第15話 隣にある死

 葵は自身の身体から出現した綺麗な槍に驚くも、その槍を右手で掴んで構えることにした。葵から出現した槍は柄の部分は金属で作られており、その色は白と青を螺旋状に巡らせている。また、先端部分は剣のようになっているようでその先端部分は青白い色をしていた。


「これは……私の体から出現した……? 不思議な綺麗な槍……持っていると心が落ち着くわ……」


 突然自身の体から出現した槍に驚くも、その槍を掴んでいる右手に良く馴染む感覚があった。葵が掴んでいる槍は、柄の部分が五十センチに先端部分は三十センチ程の長さをしている。


「この槍ならば……怪人を倒せるかもしれない! 行くわよ!」


 葵のその姿を見ていた避難している生徒達や、怪人と戦っている教師達は、あの武器は一体何なのかと疑問に感じていた。しかし葵はその槍を握った瞬間に、この武器が自身の力の具現化だということやこの武器は目の前の不思議な人型の怪物を倒すことが出来ると、なぜか葵はそう感じていた。


「そのブキはナンだ! オマエの身体からシュツゲンシタ、そのブキはナンだ!」

「そんなの教えるわけないでしょう! この武器で私は救うんだ!」

「そんナことヲさせルわけガないダロウ!」

「私がこの武器であんたを倒すのよ!」


 人型の怪人は葵の持つ武器に怯えているようであったが、それでも両腕の刀を構えて葵を殺そうと刀を振り下ろそうとする。


「もう怖くない! もう怯えない! 私は大切な友達を……守る!」

「そんなブキでやらセるモノか! オレはシなナイ!」


 人型の怪人は両腕の刀を駆使して葵に攻撃を仕掛け続ける。しかし、葵は槍の先端や柄の部分で華麗に人型の怪物の攻撃を捌いていた。


「いける! この武器と私なら人型の怪物を倒せる!」

「チョウシに乗るな!」


 先ほどまでの葵とは違いその目に怯えは感じられない。葵は大切な友達を守るために命を懸ける覚悟で戦っていた。葵は槍を駆使して人型の怪人を攻撃を防ぎながら腕の隙間などを狙って突き攻撃をしている。突きをしたかと思えば足元を狙ったり、槍で足払いや切り裂きなどを行っていた。


「このまま倒す! 絶対に倒すの!」


 そう叫びながら、槍を振り回して人型の怪人に攻撃をしていく。すると人型の怪人は大きな声で笑い始めた。葵は突然笑い出した人型の怪人の不気味さに顔を歪めていた。

「ハハははハハはははは!」

「突然笑い出して、何よ! 何がおかしいの!?」


 葵が槍を人型の怪人に向けながら何なのよと言うと、人型の怪人が武器を手にしても弱いなと言った。 その槍を手にしても扱いきれておらず、宝の持ち腐れだとも言う。

「お前はタカらの持ち腐れだ! ブキをアツカえてイナい!」

「宝の持ち腐れ!? これは私から出現した武器よ! 扱えているはずよ!」


 槍を構え直すと、校門の方から私達が相手をすると複数人の声が聞こえていた。その声は少し前に海岸で怪人を倒した特殊魔法部隊の声に聞こえた。


「特殊魔法部隊だ! これで助かる!」

「来てくれたんだ! 怪物を倒してくれる!」


数人の生徒達は助かったと安堵をしているが、教師達はそうでもなかった。自分達がこれほど相手をしているのに特殊魔法部隊の人達が加わっただけで倒せるのか不安を感じていた。


「生徒や教員の皆さんはすぐにここから避難してください! 後は我々が戦います!」


 特殊魔法部隊の一人の男性が、声を上げて叫んだ。その声を聞いた生徒達や数人の教職員達はすぐにその場から退避をしていく。切り裂かれて倒れていた星空校長は、女性の教員に回復魔法をかけられながら二人の男性教師の肩に手を回してゆっくりと学校外に向かって歩いていた。


「先生無事だったんだ! 良かったぁ……私も気合を入れないと!」


 校長先生が生きてたと葵は安堵をし、特殊魔法部隊の人に向かってあそこに倒れている私の友達も助けてあげてくださいと叫んだ。すると、一人の女性隊員が地面に倒れている愛理を見つけてすぐさま回復魔法をかけ始めた。女性隊員によって愛理の傷が徐々に治っていくと、愛理は目を薄く開けて目を覚ました。


