第20話 暗い世界と目覚め
正人達が医師達と話している時、愛理は暗闇の中で一人で佇んでいた。暗い世界にいる立っている愛理の目の前にに淡い光を放ちながら小さな女の子が突然現れた。
「 戦いに勝ったのに、落ち込んでいるの? どうして?」
「突然現れて誰なの? 女の子?」
愛理の腰辺りまでの高さの身長をしている黒髪で長髪の女の子は、愛理を見上げる形で話しかけていた。話しかけられている愛理は、数秒の間沈黙をしていると静かに口を開けて私はと話し始めた。
「私は必死で戦ったけど……怪物を倒しきれなかったし、さらにその怪人が進化して襲ってきた! 私は戦ったけど倒せなかったことで傷ついた人がいた!」
頭を抱えて愛理が叫んでいると、小さな女の子はあなたが思っている程に、お友達は気にしていないんじゃないと返してくる。それに対して愛理は、私はみんなを救いたかったと呟いていた。
「たとえ、あなたが負けたから救われないと言うわけじゃないよ。勝手も救われない友達もいるし、負けて救われることもあるよ」
その言葉を聞いた愛理は顔を目の前にいる小さな女のに向けて、その顔をジッと見てみた。愛理が見た小さな女の子と顔は幼少時代の自身の顔に似ているように見えた。
「あなたは……もしかして……」
「それはいずれ分かるわ」
愛理が小さな女の子の名前を呼ぼうとした瞬間、自身の周囲が次第に明るくなって体が宙に浮かぶ感覚を感じ始めた。愛理の体が宙に浮いていると、どこからか先程まで目の前にいた小さな女の子の声が聞こえてくる。
「これからあなたの人生は良くも悪くも変わり始めるよ。でも、それに潰されたり、甘んじたりしないで前に進んでほしいの。 そうすればあなたの未来は明るくなるわ」
「わかったわ。 私はあなたの言葉を信じて、前に進み続ける! 潰されたりしないようにしていく!」
その女の子の言葉を聞きながら愛理は頑張るわと大声で女の子に向けて叫んだ。そして愛理の姿がその場から消えると、愛理がいた地面と思わしき場所に小さな女の子が移動をした。
「黒羽愛理さん……あなたの頑張りに未来の平和がかかっているの……私一人の力じゃ人類を守れないし、人類の歴史は途絶えてしまうわ……」
愛理と話していた時の無邪気な笑顔は感じられず、その顔を強張らせていた。
「現実世界で会うにはまだ時間がかかるけど近い未来では必ず会えるから、その時には……」
最後の言葉は小さすぎて聞き取れない大きさだったが、女の子にとっては大切な事柄であるようである。愛理にとっては夢の中にいた小さな女の子であるが、女の子にとっては愛理はキーマンであり、女の子の目的には欠かせない人物であるようである。
「また会おうね。 それまで死なないでね……あなたが死んだら世界が終わるわ…‥」
その言葉と共に女の子の姿は掻き消えるようにその場から消えた。そして、愛理が病院に運ばれてから三日目の夜、正人が部屋に入ると楓と奏が先に部屋内の椅子に座っていた。
「先にいたのか。 飲物を買ってきてあるけど飲むか?」
「ありがとうお父さん……お姉ちゃんが心配で夜も眠れないよ……」
「奏が倒れたら愛理が怒っちゃうわよ」
愛理の手術が成功し回復魔法と外科手術によって安心できるまでに回復しているが、一向に意識だけが戻らない。楓と奏は眠り続ける愛理の身体を拭いたり、汗で濡れた服を着替えさせたりしている。また、時折来てくれる同級生や教師達の相手をしていた。
「いつもありがとうございます。 先生達もお忙しいのに……」
楓と正人が面会に来てくれた教師に挨拶をしていると、ふいに愛理が寝ているベットの方から声が聞こえた。
「愛理!? 愛理の目が覚めたの!?」
楓と奏がすぐに愛理の横に駆け寄り、愛理の名前を呼び続ける。正人はすぐにナースステーションに走り、愛理の目が覚めたことを伝えていた。そしてすぐに医師と看護師が愛理の部屋に入り、愛理の名前を呼んで簡易的な検査を始める。
「意識が戻ってます。もう安心していいと思います」
「本当ですか!? よかったぁ……」
「お姉ちゃんの意識が戻ったぁ……うぅ……」
医師の安心していいの一言を聞いて、楓と奏が泣きながら目覚めたばかりの愛理に抱き着いた。愛理は意識が戻ったばかりで、目の前がぼやけているので未だに状況が見えていなかった。次第に目の前の景色が見えてきた愛理は、両親と奏が泣いて自身にしがみついている姿が見えた。愛理は何が何やらとこの状況が分からないまま、抱き着かれている状況を続けていた。
