらせ、失わせ、戦いから離れるという選択肢を奪っていったのだ。
トモキ・ワタナベをここまで連れて来たのは、自分たちだ。
ただの民間人だった少年に勇者の看板を張り付け、引くに引けない場所まで追いやった。殺した敵、失った仲間、断たれた大義、そしておそらくは……帰るべき元の世界。それらがトモキを進ませている。
罪悪感、義務感、使命感、そして勇気。
――勇者。
「全軍突撃の鐘を鳴らせ! 今すぐにだ! 我々の部隊が先陣を切るぞ!」
そうしないと誰も動かない。
怯え竦んでいた愛馬の手綱を引き、指揮の鐘を鳴らすための兵へ檄を飛ばす。オライアスの怒気は半ば反射的に兵を動かし、突撃の意味を持つ鐘が叩かれた。
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