第38話 訛り

 頭が痛い。吐き気がする。俺飲みすぎたのか?いやそんなことはないはず。マーシーは?いやあんなやつ知るか。恩知らずの裏切り者!・・・それはちょっと言い過ぎかも・・・

 それにしてもなんかお線香のにおいがすごいなぁ。なんかお葬式みたい・・・お葬式・・・俺はなんか胸が締め付けられる感じがした。やっぱりいくつになってもなれるものじゃないな。両親をすぐに亡くして、ばあちゃんに育てられたけどばあちゃんもすぐ死んじゃって・・・家族って言うとお線香のにおいが頭の中で感じる。本当なんで人間の記憶って臭いとかだとハッキリ思い出すのに、写真とか目で見たものってぼんやりとしか思い出せないんだろう?便利というか不便というか・・・

 「なんじゃお前さんたち?」あたりが真っ暗で声しか聞こえない。あっ!目瞑ってたんだった。目を開けると坊主頭の少年がこっちを見ていた。隣を見るとあの裏切り者もボケっとした顔で辺りを見回していた。

 「今平越さんがあんたらのこと報告しに行ってる。多分すげーおめー罰があるに違いねーぞ。」いや急にそんなこと急に言われても・・・すると裏切り者のマーシーが何か思い付いたのかいつものように俺に黙っていろという合図をした。

 なんかマーシーに任せるのも癪だがこの際そんなことも言ってられない。

 「すいません。僕たち実は事故で記憶が曖昧でして・・・どこの所属かとんと見当がつかなくて・・・」俺にはなんのことだかさっぱりだった。

 「そりゃ大変だったなぁ。」坊主頭の訛りが強いにいちゃんはどうにかだませたようだった。だが、そうもうまくいかなかった。

 「二人とも記憶がないのになぜお互い知り合いであることがわかったんだ?」

 「そりゃ、二人とも同じところにいて同じ境遇ならたとえ知り合いじゃなくても一緒に行動するのが合理的では?」部屋の隅の方から聞こえてきた声にマーシーは毅然とした態度で答えた。しかし、その男はさらに間髪入れずに問い詰めてきた。

 「そもそもその格好。このご時世にそんなもん着てる奴がお国のために戦う兵士な訳がない。」確かに俺たちが今着ている服装はだいぶ浮いていた。

 「お前たちもし軍に虚偽の発言をした場合それは天皇陛下を裏切る行為だぞ。どうなるかわかってるよな?」男は部屋の隅で飯を食いながら静かに威圧するように言ってきた。するとさっきの少年が男の元に駆け寄った。

 「まぁまぁ平越さん、そのくらいで勘弁してやってくだせぇよ。記憶が吹っ飛んじまうくらいの事故ってことは相当なことが起きたにチゲーねぇっす。

生きてただけで奇跡だ。」すると突然外から声がした。

 「お前ら騒がしいぞ。」するとその部屋にいた全員が急にテーブルに体を向き直し飯を食うふりをしていた。

 すると外から勢いよく引き戸を開けると鬼の形相で俺らを睨みつけたおっさんが目に入ってきた。なんかドラマとかで見たことあるような戦時中の日本軍の服装そのものだった。

 「貴様ら何者だ。」そう言いながら男はマーシーの胸ぐらを掴み持ち上げた。

 「お前、なんだその服は?よりにもよって洋服とは何事だ。」なんか怒鳴っている理由もわからずとりあえず黙って見ていた。正直、今の俺はマーシーのこの状況を止める気にもならなかったし、なんか止めたらそれはそれで事態が悪化する気配がした。するとあの訛り強めの彼が急に立ち上がった。

 「発言してもよろしいでしょうか?」すると男はマーシーの胸ぐらを掴んだまま、少年を睨みつけた。

 「なんだ?言ってみろ。」

 「この者たつは記憶を失っているとのことでありますー。恐らくかなり大きな事故だったにチゲーねーでありますー。」なんか一生懸命敬語を使おうとしているのに、訛りが台無しにしてしまっていた。

 「だったらなんだ?」男はさらに睨みつけた。

 「だから・・・もう少し、優しく・・・」

 「なんだ?それ以上言うことはあるか?」少年は男の圧力に負けた。

 すると今度は部屋の隅にいた男が発言をし始めた。

 「失礼します。この者たちは先日現れた彼と共通点があると考えると、我々の脅威になるとは思えませんがいかがでしょうか?」すると今度は隅にいた隅男に睨みつけた。

 「貴様まで俺に指図するのか?」しかし隅男は毅然とした態度でさらに答えた。

 「いいえ、私は隊を管理している者として上官殿に、可能性を発言したまでであり、処遇に対しての異議申し立てはございません。」

 すると睨み男、睨男はなんかそのまま怒りを押し殺すような表情を見せた。誰かもここに来たってことか?誰だ?田中先生?

 そのあと俺とマーシーは拷問みたいなのにかけられた。多分あの少年もに違いなかった。正直戦時中の日本ってよくわからなかったし、普通に殺されると思った。少なくとも今日は飯にありつけないと思っていた。だが、普通に夕飯も量は少ないもののしっかり食べれた。だがなんかどっかの隊に入れられ俺たちは明日から訓練に参加することになる。

 どうやって俺たちはここから戻ればいいのか?そもそもどうやってここに来たのか?俺は壊れたポケットラジオを見ながら愕然としていた。

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