第8話:第1章-5

「しまえないのが、私の悪いところ、ね」


 今、私の目の前には廃教会がある。

 確かに古びてはいるが、思ったよりもボロボロじゃない。

 でも、見たところ屋根もこわれているし、しき自体は大きいみたいだけどこんな所に人が住んでいるわけ?

 びついて壊れている表門のアーチをくぐり、敷地内に入る。

 まだ真昼。……お化けの気配はなし。

『エルミアせんぱいが廃教会の中に入って行くところまでは確認が取れています』

 ジゼルの言葉を思い出しつつ、教会のとびらをそっと押す──開いてる。

 のぞいてみると中は意外なほど、広かった。

 割れたステンドグラスから十分な光が入ってきて明るい。

 少なくとも見えるはんにはひとかげはなし。気配やりよくも感じない。

 木製のベンチがいくつか置かれている。

 一番前のそれには毛布? ……はっ!

「まさか、あのメイド。さぼってここでひるを?」

だんは奥で昼寝してるよ。それはこの前、エルミアを見張っていた冒険者君の持ち物じゃないかな?」

「ああ、なるほど。ここで見張りを──……」


 ん? 私は今、だれと話しているの?


 ゆっくりと後ろを振り返る。

 すると、おだやかに笑う、小さな眼鏡めがねをかけた細身の青年が立っていた。

「やぁ、こんにちは」

「…………」

 青年は軽く左手を上げてきた。

 見たところ二十代前半。大陸ではきわめてめずらしいじゆんすいな黒髪。背はやや高めで、黒のほうと中には白いシャツを着ていて、手には食材が入った大きなかみぶくろかかえている。せんとうする意思はなさそうだ。

 それにしても何時いつの間に……。

 警戒する私に対して、ほがらかに問いかけてくる。

「買い物で外へ出てみたら、こんな可愛らしいお客人とそうぐうするとは。さて、僕に何かようかな?」

 いきなりの遭遇にどうようする。とりあえず、なおに回答。

「ギルドからのおつかいで……」

「お遣い?」

「え、ええ。宛名はちがうけど……これ、貴方あなたあてなの?」

 布袋から小箱とふうとうを取り出し、見せる。

 青年は私に近づき、困った表情をかべた。

「こういう品を持ってくるのは、あの子の仕事にしているんだけど……。まさかこの仕事さえも人に任せるなんてね。今度、おきゆうをすえないといけないかな?」

「? オキュウ???」

「ああ、こっちの話。助かったよ、ありがとう」

 青年がにこやかに答える。

 ……なんか変なやつだ。調子がくるう。とっとと帰った方がいいわね。

 封筒と小箱を見せる。

「はい、これ。後でめるのはいやだし、紙にサインをくれない?」

「ちょっと待ってね」

 男はがいとうのポケットやふところをまさぐり……困った顔。申し訳なさそうな声で告げてきた。

「ごめん、手元にペンがないんだ。中でするよ。お茶も飲んでいくといい」

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