第27話 ゆりかご
俺たちはどうにか病院から出ることが出来た。と言っても病室にいたいびきをかいてる患者は爆睡中で起きることもなかったし、病室から出てしまえば、俺は患者の服を着ていたし、そこまで外へ出るのは難しくなった。
「すまんな。本当だったら病院から出ていれば簡単だったんだが・・・」男は申し訳なさそうに言った。だが、俺は彼を責めることが出来ない。なぜなら俺もそういう無計画なところがあるからだ。結局あの時も無計画にベランダから飛び降りるから結局一文無しで気づけば病院っていう始末だ。
「で、ここはどこなのさ。」辺りを見回したが、特に違いは分からなかった。
「俺の計算が合っていればここは1996年8月のはずだ。」
「え?それって俺が生まれた年・・・」俺はそうつぶやいた。
「その通り。そしてお前があの施設に預けられた年。」その一言で俺の時が一瞬止まった。
「なんであんたが知ってんだよ?」しかし、男は動揺するそぶりも見せず、ただ俺の言葉を無視していた。俺は彼に聞きたいことをドストレートに聞いてみた。
「あんた、一体何者なんだよ?」しかし、彼は黙ったまま歩いていた。
「なんで俺が施設育ちだって知ってんだよ。」俺は男の後をついていった。
「それはお前はターゲットなんだから、ターゲットの身辺調査をするのは当たり前だろ。」どこかとってつけたような言い方だったが、筋は通っていた。
「ふん、プライバシーもへったくれもないな。」俺は悔しくて、こんな負け惜しみしか言えなかった。
「まぁ世の中そんなもんだって。」なんかこの子供扱いな感じどこか先生っぽく感じた。まさか?にしては背が高いし、年齢も若い気がする。
「ところであんたいくつなんだ?」
「わからん。正直、時空を超えすぎて、よくわかんなくなってる。」まぁおそらく年齢を言いたくない人種なのだろう。
「へぇ、そういうもんなのかねぇ?」とりあえず話を合わせた。これが目上の人を敬うというもんだろう?
そうこうしているうちに施設の前に着いた。すると男は茂みから施設の入口を張り込み始めた。
「ねぇ、多分だけど、この時間に張り込んでもみんな寝てると思うけど?」
「しっ!」すると、後ろの方から足音が聞こえてきた。女性のようだった。両手にはかごのようなものを持っており、辺りを見回しながら施設の方へと向かっていった。すると突然男の様子がおかしくなった。かなり息が荒くなり、そわそわとしている様子だった。
「おい、どうしたんだよ?」
「いや、なんでもない。」男は我に返ったように振る舞っていたが、明らかに様子がおかしかった。
「それにしてもこんな夜中にあの女の人も何してんだろう?」俺がそう言うと男は、静かな声でただはっきりとした口調で言った。
「人生最大の過ち・・・」
「へ?」俺がそう言うと、また女性がこちらへ戻ってきた。さっきのかごのような荷物は持っていなかった。
まさか・・・
そう思ったとき、急に男が立ち上がった。
「お前、何やってんだよ・・・」俺は必死で彼をおさえた。男は死んだ魚のような目をしながら、また身を潜めた。
「すまない。ありがとう。我を忘れていた。」男は自分の行動だが、動揺を隠しきれていなかった。俺は気を使って話題を変えた。
「あの人、荷物もってなかったけど・・・」俺は彼女が去っていった方向を見ながら言った。すると男は施設の玄関の方へと向かった。
「ちょっとまたですか?」俺はそう言いながら彼の後を追いかけた。だが、彼の勢いが強すぎて、止めきれなかった。男はそのまま敷地を入り玄関へ突っ込む勢いだった。
「ちょっと、あんた!」すると男は、またしても静かにはっきりとした言葉を発した。
「俺は正気だ。」そう言うと玄関の前で男は止まった。
玄関の前にはゆりかごが置かれたいた。俺は薄々感づいていたことが、確信に変わっていた。
「もしかしてこれ・・・」
「ああ、お前たちだ。そしてあの女性はお前の母親ってわけだ。」そう言うと男は、玄関のベルを鳴らした。
「何やってんだよ?」
「風邪ひくだろ?」
「なんかわかんないけど、ありがとう・・・」
「こちらこそ・・・」すると、部屋の電気がついた。
「なぁ、俺たちがここの時代の人間と接触するのってあんまりよくないんじゃない?」俺が小声でそう言うと、男と俺はまた茂みに逃げ隠れた。
すると扉からきれいな女性が出てきた。
「奥さんだ・・・」すると俺の目からすっと涙がこぼれた。
俺があの施設から出て5年。一回もあの施設へ帰ったことはなかった。いや帰れなかった。田中先生と離婚してしまったのも俺のせいだと知った時俺はあそこに戻ってはいけないと思った。
でも、奥さんにはお礼がしたい。奥さんがあの時心を鬼にして、俺をあそこから追い出してくれたから、俺はこの五年間一人で生きていく自信がついた気がした。
「まぁさすがに奴らはこんなところに現れないか・・・」男がまた意味不明なことを言っている。
「よし、次行くぞ!」
「え?次って何?」そう言いながらも俺は自然とイヤホンを耳に突っ込んでいた。
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