ダウン
彼の前で。
わたしが全てを懸けて救った相手の前で。
ごはんを食べる。ラーメン。
おいしい。
彼がいれば。何を食べてもおいしい。彼のためなら、私は何でもできる。
彼を救うために、わたしは。世界の半分ぐらいを。切り捨てた。
わたしにとっては、彼が世界の全てで。彼がいないという世界は。考えられない。
「あ、総務」
彼。餃子をもぐもぐしながら、ぼうっとしている。かわいい。
一旦ラーメンのスープを飲んでから。
「総務。見てください」
あえて箸で、テレビのほうを指す。きっと行儀良くしなさいって言われるだろうなあ。
「箸で物を指すのをやめなさい」
「へえい」
このやりとりさえも。二度と戻らない。大切なものに、思える。
世界滅亡時計。残り零点零零零一秒を指しているらしい。
合ってる。
わたしは。
世界のために。というより、目の前の彼のために。世界の半分を捨てた。
そして世界から、過去が、失われた。
目の前のラーメン。
もともと人間は、四次元の生き物だった。時間軸も移動できて、たとえばこのラーメンだって、食べ終わってから時間を戻してまた食べたりもできていた。しんでも好きなタイミング、好きな時間軸で復活できた。人間はもっといたし、資源は無限大だった。
でも。
その次元の間で、彼だけが虚無に飲み込まれたから。だから。わたしは、世界の半分を差し出した。人間は三次元の生物になり、過去が失われた。世界の半分が。
それでも。彼がここにいることのほうが。どれだけ大切か。どれだけ、うれしいか。
生きよう。もう戻れない世界を。彼の隣で。
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