第16話 忍び寄る死
愛理の放った絶光を両腕の刀で人型の怪物は防いでいた。愛理の絶光を防いでいる人型の怪人は少しずつだが、後ろに下がるほどに押されつつあるようであった。
「まだ……まだ負けない! 私はお前を倒す!」
愛理は前に少しずつ進みながら、絶光を放ち続けている。その攻撃を防ぎ続けている人型の怪人は、足に力をいれて前の方に進み始めていた。
「コノ攻撃ハモウキカナイゾ」
「そんなことないわ! 絶対にこの攻撃で倒す!」
愛理の絶光では腕を吹き飛ばすことや体に傷を付けることも出来ない。だが、人型の怪人は防御をすることをやめて愛理の絶光を体で受け止めながら前へ歩き続けていた。
「そんな!? 私の絶光が全く効果がないなんて……!」
愛理は絶光を放ちながら顔を歪め、私の攻撃が効果がないと唖然とした顔をしていた。しかしその言葉と同時に、私が負けたら葵や皆が殺されちゃうと何度も呟いていた。
「私が負けたら、皆が殺されちゃう! 私は負けない、負けられないんだ!」
愛理はそう叫びながら、左手を前に出して両手から絶光を放ち始めた。人型の怪人はまさか両手で絶光を放つとは思わなかったのか、一瞬驚いた顔をしていたがその攻撃さえも体で受けても消滅はしないと感じたのか、攻撃を受けながら愛理のもとに歩くのを進める。
「オマエのこうゲキはキカない! 何をシテもムダだ!」
「そんなことはないわ! 私が倒さないと! 私が倒さないといけないんだ!」
愛理は両手で放っている絶光にさらに力を込めて、出力を上げることにした。しかし、それでも自身の魔法では人型の怪人にダメージを与えることは未だに出来ていない。その愛理達が戦っている最中、戦闘の様子がテレビ中継をされていた。
愛理の戦う姿や、葵や特殊魔法部隊との戦いもテレビ中継をされていたようである。怪人の脅威や、特殊魔法部隊でも苦戦をしている怪人との戦いが放送されている。また魔法学校の生徒が戦っている姿が中心に全国放送されており、その苦戦する姿や、怪我を負いながらも戦う姿を見ていた視聴者は涙する人達で溢れたという。
「頑張れ! 負けるな!」
「あんな子供が一人で戦っているなんて……死なないで!」
「特殊魔法部隊は何をしているんだ!」
多くの人達がテレビ中継を見ながら言葉を発していた。愛理は自身の姿がテレビ中継をされていることや、泣いている人がいることなど知る由もない。それでも愛理は今自分に出来ることとして、目の前の人型の怪人を倒したい、倒して皆を救うんだということしか考えていなかった。
「これでもダメなの!? なら、私の魔力を全部持っていって! 怪人を倒す力に変えて!」
魔力をすべて使う覚悟で絶光を打ち続けていると、次第に出力が上がったのか、人型の怪人の歩くスピードが遅くなってきていた。
「ワルアガキをしたところで、お前はココデシヌんだ!」
「死なない! 私は皆を救うまでは死なないわ!」
一歩ずつ愛理のもとに歩いていた人型の怪人は、ついに愛理の目の前に到着をした。
「キたぞ。 メのまエにキたぞ!」
「くぅ! 攻撃が効果が少ない!」
絶光を受けながらも微動だにせずに愛理の前に立ち続ける人型の怪人は、表情一つ変えずに、右腕の刀で愛理の腹部を貫いた。愛理の腹部が刀によって貫かれた姿を見た葵や他の生徒や教師達は愛理の名前を叫び、特殊魔法部隊の人達は守れなかったと嘆いていた。
「オまエのカラだはヤワらカイな。 オまエタチはイチげきデシぬカら、よワいナ」
「がふ……痛い……刺された場所が熱い……」
テレビ中継を見ていた視聴者達は愛理の刺された姿を見た瞬間、一様に悲鳴をあげたり、特殊魔法部隊のことを非難していた。愛理の戦いを見ていた家で見ていた楓はき愛理の名前を呼んで泣き叫んでいた。奏は学校にて愛理の学校に怪物が侵入したことを知り、教室のテレビにて戦いを見ていた。その際に戦闘の映像で愛理の腹部が人型の怪人に貫かれたことを見てしまった。
