第41話 生きた証

 「拝啓:親愛なる美由紀様なんて書いてみたけど似合わないよね。この手紙を受け取るのは恐らく飛行機事故の次の日だろう。(映画みたいにうまくいけばね。)俺は生きてます。と言って良いか分からないけど・・・

 説明しにくいんだけど今俺は訳あって戦時中の日本に来ています。そんなん信じられないかもしれないけどもし神風特攻隊に俺の名前が記されてるかもしれないから見てみて?もしかしたら歴史の教科書に載ってたりして?あいつ喜ぶかな?

 まぁ聞いての通り神風特攻隊にいるってことはっていう話になるだけどまぁそういう事。

 この手紙を君が読んでいるなら俺は立派に御国のために戦死したってこと。君にとってみたら二回目の俺の死の知らせでつらいをさせてしまうことになる。本当に俺は頼り甲斐のないクズな亭主だよな。本当にごめん。こんな俺を愛してくれてありがとう。これからは一茶とそして新しい旦那と三人で末長く暮らしてください。俺は天国に行ったらどうなるんだ?もしかしたら美由紀が生まれる時からみれるかもしれないなぁ?なんてね。

これからも素敵な人生を。愛を込めて。田中清作」

 「どうしてこれを持ってるんですか?」俺は先生から渡された手紙を見て尋ねた。

 「そんなことよりどうしてこの手紙が美由紀に届いたのかを知りたいよ。恥ずかしい。」

 「確かに先生がいるのはこっちの世界。ですよね?」俺は頭がおかしくなりそうだった。

 「実を言うとそう言い切れない。まぁもし元の世界に戻っていたとすればあの防空壕へ逃げた時だろう。」確かにそこでラジオが壊れているならそうかもしれない。

 「でも先生は戦争に生き延びたんですよね?」俺がそう尋ねると、先生はうつむきながら答えた。

 「ああ、大いなる犠牲とともに。」そう言うと先生は話を続けた。

 「ある出撃の時、陣形を保ちながら目標に向かっていた。だが俺たちは待ち伏せにあった。敵軍が上空で待ち構えていた。」俺は固唾を飲んで話を聞いていた。

 「俺たちは突然のことすぎて陣形を崩したせいで、劣勢に立たされてしまった。次々と途絶えていく仲間の無線。俺は仲間の名前を叫んだ。叫ぶことしかできない。だが、返ってくるのは泣き叫ぶ声や無惨な音だけ。そして残った機は俺と時蔵だけだった。」先生の話も熱が入る。

 「もう俺たちは助からないと悟った。俺はどうしても時蔵には生きていてほしかった。なぜなら彼には奥さんとお腹の中に子供がいることを知っていたから。そして彼ら家族三人、いやもっと多くなるかもしれないが、みんなで明るい未来をどうしても見てほしかった。こんな暗い時代で辛い思いをしてただ死ぬなんて・・・」先生は言葉に詰まり始めた。

 「ただ生まれてきたのが早かっただけで・・・こんな仕打ちあるか?」先生は泣き崩れた。俺はこれ以上話を聞くつもりはなかった。

 「ありがとうございます。ここまで話してくれて。これで十分です。」しかし、先生は涙を拭った。

 「いや。まだ終わってない。」

 「もう十分ですよ。」

 「いや、まだだ。この話はあいつの生きた証。生き残った者がそれを伝えなくてどうする?」俺はそのまま黙って引き下がった。先生は声が上擦りながらも話を続けた。

 「俺は無線の周波数を合わせようとした。最期の挨拶だ。その時俺のエンジンが急に止まり、俺の飛行機は飛ぶことをやめていた。」

 「嘘だろ?」

 「そのまま俺の飛行機は急降下し始めた。時蔵の飛行機は敵の戦闘機に追われながらも何機か撃ち落としていた。俺は時蔵の名前を叫んでいた。何もできない自分、飛行機の整備もまともにできない自分を恨んだ。その時無線ラジオの音が入った。」

 「田中さん、ちゃんと自分で整備しなきゃダメっすよ。」

 「その時俺は全てを悟った。」

 「お前なんで・・・」

 「これが僕の運命なんっすよ。でも田中さんはここで死んじゃいけない。田中さんが死ぬべき時はもっとずっと先じゃないですか!」

 「何言ってんだよ。お前だって自分の運命を勝手に決めるなよ。」

 「その無線の奥でものすごい銃声とともに時蔵の悶える声が聞こえた。」

 「田中さん・・・」

 「時蔵の声が微かに聞こえた。」

 「僕の家族って頭悪いんですよ。多分平越家は代々頭が悪いんです。もし田中さんが未来へ戻れたら僕子孫を気にかけてあげてください。約束してくれますか?」

 「俺は覚悟を決めた彼を否定することができなかった。」

 「わかった。約束だ。」

 「ありがとう・・・ございます・・・」

 「その言葉とともに時蔵の飛行機は積んでいた爆薬を着火させたようだった。だが、俺に機体も爆風に巻き込まれた俺は死を確信した。だが、その時微かにあの電流が流れるような音が俺の耳の奥で鳴り響いた。」先生はそこからふと言葉が頭から消えたように何も話さなくなった。

 「先生?」俺は先生の顔を覗き込んだ。

 「その後の記憶は曖昧だが気がつけば俺はあの施設の布団で寝かされていた。そしてお前とも出会った。」先生はこの話をしながら蘇ったばかりの辛い記憶や心の整理をつけていたようで、少しスッキリした表情が見えた。

 「お前の名前を聞いた時何故か気にかけなきゃいけない気がしたのはこれが理由だったってことだ。」清々しい顔で先生は俺を見た。しかし、それと同時に俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 「でも俺のせいで先生の息子さんは・・・」

 「確かにあいつはいろいろ勘違いをしているようだな。ちゃんと話し合わなきゃいけないな。」先生がため息混じりで話した。

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