第22話 強くなりたい

 投げつけられた枕を正人は正面から受け止めると、まだまだだなと愛理に優しく投げ返した。愛理はうるさいと歯を出して正人に言うと、そのまま布団を被って寝ようとし始める。


「いじわる! 寝る!」

「愛理—まだ寝るなよー。 今から医師の方から説明があるから」


 その言葉を聞いた愛理は、すぐさま起き上がって話を聞く態勢にした。


「もぉー! 聞くわよ! お願いします!」

「分かりました。 愛理さんの治療は完全なわけではないので、一週間入院していただく間に毎日回復魔法による治療と、漢方による治療をします。 これによって残っている痛みや内臓のダメージが治っていきます」

「本当ですか! ありがとうございます! やっと完全に治るわ! 早く学校に行きたいなー」


 そう言われた愛理は、もうすぐ身体が治ると嬉しそうにしていた。その愛理の顔を見た医師は、運ばれた時より元気になってよかったと嬉しそうにしていた。


「治療をしていただきありがとうございます! 何から何まですみません」


 愛理は頭を医師に向けて下げた。医師はこれから入院生活だけど、いい機会だから色々楽しんでくれと愛理に優しい口調で言う。


「はい! 退屈だと思いましたが、いい機会なのでゆっくり楽しみます!」


 その言葉を聞いた医師はよかったと嬉しそうにし、ありがとうと愛理に言う。


「私感謝されることを何かしましたっけ?」

「君と同じ学校に通っている、私の息子を救ってくれていたんだよ」


 愛理が小首を傾げていると、医師が私の息子を救ってくれたと言う。医師の息子は愛理と同じく星空魔法学院に通っていて、あの場にいたらしい。


 愛理は知らず知らずのうちにたくさんの命を救っていたようで、愛理はこれからも自分の命を大切にしながら救っていきたいと感じていた。愛理は私の戦いで、救えて良かったですと笑顔で返した。


「私の戦いで救えていた人がいたのなら、嬉しいです。 私の戦いは無駄ではなかったんですね」


愛理の返答を聞いた医師は、ありがとうと再度言い、入院中やこれから先君が怪我をしてここに来た際には、全力をもって治すと約束してくれた。


「君がこれから怪物と戦って傷ついたらいつでもきなさい。 私が必ず治すよ」

「愛理はあの戦いで、大きく成長したな。 人を守りたいとの思いを忘れるなよ」

「うん! ありがとう! ちゃんと忘れないでいるわ!」


 正人のその言葉に楓はそうねと同意をした。しかし、もうあんな戦いに身を投じて欲しくないとも愛理に言う。すると正人は、そうだなと返して怪物が現れたことを呪った。


「確かに俺も戦わないでと思うが、愛理が大切な人達を守るためなら仕方がないと思っている」

「そうね……愛理が守りたいなら仕方がないわね……」

 

 正人と楓は二人で愛理が守りたいためなら仕方がないかと決めた。だが、無理をし過ぎて欲しくないとも言う。

「うん。 そこは守るわ。 だから心配しすぎないでね」


 愛理達が話していると日が暮れ始めていた。正人達は帰るねと愛理に言った。愛理はもう帰っちゃうのとブーイングを飛ばすも、正人がこの病院は遠いからと言ってその言葉を聞いた愛理は、なら仕方ないわねと返した。


「愛理、また来るね! おとなしく入院してなさいよ。 おとなしくよ!」


 葵はそう言って部屋から出て行った。正人達も葵に続いて愛理に言葉をかけていくと、広い個室に愛理一人となってしまった。


「私はもっと力を使いこなして、強くなりたいな……葵も家族もみんな守れるように強くなりたい!」


 愛理はそう呟くと左側を向いた。左側には小さな机が置いてあり、その机の上に自身の魔法書を置いていた。誰が置いたかは分からないが、ありがとうと思いながら魔法書のページを一枚ずつ捲っていく。すると、新しい魔法が浮き上がっていることに気が付いた。