「愛理……意識が戻ってよかったぁ……」
「お母さん……体が痛いよ……強く締めすぎ……」
楓が泣きながら愛理の名前を呼び続けていると、奏もお姉ちゃんと涙と鼻水を垂らしながら抱き着いている。その姿を見ていた正人達は、良かったと思いつつも今後のことを話し始めることにした。 正人は医師と話してくると言って部屋から出て行き、教師達は楓を一度なだめて、今後の学校生活のことを話そうとしていた。
「お母様、一度こちらで今後のことをお話ししましょう」
一人の男性教員が楓に言うと今言わなくてもと一人の女性教員が声をかける。しかし、今話しましょうと楓は男性教員の言葉に賛同した。
「長くて一か月程度の入院だとお聞きしましたので、その間の学業のことですが」
「はい。 それは分かっています。 その間の学費のことは一応承知をしております」
楓と男性教員はベットとは真逆の位置にある、小さな丸い椅子と丸い机に座って話していた。男性教員は数枚の紙を広げて、学院の復興計画などを話し始めた。楓は学院の復興計画を聞いて、愛理が入院しても授業に遅れることはないと安心していた。その代わり、他の生徒達と同じようにプリント学習にて毎日勉強することはあると教えられた。
「学院復興に二週間かかりますので、その間は他の生徒と同じくプリントにて勉学に遅れがないようにします。続いて学院が復興した後は、通常の授業となりますので、そこは愛理さんは公欠ということにしますので、出席日数などはお気になさらないでください」
そう言われ、楓はありがとうございますと返した。楓は愛理の出席日数が気がかりであったので、その心配をする必要がないことは嬉しかった。奏はお姉ちゃんが怪物を退けたんだから、もっと良いことあってもいいじゃんと口を尖らせながら言っていた。
「それとこれは別なのよ。少しでも愛理にとって良いことがあるならそれで今は良いのよ」
楓のその言葉に、奏は今はそれでいいかと呟く。そして、奏はお姉ちゃんが生きていれば今はそれでいいやと声を上げて喜んでいた。その様子を見ていた愛理は、状況が勢いよく過ぎていくので疲れたのかテレビの電源を入れてニュース番組を見始めた。
「あ、怪物のことやってる。あの戦闘テレビで中継されてたんだ」
愛理が怪物との戦闘のことをテレビで見ていると、レポーターの人の言葉や愛理や葵、校長先生が戦っている時の周囲の反応や興奮して喋っているレポーターの人の言葉を聞いて、あの戦闘がここまで人に影響を与えていたんだと改めて感じていた。
「結構鮮明に映ってるわね。 うわぁ……私の顔がドアップで映ってるし、刀を刺された場面まで映ってる……」
ニュース番組にて愛理と怪物との戦闘映像が流れていると、司会者やコメンテーターたちが思い思いの言葉を発していた。子供が戦っているのに大人は何をしているのかやこれが魔法学校に入ったばかりの子供の力なのか、もっと後ろから攻撃をしなきゃなどの言葉を発していた。
「しかし、なんで怪物があの魔法学校に現れたのでしょうか? そこが不思議ですね」
「そこは一向に分かりませんね。 怪物がどこから来るかも解明できていませんから、ある種の自然現象みたいなものですよね」
その言葉を司会者が発するとそこは国や特殊魔法部隊に調べてもうしかないと言い、最近怪物の出現が激しいので何か対策を考えなければいけませんねとも言っている。
「それにしても子供一人でここまで戦うなんて、この少女の精神力は凄まじいですね」
一人の年老いた女性コメンテーターが言うと、絶光を放っている姿の愛理を動画で映していた。片手で絶光を放って人型の怪人を攻撃している瞬間を見て、スタジオにいる全員がその愛理の傷だらけの姿と何度も倒されても守ると叫んで戦う姿を見て涙を流す人もいた。
「この少女は何でここまで傷だらけになってまで戦っているんでしょう……一人では何もでいないのに、何が彼女をそこまで立たせるのか……」
若い男性コメンテーターは、愛理がそこまで立って戦う理由が分からないでいた。しかし司会者の男性が友達や教師達、自身の守りたいものを守るために力を振り絞っていたのでしょうとコメントをしていた。
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