第17話 多元宇宙論
「君たちを探していたのは、このラジオをどうやって使うのかとかどういう仕組みなのかを詳しく聞くためだった。」なんともさっきからおかしな話をするオヤジだ。なんで修理できるのに使い方がわからんのかわからん。
「すいません。どうやらご期待に添えないみたいです。」俺はとりあえず謝った。なんで謝っているのかわからんが・・・
どうもさっきから府に落ちないことが多い。そもそも泰斗はなんでこのオヤジと知り合いなのか・・・
そんな事を考えていると田中は俺たちから目線を逸らした。
「いや、たしかにその疑問に関しては、そうかも知れんが、もう一つ君たちに聞きたいことがある。」俺はどうしても彼の視線から何か仕掛けてくるようにしか思えなかった。
「君たち平越時哉を知っているかね?」俺は意外な名前が出てきて少し驚いた。まさか?いやだがこの世界にはもう一人平越時哉という人物は存在している。
「あのアイドルのですか?」俺はあえて惚けて見た。
「いや、彼ではないかもしれないが、彼によく似た別人の平越時哉。」田中はそう言いながら不思議そうに泰斗を見た。俺も田中の視線をなぞるように泰斗を見た。するとなんとも言えない真剣な顔で田中の頭をじっと見ていた。こいつ何やってんだ?まぁ気にしてもしゃあないけど俺は話を続けた。
「平越時哉に似ている人って事ですか?あんま気にした事ないですけど、なんでそんな事を?」こいつはどこまで知っているんだ?それとも本気で何も知らないのか?俺はとりあえず平ちゃんの事はふせたまま話を続けた。
「いや・・・まぁ・・・」田中は言葉を詰まらせていた。俺は何も言わずにその様子を黙って見た。
「まぁこんな事を言うと、変だと思われるかもしれんが・・・」そういうと田中は落ち着かないのかゆっくりと部屋のソファに腰をかけた。
「実はついさっきここに平越時哉が現れたんだよ。ドッキリの番組だと思ったが、どうやら彼の様子がおかしかった。私は彼と一度もあったことがないはずなのに、なぜか彼は私を知っていたんだよ。」田中の話を整理するのは難しかった。だが、この感じは平ちゃんが俺の家に現れた時と似ていた。
「それにどこか君に似ていたんだよ。」確かに泰斗もそんな事を言っていた。
「あのアイドルのに俺がですか?」俺はとりあえず普通の人間がしそうな反応をしてみた。
「いや顔ってわけじゃなくて、なんていうか雰囲気とでも言うのかな?さっきから話していてずっと初対面なのにそんな感じがしなかったんだよ。」確かにやけに泰斗より俺に目線を送る方が多いとは思ってはいたが、なんとも抽象的すぎてピンとこなかった。
「私はすぐに考察をして結論を急ぐ悪い癖があって今回もこんな考察をしてみたんだが・・・」急に田中がそう言い始め、俺はその考察を静かに聞くことにした。
「彼はパラレルワールドからきた君なんじゃないかと思うんだが。」ずいぶん突拍子もない事を田中は、世間話をしているトーンで話した。
「どういうことですか?」あまりの発言に俺は眉間にしわを深く折込みながら答えた。
「いや自分でも突拍子もない事を言っているのはわかっている。」自覚はあるようだ。田中はさらに続けた。
「だが私がタイムトラベルについて調べているとき、タイムパラドックスが生じると必ずパラレルワールドの概念が出てくる。」
「多元宇宙論・・・」俺もそういうSFものは大好きでよく読んでいた。
「そう、パラレルワールドほど理論物理学の世界で言及されているのだから、タイムトラベルなんて嘘みたいな話があるなら、パラレルワールドだってあってもおかしくないだろ。」田中の答弁に熱が入る。
「でももしそのパラレルワールドが存在しているのなら、平越時哉はこの世界にもいるわけだし、あなたが見た平越時哉はそれこそあっちの世界の平越時哉で、あっちの世界ではあなたと知り合いって事なんじゃないですか?」そういうと田中の表情が急に変わった。
「それなら逆に向こうの世界にも君や泰斗がいるって事だ。」急に雰囲気が変わった田中に少し恐怖を感じた。
「そうだとしたら?」俺は首を傾げた。すると田中はゆっくりと俺に近づいてきた。
「もしこっちの世界の君たちとあっちの世界の平越時哉が合致していたとしたら、こっちの世界の平越時哉とあっちの世界の君たちが合致していると、思わないかい?」悪魔の囁きのような内容だが、確かにありえる話だった。
あっちの平ちゃんはあっちの俺の部屋に住んでいた。それに田中とも交流がある。そのくらいの誤差はあるにせよ、行動範囲は一致しているのなら・・・ちょっと待て。俺は根本のことを考え、田中の言いたいことがやっと分かった。
「そいつもしかしてそのポケットラジオを・・・」
「そう、その通り。つまりこのポケットラジオはタイムトラベルだけでなく、パラレルワールドにも移動できる。」突然田中の勢いが止まった。
「っていうのを君たちに聞きたかったのだが・・・」田中は、頭を抱えながらまたソファに腰掛けた。
「仕方ない。こればっかりは諦めるしかないようだ。」また府に落ちない発言を田中は発した。あそこまでタイムマシンの開発に熱を注いでいた彼が諦める?
そんなことを考えていると田中が急に俺の手元を凝視していた。
「ところでその手の包帯はいつからしてるんだい?」俺はまさか忍び込んだ時とは言えなかった。
「ここにくる前からかい?」気がきく質問に俺は即答した。すると田中はまた難しい顔をした。
「妙だなぁ?私も記憶では二人ともては普通だったのに・・・」俺はこれ以上詮索されないようにさっさとお暇しようと思った。
「泰斗そろそろ帰るぞ・・・」なぜこいつはずっと一点を見つめているんだ?そもそもこいつ話聞いてたのかな?
愚問だな。
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