第4話

「せんせい、アイアイに教えてもらって絵をかいたよ」

「あら、さっそくね。栄太郎君って機動力最高よね。すぐやる課みたいな」

「キドウリョク」

「そう、フットワークね。すぐやると言う」

「ふっとわーく」

「ま、いいよ。どれどれ」

「マヨドレ、ドレ」

「こら。でも、栄太郎君のいい所は、先生の言葉を聞き捨てにしないところよね」

「そういえば、こないだせんせい、怪獣って言ってたよ。ぼく、ゴジラしか知らないけど、えいがに出てくる何とかドンとかなんとかザウルスって怪獣なの」

「いいえ、あれは恐竜。えっ、先生、怪獣なんて言ってないわよ。それほんとなの。私、怪獣の話なんかしたりしないわよ」

「キョウリュウか。でも、せんせい、たしか怪獣って言ってたんだけどなあ」

「どれどれ、ふーん。栄太郎君にしては上出来ね。アイアイの影響、出てるじゃない。さすがアイアイね」

「せんせい、どうしてアイアイをほめるの。ぼくの絵なのに」

「あっ、ごめん。栄太郎君の絵だったね」

「ぼくの絵だよ」

「とっても良くできてるわよ。でもね、栄太郎君、これまでの栄太郎君の絵とはまるっきりちがって、なんだか別人の絵みたいよ」

「マルッキリ」

「そう。ぜんぜんという意味よ。栄太郎君の絵じゃないみたいのは、ちょっとうれしくないんじゃない」

「うん、ぼくのとぜんぜんちがう。それはアイアイが教えてくれたからなんだ」

「そう。アイアイに感謝ね。じゃあ、これ、今度のコンクールに出してみようか」

「うん。でも、アイアイのおかげなんだね。ちょっとくやしいな」

「でもさ、書いたのは栄太郎君でしょ。だからこれをきっかけにして、どんどんうまくなろうよ。でもね、栄太郎君。これからはアイアイの絵みたいではない、あなたの絵が描けるともっといいわよ」

「アイアイの絵じゃない、ぼくの絵か。うん、ありがとう、せんせい」

「これも元をただせば、あなたの鼻くそのおかげね」

「そうだね、せんせい。はなくそくん、ありがとう。ねえ、せんせい。ぼくの絵はにゅうせんするかなあ」

「そうね。できるかもしれないわ。今度はアイアイは出さないそうだからね。ほら、彼女体調が悪くてさ。それで、もし栄太郎君の絵が入選したら、先生、栄太郎君にクレヨンをプレゼントしようかな。アイアイのと同じ36色のは無理だけれどね」

「ほんと。せんせい、ありがとう」

「栄太郎君、まだ、そうと決まった訳じゃないわよ」

「せんせい、アイアイのクレヨンは特別なんだね。だって、だれも持ってないもの」

「そう。画家のおじいちゃんからもらったものらしいわよ。とっても大切なものだってことがよくわかるわよね」

「うん。ぼく、それを知らずに落っことして茶色のクレヨンを折っちゃったんだ」

「これから気をつけようね」

「うん、わかった。ありがとう、せんせい」


「せんせい、ぼくの絵、ダメだった。ルイルイのがえらばれていたよ。おなじようにアイアイに教えてもらったのに」

「残念だったわね。クレヨンはお預けね」

「うん。でも、ぼくこんどこそがんばる」

「でも、栄太郎君。なぜ栄太郎君のが選ばれなかったか、ルイルイのは選ばれたのか。がんばる前にそれを考えてみる必要がありそうよ」

「うん。でも、わかんないよ。どうしたらいいんだろう」

「そうね。確かに難しいわ。でも、それを何とかしなくちゃ、次にどうしたらいいのかが分からないでしょ。戦略って言うの」

「センリャク。でも、ぼく、やっぱりどうしたらいいのかわからない」

「ルイルイに聞いてみるのも一つね」

「うん、わかった。でも、どうしてルイルイのはよかったんだろう」


「ねえ、ルイルイ、絵のにゅうせんおめでとう」

「うん。ありがとう」

「ぼくのはだめだった」

「また今度があるじゃない」

「うん。そのことなんだけど、せんせいがルイルイにそうだんしてみろって」

「えっ、何を」

「ええとね、なぜルイルイのがよくて、ぼくのがだめだったのかなんだって」

「ふふっ、それは私がうまかったからよ」

「でもさ、同じようにアイアイに教えてもらったじゃない」

「教えてもらってもうまくいかないこともあるわよ」

「そうか」

「私、教えてもらった後、お家でいろんな絵を何まいも何まいもかいて練習したの。そして、おうちでママとパパにも見てもらったわ」

「へえ、そうなんだ」

「いくつかかいた中で、一番できのよかったものを出したのよ」

「そうか。ぼくはアイアイに教えてもらいながら書いたものをそのまま出したんだ」

「私、あのあとアイアイに相談したの。どうしたらアイアイみたいにうまくなれるかって。そしたらお家でもかいてみたらって言われたのよ。だからお家で図鑑を見ながら景色や動物をかいてみたの。ほかにもテーブルの上のお花とか。つまり、ほら、練習よ」

「レンシュウ」

「そう、練習。何度もかいてみるのよ。でないとうまくならないわ。あたりまえでしょ。これ、ぜんぶアイアイの受け売り」

「ウケウリって」

「教えてもらったことをそのまま言ってるの」

「ふーん。おうちでなんどもかくんだね」

「ほら、おべんきょうでもいっしょよ。復習って言うんだって。これもアイアイの受け売り。お家で何度も練習してじょうずになるの」

「そうか。おうちでなんどもかくんだね。フクシュウか。ありがとう、ルイルイ」

 栄太郎がその晩、さっそく絵の練習に取り掛かったのは言うまでもない。がんばれ、栄太郎。







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