第52話 本来

ぼくは過去を乗り越え、未来を途っ越し、遂に本来へ到着した。


1971年、出生する


1971年と100日、首に1Kgの重たい餅をかけられ、立ちあがりをせがまれる。


本来は、本人は重く苦しいだけであるが、周りは喜んでいる。本末転倒した。


1978年、小学校入学


本来は、友達と悪ふざけしたり、秘密基地を作って謎の交信をしたり、断崖絶壁の坂を肥料袋で滑り降りたいのに、親や先生は勉強しろとばかり。毎日勤勉、難便した。


1983年、初めて告白された


ぼくの気持ちは恋愛なんて分からないのに、女の子は一方的に愛という形を押し付けてくる。もらったチョコを食べたらしょっぱかった。添えられた手紙はヤギにあげた。


1991年、成人


成人式で代表挨拶を述べた


交流会では、誰も寄って来なかった。級友と話したかったが、居なかった。田舎と都会の喧騒。自慢というののしりあいの現場でしかなかった。


2001年、結婚式


新郎挨拶を懸命に暗記し披露したが、妻の涙しか観衆は見ていなかった。娘からその両親への棒読みの言葉。かなわない君のシチュエーションとシチュー。



2051年、ぼくの葬式


一番悲しむべきぼくの妻が一番慌ただしい。色んな決定をせがまれている。本末転倒だ。そこにひとりの偉大な男が現れる。



「奥様、あちらの思い出ROOMでひとりお休みください。あとはわたくしにお任せください」


「ちょっとまてよ、それは本来オレがエスコートすることだが…」


「お客様、あなたはもうお亡くなりになっているのに、そのようなことは本来的ではないと思われますが」


それから、ぼくは、その男を本来と呼んでいる。


彼は今、本来あるべき今をそれぞれ書き換えている。今まで出回った、書籍や映像、SNSの至る所まで。


本ができて以来そうあるべき。(基、である。)

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