第13話:第1章-10

「……だれに聞いたの?」

「誰に聞いたと思う?」

 みが逆に腹立たしい。

 ──魔法剣とは武器に属性魔法をし、こうげき力をやく的に向上させるわざのことだ。

 習得すると、つうの武器では攻撃が通らない強大なじゆうにもたいこう出来るようになる。

 りゆうあく、年老い力を増した魔獣などの上位種との長い長いとうそうの果てに、人が編み出した接近戦の術こそ魔法剣であり、上級前衛職が習得するとう術なのだ。

 私の目標──ぼうけん者の高み、第一階位へとうたつするにはひつとなる技。

 第八階位にしようかくしてから、私は魔法剣を習得しようと努力してきた。

 だけど、そのかりすらいまだに得られていない。

 ……誰も知らない……エルミアにだって、まだ話してはいないのにっ!

 黒髪の青年が私を評する。

「君は少しびし過ぎだね。魔法剣や気闘術は習得に時間がかかるんだ。そのせいでほかないがしろにすると、全部台無しになる」

「っ……! なら、どうすればいいって言うのよ!」

「その助言がしいから、今日ここに来たんじゃないのかな? エルミアに聞いていた君の性格からして、普段は『はい教会に育成者が住んでいる』なんてうわさ、本気にしないだろう?」

「…………」

 そういう気持ちがなかった、とは言わない。

 うわさばなしを信じた訳じゃなかったけど、今は何にでもすがりたいというのが本音だ。

 けど……剣をひきさやもどし、問う。

貴方あなたに師事すれば、私は成長出来るって言うの?」

 青年は眼鏡めがねを取り、布できつつうなずく。

もちろん。そうだね、第五階位にはあっと言う間に上がれるんじゃないかな? 僕はわらぶねでもなければ、どろぶねでもない。実績もあるし」

「……じようだんとしては度が過ぎてるわね」

「冗談のつもりはないよ。君にはらしい才能がある。それをみがかないのは余りにもしい。どんなに良い原石も、磨き方だいかがやき方が変わるのだしね」

 何のてらいもなくそう話す青年。本気みたいだ。

 ……ほんと、何者なのだろう、こいつは。

 どうして、会ったばかりの私をここまで評価してくれるのだろう。

 両親も、親族も、血のつながった人達は、誰一人として、私を信じても、まして、背中を押してなんか、くれやしなかったのに。

 私は、ずっと、ずっと、ずっと一人で……これから先も、一人で……強くならないといけないのに。

 青年はテーブルに両ひじをつき、にこやかに告げた。

「ま、そう深刻に考えなくてもいいよ。ひとずおためしでどうかな? 最近は余り教えていなかったけど、何せエルミアのすいせんだ。あの子が、わざわざ僕に人をしようかいするなんて、滅多にないんだよ? 何年りだろうなぁ……おくにある限り、サクラ以来かな? その前だと、ハナとルナだし」

「サクラ? ハナとルナ?? ……エルミアの推薦???」

 私は思わず言葉をり返す。

『サクラ』『ハナ』『ルナ』。

 この名前……確か冒険者ギルドの報告書で読んだ……まさか、ね。

 私は立ったまま珈琲カップを手に取ろうとし──青年が新しく淹れ直してくれた。

 一口飲み、おずおずとたずねる。

「……『サクラ』って、【盟約の桜花】の団長さんじゃない?」

「ん? 知ってるのかい?」

「……じ、じゃあ『ハナ』って、めい最強クラン【の庭園】団長……【かいじんじよ】?」

「そうだね。数ヶ月前、迷都へ行ったら副長のタチアナもずいぶんと成長していたよ。異名は何だっかな? 確か【とう】──まぁ、彼女については、僕はほとんかんしていないけど」

「……………」

 意識が遠くなる。

 三人共も現冒険者の頂点とも言えるけん、魔法士、たて役だ。

 そんな人達の師であり、関係者!? この青年が!?

