第7話:第1章-4

「…………帰るわ」

 きびすを返して外へ。

 すると、少女は受付わきから飛び出して行く手をはばんできた。

 げんなりしながらも顔をジゼルに向けると、思ったよりもしんけんな表情。

「レベッカさん……もしかして、これを単なるおつかい、だれにでも出来ること、と思って、なめていませんか?」

 珍しくいどみかかってくるかのようなこわいろ。私はたずねる。

「……違うわけ?」

「違いますっ! これはあの先輩が……すきあらば私に仕事を押し付けて、決まった仕事を持たないあの先輩が、誰にもわたしてない仕事なんです!」

 ……、なるほど。つかれているのね。

 私はこの少女と出会って以来、一番やさしく声をかける。

「……分かったわ。今度、たっぷりとを聞いてあげるから」

「! え? レ、レベッカさんが依頼の件以外で私とお話をしてくださるんですか!? うれし──もしや話をらそうとしてます?」

「…………」

 私は思わず視線を逸らす。

 思ったよりも気付くのが早い。でも……確かにちょっと気になる。

 エルミアは、基本仕事をしないことで名を馳せている。

 それでいて、ギルド内では謎の権力を持っていて誰も逆らえず、冒険者でもないのに、やたらと強い。

 一度、迷都からやって来て事情を知らない第四階位がジゼルにからんだ時、たたきのめしたのには、せんりつを覚えたものだ。

 ──そんな、辺境都市の冒険者ならば誰しもが知っている、あの胸無しチビハーフエルフが渡さない仕事?

 年上の少女が説明を続ける。

「先輩はこの件について、何一つ教えてくれません。聞こうとしただけで、わ、私の昔の失態を西都の両親へ一つずつ手紙で……うぅぅ……。わ、私だって、羽目を外す時があるんですっ!! ま、毎回、毎回、お酒で先輩や、ギルドの人達にめいわくをかけてなんていないんですっ!? ひどいと思いませんかっ? 思いますよねっ!?」

「……貴女あなた、またお酒飲んだの?」

「…………そ、その、ほ、ほんの少し。ギルド内の食事会の最初に、き、気持ちだけ……」

 ジト目で見やると少女はこつに視線を逸らした。こう見えて、この子はさけぐせが悪く、しかもぐせもある……らしい。エルミアに聞いた。

 め息をき、首をる。

「……何回目なのよ? で、分かってることは?」

「そ、そんなに飲んでないですよっ!? あ、はーい」

 話をどう修正して元に戻す。少女もせきばらい。

「こほん。分かっているのは二つだけ。まず、品物と封筒が先輩あてに届きます」

「届くって、から?」

「大陸各地からです」

「……はぁ?」

 まじまじと、年上の少女の顔を見つめる。ごくな表情だ。

 ……うそは言ってない、みたいね。

「帝国内だけじゃないんです。北も南も東も西も、何処からだってきます。この前は極東や南方大陸からも届きました」

「……誰が送って来てるわけ?」

「そこまでは。この封筒にもあてさきとしてうちのギルド名と、先輩の名前が書かれているだけですし。開けたら法律はんになります。何が届いているのかも当然分かりません。けど、各地のギルドが許可していますし、危険物ではない──かな、と」

「あくまでも、予想、なのね」

 置かれた封筒と小箱をしげしげと眺める。

 そこには、差出人の名前はなく、あてと一文。

『いい加減、席をゆずりなさい(具体的にはわ・た・しに!!!)』

 と書かれているだけ。

 この字と封筒、それにリボン。きっと女性ね。……席?

 小首をかしげていると、職員の少女が説明をけいぞく

「それが届くと先輩は荷物を持ってすぐ出かけられます。つい最近まで行き先は不明でした。が、秘密をどうしても知りたいというか、先輩の弱みを──こほん。先輩ともっと仲良くなりたいなぁ♪ と思った、ギルド内有志がカンパをつのり、高位冒険者さんにこうしてもらって、先日ようやく行き先をき止める事に成功したんです!」

 ……冒険者は変人が多いけど、ギルド職員も似たり寄ったりよね。

 額に手を置きつつ、あきれる。

「何をしてるのよ、あんた達は」

「し、仕方なかったんです。あの人、異常にけいかい能力が高くて、非番の職員ではあっさりかれるか、からかわれるばかりで……。今回尾行をお願いした方も、第四階位だったんですよ? その方でも、最後までのついせきは不可能でした」

「──で、何処まで分かったの?」

 そう尋ねると、ジゼルはにやりと笑った。

 ……悪いがお可愛かわいい顔が台無しだわ。

 少しだけ、ほんの少しだけ、私の妹に似てる。

 年上の少女は私の反応には気づかず、言葉を続けた。

「依頼を受けてくれない限り、これ以上は話せません!」

 私は両手を軽く上げる。

「はぁ……分かった。受けるわ」

「ふふ。ありがとうございます。レベッカさんには、この小箱と封筒を街外れにあるはい教会に運んでいただいて……そこに何があるのかをかくにんしてほしいんです!」

 いぶかし気に確認する。

「…………それだけ?」

「はい。現状分かっているのは、先輩がそこに行ってるということだけなので……。帰る時、手ぶらですし、品物はその場所に置いてきているか、誰かに渡しているんじゃないかなと思うんです!」

「……これ、危ない話じゃないわよね?」

 限りなくさんくさい。

 しかも、私がちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、苦手にしている怪談話の気配もただよう。……まさか、はめられた?

 すると、少女は大きくかぶりを振った。

「むしろ良い話です。確定している情報は話した点だけですが……その廃教会には、以前からうわさばなしがありまして……」

「噂話?」

「はい。えっとですねぇ……」

 ジゼルは制服のポケットから手帳を取り出し、めくりながら噂を教えてくれる。


 いわく『辺境都市の街外れにある廃教会にはみようくろかみの男が住んでいる』

 曰く『その男は、自らを【育成者】としようし、として名乗ってくる』

 曰く『その男に育成をたのんだぼうけん者はみな、大陸級となり名をせている』


 あやしい……とても怪しい。そんな人間がいるなら、誰も苦労はしない。

 第一、すぐ有名になって人が押し寄せるだろうに、そんな話は聞いたこともない。噂ですら初めて聞いたし。

 やっぱりこんな話は断って──。

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