第21話 秘めていた想い

 愛理はそのニュース番組の司会者やコメンテーターの喋っている言葉を聞いて、否定的な意見や自身を肯定してくれる意見もあって様々だなと顔をしかめっ面にして聞いていた。


「あの戦いで私は何かを守れたのかな……死ぬことも恐れないでただ守りたいと思って戦って、私は守れたのかな……」


 愛理は俯きながらあの戦いは頑張ってよかったのかなと、戦闘を思い返しながら考えていた。すると、部屋の扉が勢いよく開いてそこから愛理のおかげで私たちは生きているんだよと大声を発しながら葵が入ってきた。


「私があの人型の怪人に殺されそうになった時に愛理が助けてくれたから今の私があるの! それに他の生徒や教師の人達、特殊魔法部隊の人達も愛理が戦ってくれたから生きているんだよ!」

「葵……ありがとう……そう言ってくれて嬉しいよ!」


 葵はベットに横になっている愛理に近づく。愛理は葵のその言葉を聞いて、葵に笑いながらありがとうと返した。


「葵の言葉で少し救われた気がする……私は戦って良かったんだね」

「うん……そうだよ! 愛理が戦ったから皆が救われたんだよ!」

「ありがとう! 私はもっと強くなって守るわ!」


 そう言う愛理に葵が抱き着くと、奏が小走りで二人に抱き着いた。


「私……お姉ちゃんが戦っている姿を見て最初気絶しちゃったの……でも、気が付いてテレビ中継をもう一回見たらお姉ちゃんが決死の覚悟で傷だらけになっても戦っている姿が映ってて……私悲しかったけど、嬉しかった!」

「奏……ありがとう! 奏も応援してくれていたんだね! 皆がいるから私が私でいられるんだね!」


 奏は思っていることを愛理に言うと、愛理は葵と奏にありがとうと何度も言った。その様子を見ていた楓は、良い友達が出来て良かったと涙目になっていた。


「星空魔法学院に進学して良かったわね……良いお友達も出来たようだし……」


 涙を流しながら愛理達を見ていた楓は、ハンカチで涙を拭きながら教師との話を進めていた。それから数十分が経過すると、正人が戻ってきた。


「愛理はこれから一週間入院するみたいだ。 服や必要なものを家から持ってくるよ」


 正人はその言葉を部屋にいる全員にすると、愛理はそんなに入院するのと驚いた。葵はあんな壮絶な戦いだったから仕方ないよと愛理に言っていた。


「ありがとう……でも、もうそんなに身体痛くないんだけどね……普通に動けるし」


 愛理は自身の身体をペタペタと触っていくと、不意に腹部と右腕に激痛が走った。愛理はその突然の痛みに呻き声をあげて体を丸めてしまった。


「大丈夫!? まだ全快したわけじゃないんだから、ゆっくり体を癒して!」


 葵が愛理に注意をすると、奏も本当だからねと言って葵の言葉に賛同をした。その言葉を言われた愛理は、ごめんねと言って静養することに決めた。


「じゃ、一度私たちは家に戻るから愛理はおとなしくゆっくりしてなさいね」


 楓は教師との話が終わったようで、一度家に帰ると愛理に言った。楓は続けて、正人が言ったように服や必要なものを取りに帰ったらまた戻ってくるからねと付け加えて正人達全員と共に部屋を出て行く。


「またねー待ってるよー!」


 部屋に一人残された愛理は、突然寂しいと感じ始めていた。 一人残された愛理は、孤独は怖いなと呟いた。


「葵ちゃんと奏に言われたけど、やっぱり少し自分を責めちゃうよ……」


 もっと良い戦い方なかったのかなや、私の戦いで傷つけちゃった人いるのかなと考えていた。すると、愛理の側にいつの間にか置いてあった自身のスマートフォンに葵から一通のメールが届いた。愛理はそのメールを見ると吹き出してしまう。なぜなら、そのメールには私たちがいなくなったからって自分を責めてないかと書かれていた。


「やっぱり葵ちゃんは私の一番の友達だね。 考えていることが筒抜けみたいだよ」


 愛理は悲しい気持ちが晴れて、葵と話しているといつから葵ちゃんは愛理って呼び捨てにしたのかなと微笑していた。


「私も葵ちゃんじゃなくて、葵って呼ぼうかなーその方がもっと仲良くなれそう!」


 愛理がそう考えていると、突然眠気が襲てきてしまう。愛理の身体は愛理が考えている程に回復はしておらず、先ほどの痛みも完治していない証拠であった。


「急に眠気が……やっぱりまだ体が癒えていないのかな? 完全に体を治さない……と……」


 考えている途中で眠くなってしまった愛理は、ベットにゆっくり倒れてそのまま目を閉じて寝てしまった。愛理は寝ている最中、自身のイビキによって目が開いた。


「んあっ!? あ、私のイビキか……イビキをするほど疲れてるのかなー。 自分では気が付いていないけどってことなのかな?」


 体を起こして愛理は周囲を見渡すと、そこには楓と奏に葵が側の椅子に座っていた。愛理が起きたことを楓が確認をすると、おはようと優しい口調で話しかけられた。愛理は急に体に力を入れて起き上がろうとしたので、腹部の激痛を感じて体曲げて痛いと小さく呟いていた。


