第28話 枝

 俺の周囲を漂う電流が消えたが、風景は何一つ変わっていなかった。

 「さて、ちょっと時間を潰す必要があるけど・・・どっか良いところはないかなぁ?」きて早々にツッコミどころ満載なことを言い始めた。

 「なら最初からその時間に行けば良いんじゃないの?」すると男は物凄いしかめ面になった。

 「あのな。日付単位でも難しいのにそんな時間単位でピンポイントに行くなんて上空からパラシュートで直径1メートルの円の中に着地するくらい難しいんだよ!」そんな怒らなくても・・・

 「でどのくらい時間を潰さないといけないんですか?」

 「分からん!忘れた。」話にならなすぎて笑ってしまった。

 「逆に覚えてないか?お前が初めて里親候補から受けいれられるかもしれないってなったあの日を」

 「知らない。」嘘だった。しっかり俺はその時の記憶はある。確か学校から帰ったら、優しそうなご両親がいたのを。でも結局彼らはほかの子供を連れて行った。

 「まぁ話したくないなら、別にいいさ。」時々彼が怖いと思い始めてきた。何というか、俺の気持ちが筒抜けと言うか・・・

 「なぁそろそろ話してくれない?俺はなんであんたと過去に戻らなきゃいけないわけ?」すると、男は勢いよく俺に近づいてきた。

 「それさぁ、聞くの早くない?まだ全然どこも行ってないじゃん?」そういう男は再び俺から離れた。

 「そりゃそうかもしれないけど、なんていうかモチベーションってやつがあるじゃんか?」

 「お前は逮捕される心配をしてればいいの!」逮捕っていうが、そもそも警察以外が逮捕って何?

 すると男は大きなため息をつきながらまた近寄ってきた。

 「そう言えばそうだったね!どうせ時間をつぶさなきゃいけないならそういう話する時間がいっぱいあるじゃんって思ってんだろ?」毎回毎回、語尾にアクセントが付いた話し方で俺を詰めてきた。

 俺はやつの黒マスクのフォルムにビビってしまった。

 「まぁいいよ。」そう言うと男は辺りを見回した。

 「ここで話すのもなんだし、あそこの公園で話すか。」男が指をさした先には、学生時代に何かとお世話になった公園だった。

 俺たちは数メートル先の公園に着くと、なぜか自然とブランコに向っていた。男はブランコに腰を掛けると、甲高い音を立てながらブランコをゆっくりと揺らし、さっきの話の続きを始めた。

 「俺はお前のことは何でも知っている。過去も現在も、そして未来も。」男はいつものように軽い口調でばかげたことを言い始めたが、なぜか俺は全力で馬鹿にすることが出来なかった。

 「どういうことだよ?」俺は、話に茶々を入れた。

 「まぁ聞きなって旦那!」時々彼のノリが分からなくなる。

 「まずお前が聞きたいこの旅の目的だが、お前自身を守るための旅だ。」

 「ますます、どういうこと?」すると男はブランコの動きを止めた。

 「お前はあのまま病院にいたら死ぬ。俺はその未来を変えに来た。」余命宣告をされると頭が真っ白になるってよく言うけど。俺はなぜか吹き出してしまった。

 「だが、それは間違った未来だ。本来はまだ死期ではない。」男は真面目な顔をしていたが、俺はどんどん滑稽に聞こえていた。

 「いやいや、そんな余命宣告ある?それに俺がそれを言われてどうリアクションをとれば言いのよ?」すると男は木の茂みから、太い枝を拾ってくると、砂の地面に枝で何かを図解し始めた。

 「今、この世界は大きく二つに分離してる。」

 「ああ、パラレルワールドだろ?」

 「厳密にいえばノーだ。」俺はその言葉をきっかけに真剣に彼の話に耳を傾けた。

 「確かに、人々の行動によってシナリオが分岐するように並行世界がこの世には無数にあるが、時空というのはそこまでもろくなくてその時よりに修正がかかる。それによって課程は違えどたどり着く未来は必ずどの世界の存在も一つ。それが俗にいう運命ってやつだ。」

 「運命・・・」確かに今の話はつじつまが合う反面、夢のない話に聞こえた。

 「ところがどっこい、今この世界あるいは、向こうの世界は何んらかの外部性によって、平行線の世界とは別に裏の世界が出来上がってしまっている。」男は話が核心に近づくにつれて、力が入っていたのか持っている枝が折れてしまった。

 「つまり、こことは別個にもう一つ同じように見えて違う世界があるってこと?」

 「お前はもう既にその事象を体験しているはずだ。家に知らないやつがいたり、性格が変わった自分の恩師に遭遇しているだろ?」確かにそういう経験をしている。しかし、それがあったからと言って点が線でつながったわけではない。

 「で、俺の死とはどうつながってくるんですか?」俺は少し強い口調で問いかけた。すると、男は折れた枝の破片をまた拾い上げた。

 「さっきも言ったように時空ってやつはそうもろくない。どんなに壊滅的に壊れたとしても、どうにか元に戻そうとする。」そう言いながら男は棒人間を書き、頭の上に「お前」と書いた。

 「元に戻すとき、普通そのエラーが起きないようにするために、その原因を排除したりするだろ?」俺は男が言いたいことの察しがついた。

 「これはあくまで俺の仮説。だが、結論はすでに出てしまっている。」そう言うと、男は「お前」と書かれた棒人間を枝で勢いよく払った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る