カウントダウン、ダウン
春嵐
カウントダウン
世界滅亡へのカウントダウン。
終末の予言、世界崩壊への序曲、みたいな番組や本。
いい気なものだと、思う。
なぜ誰も、すでに世界が滅亡していることに、気付かないのだろう。
もともと世界は、もっと広かった。人はもっと多くて。資源はもっと無限にあった。それを覚えている人間は、いない。
「総務。見てください」
部下。勢いよくラーメンをすすり上げながら、箸で飯屋のテレビのほうを指す。
「箸で物を指すのをやめなさい」
「へえい」
部下。メイクしていない、それでも、張りのある綺麗な顔。凄まじい勢いでラーメンをすすりまくっている。これが、メイクをして取引先の前ではものすごく綺麗な人間に変貌する。そして、男女問わず、絶大な人気で簡単に外注を取り付ける。結局は、顔が資本の仕事。
滅亡した世界の中で。彼女だけが、何も知らずに笑っている。その笑顔が。彼女の存在が、自分にとって救いだった。彼女の明るさの前では、どんな事実も、滅亡した世界さえも、霞んでしまう。
自分は、単純に顔が普通だからという理由で上司をやっている。仕事は本気を出せばかなりできるが、これ以上昇進すると面倒なのでそこそこにしていた。中間管理職なので、こうやって現場に出ることもあれば、研究所に籠って研究の手伝いをすることも。とにかく、業務幅が広い。いつか、滅亡した世界を救いたいと、思う。そのための仕事。
「世界滅亡時計、ねぇ」
部下が箸で刺したテレビ。世界崩壊まであと残り、零点零零零一秒、らしい。
「ばかだな」
「いいじゃないですか。緊張感があって」
「どんな緊張感だよ」
もうすでに、世界は滅亡しているというのに。
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