第4話 ポケットラジオ
行く宛はあるとはいえ、俺は路頭に迷った気分だった。自分の家だと思っていた場所は別の人間が住んでいる。俺は別の世界にきてしまったのでは?もしそうならその行く宛も本当にあてになるのか?俺は孤独の恐怖を感じながら、そのあてを目指していた。電車や街の風景や周りを歩いている人々に特に変わった様子は見られなかった。本当に俺の部屋にあの二人がいたことだけが異常な状況だった。俺は目的地到着までの道中、今置かれている状況で頭がいっぱいになっていた。俺はもしかして死んだのか?でもいつ?どのタイミングだ?いやもし死んでいたとしたらあの二人が俺を見えているのはおかしな話だ。俺はそんなことを考えながら電車に揺られながら、目の前の女性を見つめてみた。しばらくすると女性は気味悪そうに俺を睨みつけると、スマホの画面をさらに近づけて、一生懸命俺を視界から追い出していた。
やはり周りには見えている。じゃあなんだ?俺は本当は存在していなかったとか?いやじゃあ今までの俺の経験してきたことは?もしかして誰かの夢の中に住人とか?なんかそういうオチのゲームがあったような?でももしそれが本当だったらそれはそれで切ないな。
俺は考えれば考えるほど、どんどん気持ちが落ち込んでいった。こんな時こそラジオを聴くのが一番。俺はポケットからポケットラジを取り出しイヤホンを耳に入れ、周波数を合わせた。
するとまたしてもとてつもない高音が俺の耳を貫いた。俺は意識が飛びそうになり、咄嗟に耳からイヤホンを外した。
「壊れたか?」俺は思わず呟いた。確かにいちいち周波数を合わせるラジオを使っているやつなど俺しかいないと思う。だが、周波数を合わせるときのあの音がラジオの醍醐味だと言うと、たいてい引くほど引かれる。友人たちからも合コンではラジオの話題が禁止されている。
俺は目的地に着いたらポケットラジオも見てもらおうと思い、ポケットにしまうと久しぶりにスマホの動画サイトを漁りながら、時間を潰すことにした。
しばらく漁っていると、いつのまにかお笑い芸人のコントが関連動画にで来るようになり、漫才の動画をちょこちょこ再生してはすぐに次へを繰り返していた。今ってこんな奴らがいるんだぁ。基本テレビを見ていない俺はそんな感想を抱きながら見ていると、関連動画のサムネイルに小さく見たことがある2人が映っていた。
もちろん迷わずクリックした。そこにはどこからどう見てもさっきの二人によく似た男二人のコント動画だった。しかも、そこそこ面白かった。俺は変な親近感からか彼らの動画をあさり続けた。しばらく見続けていると彼らが何かのバラエティ番組に出ていたときの動画を見つけた。俺はとりあえず画面をタップした。どうやらそれは彼らがデビューして間もない頃の番組で二人が自己紹介をしていた。
俺は二人の名前を聞いて思わず耳を疑った。
「どうも。岸本泰斗です。」
「時田雅志です。」俺はその名前だけ聞いて、コンビ名は右耳から左耳へ通り過ぎて行ってしまった。確かあの二人もそんな名前だったような?ますます頭がこんがらがっていた。あいつらお笑い芸人なのか?にしてはニート臭が漂っていたようにも感じた。まぁそれぞれいろいろと事情はある。俺はそう察して気にしないようにしようと思ったが、まぁできるわけもない。
俺はとりあえず彼らの名前を検索バーに入力し、検索ボタンをタップした。するとかなりのヒット数だった。コンビ名は「パラレルワールド」変なコンビ名だなぁ。でもどこか彼ららしいと思ってしまう自分もいた。まぁこんな名前じゃ売れないよな。なんて思っていたら、売れているどころか超売れっ子芸人の痕跡が、あちらこちらのサイトから醸し出していた。なんならあの芸人のグランプリで優勝しているとか、彼らの持っているレギュラー番組もかなりあった。
ちょっと待て。俺はさっき大スターとピザを食っていたのか?俺はもう少しテレビを見ようと思った瞬間だった。でももしそうならもう少し警戒するべきだと俺は思った。俺が最初にあの家に着いたとき鍵を回したらしまったと言うことは、鍵は開けっぱなし。それに大ブレイクしているのならもちろんそれなりに稼いでいるはず。でも夕食はピザ。まぁでもそれこそ人それぞれか。俺は少し得した気持ちになり、少しテンションも上がっていた。
そんなこんなしているうちに電車は目的地の駅に到着していた。俺は電車が減速している間に立ち上がる派だった。すると立ち上がった瞬間めまいが俺を襲った。その瞬間電車の小刻みなブレーキに俺はバランスを崩して倒れてしまった。思いっきり転んだ俺は周りからの冷ややかな視線を浴びながらブサイクに立ち上がった。もちろん先ほど睨まれた女性にもさらに軽蔑するような視線を送られてしまった。俺はついてないと思っていたが、こんなのはまだ序の口だった。ポケットの中に何か違和感を感じた。
「もしかして」俺は咄嗟にポケットからポケットラジオを取り出すと、みるも無残な姿で俺の前に現れた。思いっきり横に転けたことにより、俺の全体重がポケットラジオにかかり、それに耐え切れるわけもなく悲鳴を上げるようにバキバキになっていた。
俺は深海数万メートル級の深いため息を吐くと、相棒の亡骸を再び大切にポケットにしまい、電車を降りた。俺はとりあえず微かな望みを田中先生に託すしかないと思いながら、足早に田中先生の家へと向かった。
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