「こんなに新しい魔法が! あの怪人と戦ったからかな……」


 愛理は浮かび上がっている魔法を読み進めることにした。新たなページを読み進めると、読める文字と読めない文字があることに気が付いた。読める文字はライトブラストやライトバニッシュしか読めず、読めない文字の魔法は五つあった。


「読めないほうが多いじゃないの! どういうことよ!」


 愛理は魔法書を布団に置いて、天井を見上げた。そして数分後に再度魔法書を読み始めて、ライトブラストとライトバニッシュを覚えることにした。


「なになに……ライトブラストは小さな光の塊を数十個飛ばして相手を足止めする魔法っと……威力は弱い!? ダメじゃないそれじゃ!」


 頭を抱えて喚くと、愛理は次にライトバニッシュを見ることにした。


「ライトバニッシュは相手に弱い衝撃破を浴びせる魔法であると……この魔法は実戦で使えそうね……う~ん……でも弱い衝撃波かぁ……」


 愛理は魔法を発動はしないが、イメージで使った場合の想定をし始める。魔法を発動する際のポーズや自身の動きや魔法の連携を考えていた。そんなことを考えていると夕食の時間になり、看護師が運んできてくれた。愛理はやっとご飯だと喜んでいると、その量の少なさに驚いてしまう。


「おかゆに鮭だけ!? もっと食べたいよ!」


 愛理が文句を言うと看護師の女性がまだ内臓が痛んでますし、消化がいいもので量はまだ多く食べれませんと一蹴されてしまった。


「わかりましたぁ……」

「今はこれだけで我慢してくださいね。 いずれもっと食べれるようになりますから」


 看護師言われた愛理はそう言ってお腹を大きくならせながら、おかゆを食べ始めた。 おかゆを食べた愛理は、すぐ食べ終わってしまったので物足りなさを感じていた。


「絶対この物足りなさは嘘じゃない! 全然足りない!」


 愛理は夕食が乗せられている可動式の机に突っ伏して、何か食べたいと呟いている。突っ伏しながら愛理はスマートフォンを操作して葵にお腹空いたとメールを送ると、葵からハンバーグの画像がすぐに送られてきた。


「葵いいいいいいいいいいいいいいいいいいい! ハンバーグだなんて羨ましい! こっちはおかゆと鮭だけなのに!」


 愛理はガッデムと一言だけ返信すると、葵から笑っている顔文字だけが送られてきた。


「葵いいいいいいいいいいいいいいいいいいい! 絶対に美味しいの奢ってもらうわよ!」


 愛理は机に突っ伏しながら葵の名前を叫ぶと、大笑いし始めた。


「まさかこんなに笑うなんて思わなかったなぁ。 葵と話すと本当に楽しいわ」


 愛理は笑いながらこの葵とのやり取りが面白いと感じていた。魔法学院に入学して怪物との命がけの戦闘があったものの、葵や学友との出会いは大切なものだと感じていた。愛理が微笑しながら笑っていると、突然部屋の扉が開いた。


「だ、誰!? 突然誰なの!?」


 愛理が開いた扉の方を向くと、そこには星空校長が立っていた。腹部を切り裂かれて重傷なはずだったのに、病室の入り口に立っていることが信じられなかった。


「何で校長先生がここに!? てか、怪我は大丈夫なんですか!?」


 愛理は突然の星空校長の来訪に驚きを隠せなかった。愛理の怪我は大丈夫かとの質問に、星空校長は回復魔法ですくに治したと返答した。


「回復魔法ってそんなに早く治りましたっけ……」


 自身が受けた回復魔法とは違うのかと思いながら、星空校長だからかと納得することにした。 星空校長は、愛理の右側にある椅子に座って、愛理に話しかける。


「怪物との戦闘を君一人に任せてしまって申し訳ない。 私が弱いばかりに切り伏せられてしまった……」


 椅子に座りながら愛理に向けて頭を下げると、愛理はそんなことありませんと身を乗り出しながら言った。


「校長先生のせいじゃありません! 私の力不足もありましたし、特殊魔法部隊の人達との協力もあって切り抜けることができました! 怪物と怪人は私一人じゃ倒せませんでした!」