「うっ……葵ちゃんは……どこ……」


 痛む身体に鞭を打ち、震えながら立ち上がると、葵が槍を手にして人型の怪人と対峙をしている姿が見えた。


「葵ちゃん……!? なんで怪人と戦っているの!?」


 愛理は痛む体に鞭を打って立ち上がると、女性隊員に無理しないでと腕を掴まれてしまった。


「離してください! 私の友達があそこで戦っているんです!」

「それでも! あなたの体はもうボロボロよ! 今すぐに避難をして!」


 愛理のその言葉を聞いた女性隊員はすぐにあの娘も避難させるからと愛理に言い、避難を早くと声を荒げて言った。


「私は逃げられません! 葵ちゃん! 負けないで!」


 愛理が葵の名前を叫ぶと、その声が聞こえたのか愛理の方向を向いた。声を聞こえた先に愛理が立っていることを見た葵は、良かったと胸を撫で下ろした。


「私は無事だから! 葵ちゃん負けないで!」


 愛理は女性隊員に連れられながら、葵に対して負けないでと叫び続ける。しかし、葵は皆が逃げるまで特殊魔法部隊の人達と一緒に戦うと槍を構えていた。


「私は特殊魔法部隊の人達と、皆の避難が終わるまで戦うわ!」


その葵の言葉を聞いていた特殊魔法部隊の隊長と思われる三十代の筋骨隆々の短髪の男性は、葵に対して無理はするなと話しかけた。


「はい! 死にたくないですから!」

「まずいと思ったらすぐに逃げるんだぞ」


 その言葉を短髪の男性が葵に言うと、葵は槍で人型の怪人の足止めに専念することにした。葵は短髪の男性と共に人型の怪物の相手をしており、他の隊員達は生徒と教員達の保護やもう一体の怪物と戦っていた。星空学園高等学校に救援に来てくれた特殊魔法部隊は十人であるが、今の現状を打破するには心許ないと葵は最初に感じていた。しかし、横にいる短髪の男性やもう一体の怪物を相手にしている隊員達を見ていると、十分な数であったのだろうと感じ始めていた。


「この人数でも充分倒せそうね! 怪物なんてすぐに倒してやるわ!」


 葵は短髪の男性と共に人型の怪物との戦いが始まり、葵も短髪の男性と共に攻撃を繰り出す。葵は槍で攻撃を繰り出し、短髪の男性は拳に魔力を纏って攻撃を何発も繰り出していた。短髪の男性は、人型の怪人の両腕の刀での攻撃を掻い潜り、腹部や脇腹に拳にて打撃を与えているようである。


「す、すごい……あの人型の怪人を圧倒してる!?」

「私くらいになれば、これくらい当然さ」


 葵はその短髪の男性の攻撃終わりに、突きや切り裂きをしようと近づいた。しかし、葵の槍での攻撃はことごとく人型の怪人に防がれ、避けられてしまう。その姿を見た短髪の男性は、葵に何か魔法での支援攻撃はないのかと話しかける。


「すみません……有効かと思われる魔法は修得してません……」

「なら、君はもう避難をするんだ! お友達はもう避難したみたいだぞ!」


 その言葉を聞いた葵は、もう避難をしていいと考えた。葵は心の中で私はまだ役に立たないし、この槍も上手く扱うことが出来ないと落ち込んでしまう。


「分かりました……愛理ちゃん達と一緒に避難します!」


 そう言い、槍を右手に掴みながら愛理達の方に走っていく。避難する葵の姿を見た短髪の男性はそれでいいと呟き、拳に再度力を込めて人型の怪人と対峙をする。


 葵が愛理達の方にもうすぐ到着をするという瞬間、背後に悪寒を感じたので後ろを振り向く。すると、葵のすぐ後ろで短髪の男性の腹部を貫きながら人型の怪人が突進して向かってきている姿が目に映った。


「た、隊長さーん!」


 愛理が葵の背後に迫っている人型の怪人を見て、気を付けて叫ぶ。葵自身も背後の悪寒に気が付いて振り向いていたので、自身に差し迫った死を感じていた。


「黙ってやられるわけにはいかないわ!」


 身体を捻って、槍を人型の怪人の腹部に突き刺した。その攻撃を見た短髪の男性は、自身の腹部を貫いている刀を掴んで右足で人型の怪人の腹部を蹴ることで吹き飛ばすことが出来た。


「だ、大丈夫ですか!? 凄い血が出てますけど……」

「だ、大丈夫だ……このくらいの傷どうということはない……」


 左の脇腹を押さえながら、短髪の男性は大丈夫だと息を切らせながら言う。愛理はその二人の様子を見て私は何もできないのかと悔しく感じていると、頭の中に無機質な言葉が語り掛けてくる感じがした。


「この声は……友達を思う心が、新たな力を呼び起こすって……どんな力よ……」


 痛む頭部を押さえながら、頭の中に浮かび上がった呪文を唱えようとする。愛理はふらつきながら立ち上がると、葵と短髪の男性に避けてと叫ぶ。


「愛理ちゃん! 無理しちゃダメだよ! 何をするつもりなの!」


 葵が話しかけると、何かやろうとしているんだろうと短髪の男性が葵の左手を掴んでその場から離れようとしていた。


「この魔法は星空校長が使用した魔法と同じね……この魔法で人型の怪人にダメージを! 絶光!」


 愛理は右手の掌を人型の怪人に向けると、星空校長が放った魔法と同じ絶光が放たれた。人型の怪人は目を見開いて驚くも、両腕の刀をクロスして絶光を防ごうとしていた。

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