「あ、愛理! 大丈夫!?」


 愛理の側に葵がすぐさま駆け寄って、横になろうと言いながら愛理の体を支えて横にさせた。


「ありがとう、葵。 少し動いたら体に痛みが……」


 愛理がちゃん付けで呼ばずに葵の名前を呼ぶと、葵がやっと呼んでくれたと嬉しそうに笑っていた。


「やっと名前で呼んでくれたね!」

「葵が先に愛理って呼んでくれたから、私も呼ぼうと決めたの」


 二人して見つめ合って笑っていると、奏が恋人同士かと突っ込みを入れた。


「違うわよ! 何言ってるの!」


 奏はそう言われると、笑ってジュース飲もうと言って部屋の冷蔵庫に向けて歩いて行った。奏は緑茶のペットボトルを三本取り出して、自分のと愛理と葵の分をもって愛理のベットの側の椅子に座った。


「はい、お姉ちゃんが好きな緑茶だよ」


 そう言われてた渡された緑茶を、愛理はありがとうと言って飲み始めた。緑茶を一口飲むと、愛理は美味しいわと恍惚の表情を浮かべた。


「愛理に何かあったら緑茶を渡せば元気になるのかな?」

「え!? そんなに元気になってた!?」

「うん! 超元気だったよ!」


 葵がクスクスと小さく笑っていると、奏が大体そうだよと笑いながら言う。すると、愛理はそんなことないわよと恥ずかしそうにしながら緑茶を飲み進めていた。


「皆がいるから今は平気だけど、帰ったら暇すぎて退屈なのよ」

「そんなに退屈なの? テレビ見たりスマーフォンを見ていればどう?」

「それも飽きるわ」


 愛理が葵と奏に愚痴を言うと、二人は一人の方が好き放題できていいじゃないと笑っていた。


「そうだけど、ちょっと寂しくてね。 友達と話していたほうが楽しいわ」


 空笑いをしながらいう愛理の顔を見た葵は、私は他の学校の友達もいるから一人じゃないよと抱き着いた。愛理は葵を強く抱きしめ返して、一人は怖かったと呟いた。


「怖かった……怖かった! あの人型の怪物と戦った時、すぐ逃げたかったけど、皆を守りたい気持ちの方が勝ってて……戦えるのは私しかいないと思って必死だった! お腹貫かれて燃えるような痛さでも、ここで倒れたら葵や皆が殺されちゃうと思って戦ってた!」

「うん……」

「お姉ちゃん……」


 愛理の秘めていた言葉を聞いた葵と奏は愛理がどんな思いで戦っていたか、一人になることを辛さをあの戦闘で感じていたかを二人は知った。愛理の気持ちを知った二人は、愛理の顔を一瞬見つめると泣き始めてしまった。愛理が強がっていたことやそんな思いで戦っていたのかと知れたことが嬉しかったようである。


「お姉ちゃんがそんなことを思って戦っていたんだね……その気持ち凄い嬉しい! でも、これからはそんなに思いつめないで、自分の命を大切にして!」

「そうだよ! 愛理は自分の体も大切にして! じゃないと私達が悲しむわ!」


 そう言った奏は、愛理の両手を掴んで自分を大切にしてと再度言った。葵は、愛理にもう無理させないように私も強くなると愛理に話している。


「愛理だけにもう苦労させない! 私も隣で戦えるようにする!」

「ありがとう葵! でも、私に言ってくれたように自分の体を大切にしてよね!」


 葵は強く愛理に抱き着くと、苦しいよと愛理が葵の背中を叩いていた。そんな三人の様子を正人たちは微笑ましそうに見ていると、奏がお母さんたちがいるんだったと思い出した。


「愛理は良いお友達を持ったわね……嬉しいわ……」


 突然楓に話しかけられた愛理はハッとした表情になり、お母さんもいたんだったと顔をゆでだこの様に赤くしてしまった。


「俺達もいるぞ」


 その言葉と共に部屋に入ってきた正人を見た愛理は、お父さんもなのと布団を頭から被って悶えていた。


「俺以外にも医師の人もいるけどな」


 追い打ちをかけた正人に向けて、愛理は自身の側にある枕を投げつけた。

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