第12話 映画
俺は先生から言われたことは、そう簡単に信じることはできなかった。しかし、信じざるを得ない状況が起こりすぎて、寒気がしていた。
「じゃあ俺はもしかしたら今のあの家に住んでいないってことで、逆にそこに住んでいた彼らは今この瞬間に別のどこかにいるってことですよね?」俺は自分の頭を整理するため、あえて先生に言葉にして確認をした。しかし、先生はさらに俺を混乱させに来た。
「そこなんだよ。私もそこに関して引っかかってるんだ。」急に先生は大きな声をあげた。
「どういうことですか?」俺がそういうと先生はまたホワイトボードに何か書き足した。
「例えば、ある日君は自分の命に関わることをしようとしたとしよう。なんでも良い。自殺をしようとしたでも良い。」俺は実際にやろうとした自分を思い出しながら数回うなずいた。
「だが、君は踏みとどまり自殺をせず、生きる道を選んだ。ここまでは良いか?」先生のこの言葉がでたということは、ここから大事なことを話すのだろうと察した。
「普通に考えれば、自殺をしなかった道と平行して自殺を行った道ができることになる。だが、仮に自殺を行ったとしても、君が死なない道がある限りこの地点では、君は死なずに何かしらの理由で君は助かるのだ。」
「じゃあ逆に自殺を成功してしまう道がある場合僕はその地点で、仮に自殺を踏みとどまっても何かしらの要因で死ぬってことですか?」先生の説明を整理していると、口を挟むのはまだ早かったようで、少し強い口調で、また説明が始まった。
「つまりだね。パラレルワールドへ行くのは車線変更と一緒と言ったであろう。もちろん車線変更をしたからと言って、急に隣の道が行き止まりになることなんてないだろ?」そう言いながらホワイトボードの図を乱雑に書いているせいかもう何を書いてあるのか分からなくなっていた。
「だから、少し横道に逸れただけでは変わっているとすれば性格や周りの友人くらいだ。」そういうと先生はホワイトボードのペンの蓋を閉めた。
「じゃあ、もし過去に戻れたとしてその人の親を殺したとしても他の次元で生まれていれば、生まれない未来はないってこと?」俺は映画の知識を再確認した。
「その通り。もしそういうことをしても自然に修正が加わり、殺せないか男親の方を殺したとしたらすでに妊っているとかで生まれて来ないわけではない。」俺は先生のその説明を聞いて思わず大声を上げた。
「じゃあ、あの映画は嘘ってこと?主人公に主人公のお母さんが恋して存在が消えかかるっていうのは嘘?」正直どうでも良いことかもしれん。だが、俺にとってはこういう話をする上では非常に重要だ。なぜならこの映画こそがタイムトラベルの基礎なのだから。
すると先生は目を輝かせながら答えた。
「それは違う。あの映画では結局主人公の力がなくても、結果違う経緯ではあるが大きな出来事は変わらなかっただろ?」ほんと先生は俺を納得させる天才だ。
「確かに、主人公が戻ったとき家と家族の雰囲気が変わってたくらいだもんね。」しかし先生は自分で説明しているにもかかわらず、どこか浮かない顔をしていた。
「だからこそお前さんが言っていたことが考えられないんだよ。」その時俺はふとある考えがめぐった。
「でも性格が変わる可能性があるなら職業だって変わっていてもおかしくないだろ?もし大金持ちになっていたとしたら、今いるアパートに住んでるとは自分では到底思えないけどなぁ。」するとまもなく先生の反論が始まった。
「だが、行動区域が変わるというのは、なんでもないように見えて実はものすごい変化なのだ。そうだろ?もし君がこの地域で生まれていなければ、私に会っていないだろうし、会っていなければ・・・」
「確かに。」俺は先生の言葉を遮るようにつぶやいた。
「もしかすると、どちらかの世界は元々の世界とは全く書き換えられた世界なのかもしれない。」
「先生、さすがにそれは話が飛躍しすぎでは?」するといつものように先生が急接近してきた。
「ここからあっちの世界に行った時、何か特別変わったことはなかったか?」
「今の話の流れでいえば先生の性格がおかしかったくらいですかね?」俺は普通に答えた。
「なるほど・・・」すると先生の動きがふと止まった。
「ちょっと待て。」先生は何か閃いたようだった。俺は先生に期待の眼差しを送った。
「おかしかったってなんだ?おかしいって。そんなわけないだろ。」誰か俺の期待を返してくれ。
「変でしたよ。なんか怖かったですもん。」俺は少し当て付けも交えて答えた。
「いや逆に急に変な人が部屋に現れた方が怖いだろ。」ど正論で返された。だが、それと同時に俺はあることに気がついた。
「待ってください。向こうの先生は俺のことをどこかのアイドルだと思い込んでたんですよ。」
「またそういやってイケメン自慢ですか?」先生はすっかり機嫌が悪くなっていた。
「でもスマホで写真を撮って、SNSで俺の居場所を拡散したんですよ?」すると先生も何かをひらめいたように顔が開いた。
「ってことはもしかしたらこの世界でもその立ち位置の人間が向こうの世界の君の部屋に住んでいた人かもしれんな。」そういうと俺は急いで階段を駆け下りて、下の階のテレビへ向かった。我ながらあの速度は人生で1、2を争う速さだったと思う。
テレビをつけては見たが、どのチャンネルもお笑い芸人か女性アイドルの番組ばかりで、男性アイドルが出ている番組が少なかった。
「そりゃそうだ。もう夜中だ。送って行くから続きは明日だ。」確かに、そもそもここへ到着した時点で、終電の手前だった。
「すいません。ありがとうございます。」俺はそう言いながら玄関へ向かおうとした時、テレビからどこかで聴きなれた喋り方と声が聞こえてきた。どこでだ?と思ったその時、ふと何もかもが繋がったような錯覚に陥り、俺は急いでテレビに駆け寄った。
「こいつらだ。」そこの映っていたのは、お笑い番組で漫才をしているあの二人の姿だった。
「結構ネタも面白いぞ。」先生はテレビを見ながらしみじみと言った。
「ってことは・・・どういうことですか?」俺にはこの事実がわかったところで何も理解できなかった。しかし先生は少し楽しそうな顔をしていた。
「これは興味深いぞ。」そういうとさらに元気な表情で俺を見た。
「時哉、今日は泊まって行け。」
「いえ、帰ります。」こうして俺のおかしな1日が終わりを迎えようとしていた。
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