第3話 山田羊子③
「そのあとはただただ泣きました。五郎先生はどうしたと心配してくれていましたが、ただ泣いて首を振る以外には出来なかった。何か言ったら余計に自分が惨めになるような気がして……。受け取ったプレゼントを突っ返して布団に潜ると五郎先生は部屋を出ていきました」
「亡くなってから、彼に会いに行かなかったのですか?」
「はい。自分から五郎先生に会いに行くつもりはありませんでした。ただ五郎先生を思い出す時に気がつくとあの病室に来てしまってました。会いたくないのに会えるかもしれないと期待する自分が嫌だったんですけどね……。まあ五郎先生にとっては私なんて患者の1人ですから、死んだ後は思い出しもせずにいますよ、きっと」
「どうでしょうかねぇ。話を聞くと、先生もあなたに恋愛感情ではないにしろ、患者以上の気持ちを持っていらっしゃったとは思いますが……」
「もしそうなら、それはきっと……妹のような存在としてです。私は……妹なんて嫌だった…………女性として見られたかった、そんなふうに思ってしまうんです。病弱でなんの取り柄もない私が好いてもらえるはすがないことはわかってます。自分勝手な欲です。きっとこの気持ちが、私をこの世に留めた理由なんですよね」
「そうですか……。五郎先生への気持ちと欲が、うまく消化しきれずに強い心残りとなってしまったのでしょう。でも本来恋愛なんてものは自分勝手な欲そのものですよ。私が好きになったから、相手にも私を好きになってもらいたい。こういうことでしょう?それがたまたまお互いに好きになって結ばれる、その後だってああして欲しいこうして欲しい、ああしたいこうしたいの欲のぶつけ合いですよ。お互いに求めるものが合致してれば長続きってだけで」
「そういうものなんですね……」
「とはいえ私も経験はなく、あくまでも皆さんの話をまとめると、こういう結果になったと言う意味でお話ししました」
爽やかな笑顔で言うので可笑しくなって思わず声を出して笑った。
「ではやることは決まりましたね」
「なにがですか?」
「いや、ですからその欲を五郎先生にぶつけるんです!」
「ぶつけるってどうやって?私もう死んでますけど……」
「ええ、ですから五郎先生の夢に入るのです。一晩だけの特別な夢ですよ」
「夢に入るなんて出来るんですか!?」
「はい、出来ますよ。そのためにわたくしどもがおります。始めにも申した通り、
「ちょっと色々情報が多すぎて理解が追いつかない……」
夢に入るだなんて急に言われて、はいそうですかとすんなり理解することは難しいだろう。
私はすっかり頭の中がパニックになってしまったが、とりあえず気になる事を聞いてみる。
「あの、同時通信ってなんですか?」
「何人かと1つの夢を共有する感じですね。ですが万が一誰かが目覚めてしまったらもうそこで終了になります」
「相手が目覚める場合って例えばどういう時ですか?」
「そうですね……例えば相手がこれ以上だと死んでしまうような時とか、体調が急激に悪くなったりですかね」
「死んでしまうって……夢なのにですか?」
「ええ、ショック死みたいなものとかですかね。あまり強い刺激だと危ないですね」
「怖いですね……」
「まあ本当によっぽどの事がない限りは大丈夫ですよ。相手も現実ではない事はわかるでしょうし」
さらっと笑顔で怖いことを言うので、聞いてるこっちが怖くなって顔を青くする。
「まあ結構恨みを持ってる人はやりがちなんですよ。ただその場合恐怖で目覚めることが多いのであまりおすすめはしませんがね。入った人の思い描いた情景になるんです。どんな場所でも、どんな物でもあなたの思うままに出来ます」
「思うままに……」
「はい。ただしお相手の意思はどうにも出来ません。入るときは相手と情景を思い浮かべて下さい。時間は限られてますので先に考えてから入るのでもいいし、いきなり夢に入るのでもいいしよくお考え下さい。チャンスは1回1時間まで。くれぐれもそれをお忘れなきように」
「もし、入って心残りを晴らせなかった場合どうなるんですか?」
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