第11話 毛虫

 俺は泰斗の連れられ、彼にゲーム仲間の田中先生の家の前にいた。

 「こんな夜中にまずいって。」なぜか泰斗は乗り気じゃなかった。

 「まずかねぇだろ。毎日夜中にゲームしてんだろ?」俺がそう言うと泰斗は目をまんまるくし始めた。

 「え?どこまで知ってんの?」泰斗の質問は明らかにバグっていた。

 「どこまでって何?この前夜トイレ行く時オンラインゲームしてた時に田中先生って言ってたからそうかなぁ?と思っただけ。」俺は普通に彼の変な質問に正確に答えた。

 「じゃあ田中先生が俺らよりもかなり歳上で、しかも俺が田中先生の家でカードゲームしてたこととかは知らないわけ?」泰斗は異常に早口で質問してきた。

 「今知った。」我ながら秀逸な返答だったと自負している。

 「終わったー。俺はマーシーを傷つけてしまったー。」泰斗が急に一人で落ち込み始めた。

 「え?女なの?」自分で言いながら俺のツッコミもおかしいことに気づいた。

 「いや女だったとしても傷つかんわ。」そう言うと泰斗はしかめっ面になった。

 「その一言が俺を傷つけたわ。」俺はこいつを放っておくことにした。

 俺は一先ずインターホンを押した。しかしいくら待っても家主が出てくるどころか何一つ変化が起きなかった。

 「出ないなぁ。」俺は居留守を疑い、家の様子を遠目で確認した。しかし、家はどの部屋も明かりが消えておりそれはインターホンを押しても変化はなかった。

 「そういえば。」急にショックを受けていた泰斗が家の端へと向かっていった。

 「何?」俺はとりあえず彼の後を追ってみた。

 「秘密のルート。」泰斗はとてつもなく大きなひそひそ声でそう言うと家の隣にある今にも折れそうな細い木に登り始めた。

 「お前それなんて言うか知ってるか?不法侵入って言うんだぞ?」すると泰斗は登りながら楽しそうに答えた。

 「大丈夫だって。2回くらいやって2回とも失神で済んでるから。」それは二階のベランダからあいつが現れれば誰でもびっくりするであろう。俺はそのとき会ったこともない田中先生に同情の念を抱いた。

 しばらくすると泰斗は二階のベランダに降り立った。しなっていた木の枝が勢い良く元に戻った。

 「早くマーシーも。」ひそひそ声なのに何故かベランダにいる彼の声が鮮明に聞こえた。仕方なく俺も不法侵入に加担することにした。

 一番低いところにある枝に手を伸ばし、ぶら下がっただけで木はメシメシメシと悲鳴を上げた。

 「無理無理無理。折れる折れる。」俺は思わず木から離れた。すると泰斗は笑いながら俺を見下ろしていた。

 「そりゃそんな細い枝もちゃそうなるって。木登りしたことないの?」なんか馬鹿にされた気分で少し腹が立った。俺はとりあえず少し太めの枝を探し、手をかけた。今度はだいぶマシでそのまま同じ要領でどうにか二階の高さまできた。

 その時明らかに木じゃない何かを触った感触がした。

 「どうした?」俺の薄いリアクションを泰斗は感じ取ったようだった。

 「なんか触った。」そう言いながら俺は手を見たが暗くてよくわからなかった。俺はとりあえずそのままベランダへ行くために一番ベランダの近くにあった枝を持った時、少し手に痛みを感じた。ますます何を触ったのか怖くなりながらもとりあえず枝を渡りきりベランダへ降り立った。

 「大丈夫か?」泰斗はそう言いながらスマホを取り出しライトをつけ俺の手を照らした。すると俺の手は見事にかぶれたように赤く腫れ上がっていた。それを見た途端、何故か何もしていないときですら手の痛みが激しくなった。