「確かにみんなで戦ったが、君と葵君がシンといった怪人を食い止めていたからでもある。 誇っていいよ」


 愛理は自身の力だけではないと星空校長に言うと、君の力のおかげでもあると言ってくれた。星空校長は、愛理の胸の部分に右手の人差し指を向けた。


「私の胸ですか?」

「違う違う。 君の体から出現した奇跡のような剣だよ」


 愛理は自身の胸に手を当てて言うと、違うと星空校長は言い白い剣だよと言った。


「戦闘の終盤で、君自身から出現した白い剣のことだよ」


 白い剣と聞いた愛理は、今の今まで剣のことを忘れていた。そう言えば出現してたと口を大きく開けて思い出したと叫ぶ。愛理は自身の身体から出現した武器である白い剣のことを思い出し、あの時はどうやって出現させたのか愛理は思い出せななかった。

「私はあの時どうやって出現させたんでしょうか? 全く思い出せません……」

「君のあの奇跡ともいえるあの白い剣があれば怪物や怪人にとって脅威となる武器となるだろう」

「はい。 あの武器が自由に出現出来るようになればみんなを守れる!」


 あの武器を再度出現させることが出来れば、これからの怪物との戦闘が格段に優位に立てると思った。


「星空校長はあの武器のことを知っているのですか?」

「全く聞いたことがないな。 あの武器は不思議なことばかりだ」

 

 その言葉を聞いた星空校長は、私も聞いたことがないと言う。


「教科書にも載っていなくて、ネットにも情報がないんです……逆に怖いです……」

「私も聞いたことがないな……体から出現するその不可思議な武器についてだが、調べるのであまり使用しないでほしい。 何が体に起きるか分からないからな」


 そのことを言われた愛理は、気をつけますと返した。愛理は武器の出し方そのものが分からないので、もし出してしまった際はどうしたらいいですかと聞いてみた。


「その時はその時だが、剣が出現したと言うことは君が危機の時だと思う。 なので、その武器を使用して生き残ってほしい。 必ず生き残るんだ」


 生き残ってほしい、そう言われた愛理は分かりましたと意思を込めた声で言うと、お互いにもっと強くなろうなと星空校長は言ってくれた。


「はい! もっと強くなりたいです!」

「私も協力は惜しまないよ」


 愛理の意思を聞くとその魔法書に浮かび上がったであろう魔法を覚えていって、剣も扱えるようにしていこうなと星空校長が笑顔で愛理に言う。その後数分間、星空校長と談笑をしているとそろそろ時間だなと自身の左腕に付けている時計を見て言う。


「君の武器のことを調べるために研究機関に行く予定でね、こちらで失礼するよ」

「はい! ありがとうございます!」


 そう言いながら椅子から立つと、ゆっくり静養するんだよと愛理に言いながら部屋を出ていった。


「まさか校長先生が来るなんて驚いたなー。 私はまだ強くなれるし、葵や校長先生と一緒に強くなるんだ!」


 そう決意をすると、寝るかと布団を被って寝始めた。寝るときは寝ようと決めていた愛理は、そのまま熟睡をしてしまう愛理は寝た際に夢は見ずにそのまま朝まで寝続けて、朝の回診に来た医師に起こされた。


「もう朝ですかぁ……もう少し寝させてください……」


 そう言いながら布団を被って再度寝ようとすると、医師に布団を剥がされて起きてくださいと言われた。


「はぁい……」


 目を擦りながら起き上がると、目の前にいる医師に目や喉に心拍数を計られた。愛理はされるがままにされていると、回診が終了と同時に朝食が運ばれて来た。朝食はおかゆに鮭と同じような料理であったが、愛理は意外と美味しく感じてきたわと言いながら食べ進めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る