第37話 元凶
ひどく頭が痛い。まるでバットで頭を殴られたようだ。もしかしたらそれくらいの衝撃を受けたのかもしれないが、ただ俺が記憶を失ってしまっているだけか?
ここはどこだ?俺はあたりを見渡した。時間は変わっていないようだが場所と時代は違うようだった。
「気がついたみたいだな。」声の主は田中先生だ。
「みたいっすけどなんか気持ち悪いっす。」
「すまない。無理なタイムスリップを強いたからな。」確かに一刻を争う事態だった。
「一体何がどうなってるんですか?」俺はそう言いながらもう一つ異変に気づき、さらに問いただすように言った。
「あの二人は?どこですか?」さすがに先生も困った表情を見せた。
「すまん、お前にはもう少しちゃんと話しておくべきだったかもしれない。少なくともあのラジオを見つけた時には・・・」場の空気が急に変わった。
「どういうこと?」
「お前もここがどこだかくらいはわかるだろ?」俺は辺りを見回した。もちろん見慣れた場所だった。
「ここは1996年4月1日の施設の前だ。」1996年?それって・・・そんなことを思っていると、先生がそれを察したかのように説明を続けた。
「そう。お前たちが施設に来た日だ。もうすぐここにお前の親が現れるはずだ。」
「たち?たちってどういうことだよ?」すると先生は指を差した。俺は指を差した先をみると、一人の女の人が歩いていた。前にも見た光景だった。あの時未来の俺が取った行動が分かる気がした。足が勝手に動こうとして小刻みに揺れていた。
「意外と冷静だな。」
「まぁここには来たことあるし。」そういうとそばの茂みから音がした。恐らく過去の自分だろう。
「ってことは知ってるんじゃないのか?」先生の問いかけに俺はあることに気がついた。確かに未来の俺はあの時俺たちと複数形を使っていた。だが、その時は夜で毛布に包まっており、ちゃんと中まで見えていなかったがあの時、俺の横にもう一人赤ん坊がいたことが推測できた。
「俺には兄弟がいたってことか?」ということは、施設の中に兄弟がいたということは・・・
「まさか?」
「俺もつい最近わかったことだ。だからお前たちに境遇がこうも真逆に作用しているのかもしれないな。」つまり俺とマーシーは兄弟だった。
「同い年ってことは双子だろ?全然似てないじゃん。」
「二卵性なんじゃないか?」普通に納得してしまった。
「それにお前たち自分たちが思ってる以上に似てるぞ?」そんなこと思ったこともなかった。
「そんなことよりあの二人は?」俺は急にマーシーを愛おしく感じたのか、二人の行方が気になった。
「検討はついてるから大丈夫だ。それより・・・」先生は恐らく息子と言っていた男の事を考えているに違いなかった。
「息子さんですか?」先生は静かにうなづいた。
「そこもよくわからないんですけどどういう事なんですか?」すると先生は軽いため息をついた。
「多分この一連の出来事の元凶は俺にあると思うんだ。」
「急に何を言い出すんですか?」先生の顔を覗き込むと真剣な面持ちで話し始めた。
「俺は実はこっちの世界の人間じゃない。」
「どういうことですか?」急に爆弾発言が飛び出してきた。この話最後まで聞けるかな?
「ある日出張の行きの飛行機で事故に巻き込まれた。当然死んだと思った。しかし、俺は目を覚ました。だがそこはどこかわからなかった。」
「タイムスリップしたってこと?」
「と思っていた。だが俺はその時飛行機に乗っていた。俺は確実に夢だと思った。」
「で結局その飛行機は?」
「何事もなく出張先に着いた。だが、目的地のホテルに行っても俺の名前がない。」俺も似たような事を経験した。
「でどうしたんですか?」
「もちろん会社に電話した。そしたら俺が死んでることになってた。」
「どういうことですか?」経験値というものは不思議だ。恐らく以前の自分だったらこの話についてくることすらできていないだろう。だが、今の自分は残念ながらしっかり着いて来れてしまっていた。
「恐らく今考えれば、あの飛行機事故で俺は死んだはずだが、運良くこっちの世界に来たことで生き延びたんだろう。」
「じゃあこっちの世界の先生はもう死んでるんだ。」
「自分の葬式に出るとはな。」
「なんで出たんですか?」思わず安いツッコミをしてしまった。
「自分が死んだなんて信じられなくてな。」まぁ確かにわからなくもない。
「それで俺はこんな世界嫌だと思ってどうにかしてあっちの世界に戻るために奮闘した。だが何もできずに時だけが流れた。」先生の表情がどこか悲しげというか何というか・・・俺はそう考えると幸運だったのかもしれない。俺はあっちの世界に行ってもちゃんと戻って来れた。それに経験者がいたり、マーシーや泰ちゃんみたいな友達もいる。そこ反面先生は一人で戦っていたんだ。
先生の話はまだ続いた。
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