 「こりゃ毛虫でも触ったな。」泰斗は軽い口調で推理した。

 「やばいなぁ。死んだひいじいちゃんに怒られそう。」俺はそういう軽口を叩いてどうにか痛みを紛らわせた。

 「なんで?」泰斗のわりには良い返しだった。

 「昔ひいじいちゃんがよくお前はあの時毛虫に刺された人がいなかったら生まれてないんだから毛虫を殺しちゃいかんって言ってたから。なんでか知らんけど。」痛みのせいでずいぶん雑な説明になってしまった。

 「で、こっからどうすんの?」泰斗が興味なさそうにしてたから俺は話を先に進めた。すると泰斗は急に二階の窓をノックし始めた。

 「バカやろう。お前何してんの?」俺は急いで泰斗の腕を窓から離したが、大きな音が一発なってしまった。俺がソワソワしてる横で泰斗はまるで友達の返事を待つ少年のように返事を待っていた。しかし、幸いなことに中からは誰も出てくることはなかった。俺が少しホッとしていると、泰斗はさらに奇行を続けた。

 今度は普通に窓を開け始めた。

 「空いてんじゃん。お邪魔しまーす。」この出来事に関してはこんな知り合いがいるにもかかわらず、窓に鍵をしていない田中先生が悪いと思った。

 俺は泰斗に続いて中に入った。中には時に誰も居なかったが、食べたばかりの弁当の残骸や臭いからついさっきまで誰かが居たということは安易に想像はできた。

 すると泰斗は薄暗い部屋の中を何か探すようにスマホのライトで部屋を照らしていた。

 「お前ここ一応人ん家だからな。」しかし、泰斗は何も答えず探し続けていた。するとすぐに「あった。」と言いながら何かボタンのようなものを見つけた。俺が何かを聞く暇もなくボタンを押した。すると天井から屋根裏へ続いているであろう階段がゆっくりと下に降りてきた。泰斗はそれが降り切るのを待たずに階段を昇って行った。

 俺はもういろいろツッコみたいのにそんな暇さえ与えられず俺もとりあえず階段を昇ろうとした時、急におっさんの情けない叫び声が聞こえてきた。俺は急いで階段を駆け上がるとそこには気を失って倒れているおっさんとなんか知らないけどめっちゃ笑ってる泰斗がいた。

 俺はとうとうこいつやった。と思いとりあえず事情を聞くことにした。

 「これはお前がやったのか?」

 「そう見たい。ごめん。」泰斗は半笑いで答えた。おっさんは椅子に座っている時に襲われたのか椅子から崩れ落ちるように倒れたせいかすごいおかしな態勢になってしまっていた。

 「お前これどうすんだよ?」俺は少し怒った口調で問いただした。

 「そのうち起きるって。失神なんてこれで3回目だし。」どうやら彼は勝手にびびって気絶してしまったようだった。いや勝手にではないのだが、とにかく俺は彼を仰向けの態勢に寝かしていると、泰斗が彼の机からあるものを見つけ出した。

 「これって平ちゃんが持ってたラジオじゃない?」泰斗の言葉に俺も机に視線を向けると確かに見覚えのあるアイテムが置かれていた。

 「やっぱり平ちゃんここに来てたんだ。」泰斗は嬉しそうに飛び跳ねていた。俺はそのポケットラジオを手に持った。ポケットラジオなんてこんな時代にはないアンティーク品に思えた俺は本当に音が出るのかを試そうとイヤホンを耳に入れた。すると蛇のように音も立てず、泰斗は俺の横に滑り込み、もう片方のイヤホンを耳に入れた。

 俺がラジオの電源を入れようとした時、倒れていたおっさんがむくむくっと動き出した。

 「おっさん起きたんじゃね?」俺がそう言ったのは電源を入れた後だった。おっさんは寝ぼけた顔で俺たちを見ると急に顔色を変えながら何かを言っていた。恐らく「よせ。」か「干せ。」まぁとにかくその姿を見た時俺も泰斗も急な騒音にびっくりしていた。

 気がつくと俺たちはなんか別の部屋にいた。

 

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