「いやああああああ! お姉ちゃあああああん! お姉ちゃんがああああ!」
「奏ちゃん落ち着いて! 奏ちゃん!」
奏が愛理の名前を何度も叫んでいると、そのまま気絶をしてしまった。気絶をしてしまった奏を友達や教師が支えて、保健室に連れて行った。
「奏ちゃんのお姉ちゃんなら絶対大丈夫だよ! お姉ちゃんを信じて!」
奏が気絶をしている最中、友達の女の子が必死にお姉ちゃんなら大丈夫だよと声をかけていた。
「黒羽さん! 娘さんがいる学校に怪物が出たらしいぞ!」
「えっ!? 本当か!?」
正人は仕事中に上司から娘が通っている学校に怪物が侵入したこと聞かされ、休憩室にあるテレビの電源を入れた。その画面には愛理の戦う姿や、友達を想って避難させたり自身が戦って時間を稼ぐ姿が映っていた。
「愛理が必死になって戦っている……友達のために戦ってる……」
正人は愛理が立派になったと感じていた。しかし愛理が腹部を刀で貫かれた瞬間に正人はテレビ画面を掴んで、愛理と大きく叫んでその場に泣き崩れてしまった。
「愛理いいいいい!」
「黒羽さん! 落ち着いて!」
「落ち着いていられるか! 娘が……娘が腹部を刺されて血を吐いているんだぞ!」
その場にいた男性が正人を落ち着かせようとしていた。正人の叫び声を聞いた同僚や上司の二人が駆けつけて何があったかと聞くと、テレビ画面に映る少女が腹部を貫かれている姿を見て、娘さんかと上司は恐る恐る聞いた。
「そうです……娘の愛理です……」
正人はその問いに、娘ですと答えた。同僚や上司はどうやって声をかければいいか分からなかった。正人が再度叫びながらテレビ画面に張り付いていると、同僚と上司が二人で正人の両腕を掴んで一旦落ち着いてと言った。
「落ち着いていられませんよ! 娘が……娘がぁ……」
「落ち着け! お前が取り乱してどうする! 娘さんは守るために怪物と戦っているんだぞ!」
正人は地面に崩れて、泣いてしまっている。上司は正人の同僚に飲み物買ってくるから、正人を見ててやってくれと伝えて一旦休憩室を出て行った。
正人がその場に崩れていると、上司が戻ってきてその右手にコーヒーを一缶握っていた。上司は正人を同僚と共に起こして椅子に座らせると、右手に握っていたコーヒーの缶を正人に渡した。
「少しは落ち着いたか? コーヒーでも飲むといい」
「ありがとうございます……娘の愛理が腹部を貫かれていて、取り乱してしまいました……」
「俺も自分の子供が戦っていたら、お前と同じようになっていたと思うさ」
「ありがとうございます……少し落ち着きました……」
正人のその言葉を聞いた上司や同僚は、自分の子供が怪物と戦って傷ついて死にそうになっていれば取り乱すのも無理はないと思っていた。
そして、テレビ中継をしていたレポーターの女性が腹部を貫かれた女生徒を救うために特殊魔法部隊の人達や、教師達が人型の怪人に向かって行きますと叫ぶ。
「今まさに特殊魔法部隊の人達が少女を救うために動き出しました!」
その言葉を聞いた正人は、再度テレビ画面を見つめる。中継には倒れて血を腹部から流し続ける愛理を守りながら、特殊魔法部隊の人達が戦う姿が映っていた。
「血を流している少女を庇いながら、数人の特殊魔法部隊員が戦っています!」
傷ついている愛理に特殊魔法部隊の女性隊員が近づき、仰向きにさせて貫かれた腹部に治療魔法をかけ始める。
「もう大丈夫よ! よく頑張ったわね、今治すからゆっくり体の力を抜いて!」
「あ……ありがとうございます……ぐぅ……」
愛理は痛みに苦しみ、貫かれた痛みで苦痛で顔を歪ませていた。正人は苦痛で顔を歪ませる愛理の姿を見ると、自身が代わりに痛みを受けてやりたいと思っていた。すると、テレビ画面が突如特殊魔法部隊の方に移行すると教師達が吹き飛ばされており、特殊魔法部隊の全員も地面に倒れていた。