 残っていたショートケーキをぎよう悪いけれど大きめに切り、ほおる。

 ここまで来たら、最後の一人についても聞かないといけない。

「…………『ルナ』って【てん】の……?」

 いや、まさか、ね。流石さすがにそんなことは。

 けれど、青年はカップと皿を重ねつつ、あっさりと頷いた。

「そうだよ。今じゃ僕よりもはるかに強くなっちゃったね」


 ──【天魔士】


 それは、魔法士の頂点にして至高の存在だ。いうなれば……大陸最強後衛のしようごう

 もう、訳が分からない。

 そうこうしている内に、くろかみの青年はつえを置いたまま内庭に出て行き、私を呼んだ。

「さて、腹ごなしに戦でもしてみようか。君の実力をもう少し見せておくれよ?」

 ……落ち着いて、落ち着くのよ、レベッカ。

 この男が何者かは分からないけど、取っ掛かりが欲しいのは事実だし、コツだけ聞き出してみて、それが有効ならかせばいいじゃない。

 エルミアも、私を気にかけてくれてたみたいだし。……推薦って何よ。事前に言ってくれてもいいのに。

 心中ではくはつ美少女に文句を言いつつ、私も広い内庭へ。

 だんを背にし、黒髪眼鏡の青年と少し距離をおいて相対する。

 すると、青年はふところからペーパーナイフを取り出した。

「……何のつもり?」

「全力で攻撃してきてくれていいよ。ああ、花達が可哀かわいそうだし、けんだけでね。魔法しようへきを張らせたら君の勝ちだ。なお、僕は動かないし、直接はんげきもしない」

「へぇ……めてくれるじゃない」

 ぎしりし、剣を抜き放つ。

 めいだけれど、実家を飛び出して以来、私を支えてくれた愛剣をそんなペーパーナイフで受けようなんて……痛い目を見させてあげるっ!

 ──風がき、せいじやくが私達の間に満ちた。

「行くわよっ!!!!!」

 私はさけぜんけい姿勢でしつそうし、間合いを一気にめる。

 そして、地面すれすれから、逆ななり。

 普通なら、この一撃でうでまで持っていける。

 ──が、

「!?!!」「おっと、危ない」

 私の斬撃はあっさりと青年にはじかれた。うそでしょ!?

 それでも、ねあがった剣を続けざまにり下ろしたのは、幼いころから延々としてきた訓練のたまものだった。上段からの全力斜め斬り。

 激しい金属音。

 愛剣が悲鳴を上げ、いつの間にか、い黒に染まっているペーパーナイフに再び弾かれた。しつこくの小さないなずまが周囲に飛び散る。

 かみなりの、魔法剣!?

 青年は左手で眼鏡を直しながら、賞賛してくる。

ごと! 正統レナント王国流けんじゆつの連続技だね」

「くっ!!!」

 これは模擬戦だ──という考えがなくなり、至近距離でようしやなく斬撃を繰り出す。

 が──駄目。ことごとく防がれてしまう。まるで、全部先読みされているかのように。

 どうよこぎが逆手に持ち変えたペーパーナイフで受け止められ、青年をにらみつける。

「思ったよりもずっと練り上げられている。レベッカはな子なんだね」

「舐めない、でっ!!!!!!」

 叫びつつ後退し、剣を真正面に構える。

 ……この男、私よりも遥かに強い。おそらく、私の父よりも。

 でも、私は負けられないっ! 負けられないっ!!

 地面を強く強くり、身体強化魔法を全力発動。過去最高速で連続きを放つ!

 私の愛剣をペーパーナイフがあっさりとげいげきすべて受け流していく。

「ん~? 普通の連続突きだとつまらない。ちゆう、途中でざんげきを交ぜ──」

「これでっ!!!!!!」

 青年のてきが終わる前に、剣をかせ突きから斬撃へ変化させる。

 これは──かわせない。

 ちがいなく胴をげる。けるためには障壁を張るしかない。勝った!


 ──次のしゆんかん、私の愛剣は黒電を放つペーパーナイフによって、ち切られていた。


 けんしんが空をい地面に落下。突きさる。

 ……嘘、でしょ……?

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