第29話 仮説

 俺は今までこんなに公園の地面を見つめたのは初めてかもしれない。

 「でも、なんで原因が俺なんだよ。向こうの世界にも俺はいるんだろ?確かに今の俺とはえらい違いだけど・・・」そう言うと男はまたブランコに腰を掛けた。

 「もう一つ仮説がある。どちらかと言えばこっちの方が信憑性があるが、俺はまだどうも腑に落ちていない。」

 「もったいぶらずに言えって。」俺は大いなる力が俺を消すというシナリオじゃなければなんでもよかった。

 「実は、お前の過去の断片的に何かしらパラドックスが起きる事象が起きていて、それがこの一連の出来事の原因なんじゃないかと考えてる。」

 「だから俺が原因みたいになってるから俺が消されるってこと?とんだとばっちりかよ。」俺はそう言うと、ブランコを漕ぎ始めた。ブランコに乗ったのは何年振りだろうか?最後に乗ったのは高校に落ちて進路が断たれたときに田中先生と一緒に乗ったきりだ。なんか今のこの感覚も似ている気がした。

 「まぁ目星はついてるけどな。」その一言で、俺は懐かしい気分から一気に現実に戻された。

 「お前も知ってるはずだぞ?あの二人だよ。」俺はそれを聞いて間違いないと思ってしまった。

 「だが、まだこれは仮定の話だしまだ決まったわけじゃないから。」男はなぜか一生懸命弁解をしているように見えた。

 「それにさっきの時代にも現れると思ってたし。その変の仮説も崩れてるし。まぁ先入観は良くないし、慎重に行動しないとね。」明らかに口数から、しゃべるスピードまで様子がおかしかった。

 「でこの時間は何?いつまで待てばいいの?」気づけば辺りは朝焼けに照らされ、カラスの声が鳴り響いていた。

 「あれ来たの昼頃だっけ?」

 「いや午前だった気がするよ?」確かお昼ご飯を奥さんが作っていた時に来て、奥さんが火を止め忘れて俺がいなかったら今ごろあの施設は火事でなくなっていたかもしれないって中学生になるまで、本気で思っていた。

 「あれ?覚えていなかったのでは?」俺はまんまと罠にはまってしまった。

 「まぁいいよ。でもな・・・」男は急に施設の様子を見ながら、口調を沈めた。

 「お前にとって後ろめたい過去でも過去は変わらない。タイムマシンを使ってもだ。過去は逃げてもついてくるし、この先もっと残酷な過去に出会うかもしれない。」俺はどんどん気持ちが沈んでいた。

 

              「今を見失うな・・・」


 俺はその一言がどこか心に突き刺さった。

 「とりあえず、施設に行ってみるとするか。」

 「行ってどうするの?」

 「あの二人を待ち構える。」ますます意味が分からなくなってきた。

 「二人ってあの二人の事か?マーシーと泰斗?」

 「その通り。」

 「でもここは俺の世界の過去だろ?あいつらに何の関係があるんだよ?」すると男は俺の方を見た。

 「さっき言ったパラドックス現象についてもう少し詳しく話すと、この世界をお前の世界として、あっちの世界はマーシーの世界と呼ぶことにする。」俺は最初からそうして欲しかった。やっとわかりやすくなった気がした。

 「お前の世界は、マーシーの世界で起きたパラドックスが原因でできた世界と考えてる。お前の世界ではマーシーが成功者になっている。それはつまりマーシーの世界ではお前が成功している代わりに、マーシーの手によってマーシーを成功者にした結果生まれたのがお前の世界という仮説だ。」俺はきっぱり言う。わからん・・・。しかし、説明はさらに続いた。

 「だから、マーシーたちがそのパラドックスを起こすことに成功すれば、マーシーたちがいる世界は自然とこっちのお前の世界に変わるはず。だからそうなれば奴らふがここに現れるという算段ってわけよ。」男は無駄に自信にあふれていた。しかし、俺には引っかかることがあった。

 「ってことは、俺だけじゃなくてマーシーも異端扱いにならない?」俺の一言に男の動きが止まった。

 「さっきの話では、俺がこの時空で異端の存在になったって言ってたけど、今の話の流れだと、マーシーもじゃない?」俺がそういうと施設に一台の車が近づいてきた。お手たちは存在がばれないように少し身を潜めた。青いワンボックスカーが止まると、中から優しそうな若い夫婦が出てきた。

 「なんで、あんな優しそうな夫婦を嫌がったんだろう?」男がしみじみとこぼした。

 「はいはい、俺はどうかしてましたよ。」確かこの夫婦は、俺がこの辺の生まれでさぞつらい思いをしてきたこの環境から脱するために、俺を引き取ったら引っ越すつもりだと言っていたのを思い出した。

 だが俺にとってはこの地も大切な俺の故郷であることに変わりなかった。それに先生と離れ離れになりたくなかった。

 確かあの時初めて先生とケンカした気がする。そして俺はある疑問に気が付いた。

 「なぁ、それより俺とマーシーの立場が入れ替わるのは分かったけど、肝心のマーシーは?」

 「そっか、お前まだそのことも知らなかったな。お前とマーシーは同じ施設で育った幼馴染だ。」俺はずっと意味が分からなかった。マーシーと俺が入れ替わるってどうやって?と思っていた。

 

    もしかしてみんな知ってた?

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