「特殊魔法部隊の人達も倒れてる!? 一体何があったんだ!?」
「専門の人達もやられている!? それ程にあの人型の怪人は強いのか!?」
正人や楓、奏などの家族がテレビ中継で戦闘を見ているとは知らない愛理は、目の前で特殊魔法部隊の人達や教師達が地面に倒れている姿を見て、どうすればあの怪人を倒せるのかと唇を噛んで考えていた。
「動かないで! 応急処置が終わっていないから!」
「でも! 今動けるのは私しか!」
「まだ治療は終わっていないのよ! 今動いたら治療の意味がないわ!」
身体を動かそうと考えていた愛理は、治療をしてくれている特殊魔法部隊の女性隊員に怒られていた。
「動かないと……私が動かないと……あの怪人を止められない……」
「あなた一人が戦っても何も変わらないわ! 特殊魔法部隊に任せて!」
愛理がそう呟いていると女性隊員が一人で抱えないでと宥め、特殊魔法部隊に任せておいてと言った。しかし、愛理は皆が倒れているじゃないと女性隊員を睨みながら返す。
「学生のあなたが気負う必要はないわ! さっきまでの戦いで充分よ! 特殊魔法部隊を舐めないで!」
「ご、ごめんなさい……」
その言葉を聞いた愛理は、謝りつつ確かに学生だけどと落ち込んでしまっていた。その時、愛理と女性隊員のいる場所に人型の怪人が走ってきた。女性隊員はその場で防御魔法を展開し、愛理と自身を守るために力を籠めた。
「逃げて! 応急処置は途中だけど、もう動けるはずよ! 自分の命を大切にしなさい!」
そう言われた愛理は、その場から逃げるために走り出す。しかし走り出した瞬間、後方から悲鳴が聞こえたので振り向いた。
「ど、どうして! なんで!」
「私のことはいいから……逃げて……」
すると、そこには腹部を切り裂かれた自分を治療してくれた女性隊員が血を吹き出しながら地面に力なく倒れる姿を見てしまった。その女性は愛理に早く逃げてと力がない声で言い続けていた。
愛理はその姿を見ると、また私のせいでと自身を責めてしまう。しかし、先ほどの女性隊員の気負う必要はないとの言葉を思い出し、このまま逃げてしまおうと言葉に従おうと思うが愛理は足を止めて違うと小さく呟いた。
「違う、違う、違う! 私しか今動けないんだ! 私があいつを倒さないと!」
愛理はそう叫び、人型の怪人がいる方向を振り向いた。愛理が振り向いた先にいる人型の怪人を睨むと、絶光を右手で放ちながら人型の怪人に向かって走っていく。
「ソンな攻撃、モウキカナイぞ! オまエはヨわい! オレよりシタだ!」
「それでも! 私は立ち向かわないといけないのよ! たとえ弱くても!」
怪人は防御をすることなく愛理の攻撃を受けてながら、軽く笑いつつ愛理のもとに歩いて行く。
「ヨわいヨわいヨわい! そンなコウげきはコウかガナイぞ!」
その歩く姿は、愛理を弱いと決めつけて自身には傷もつけれないと確信をしているようである。愛理はそれでも私はと叫びながらフライの魔法を使って人型の怪人を飛び越えた。
「葵ちゃん! 槍を貸して!」
「分かった! 使って!」
そう葵に叫ぶと、葵は持っていた槍を人型の怪人の背後にいる愛理に投げ渡す。その槍を受け取った愛理は、人型の怪人の背後から槍で貫くことに成功をした。
「これでどうよ! 少しは効果があったかしら?」
「マまさカ……ソんナコウげきヲするナンて……」
愛理は微笑をしながら、これでどうかしらとさらに槍を押し込んでいく。人型の怪人は呻き声をあげながら右腕の刀を地面に刺して、倒れそうな体を支えていた。
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