第38話 エレベーター式

「お前エスカレーター式だからいいよな」


「ほんと羨ましいよ。大学まで確定だからな」


「俺はエレベーター式からだ」


友達二人は、返す言葉もなく沈黙が続いた。



まぎれもなく俺の身体はエレベーターであった。


初恋の時も「チン!」と鳴って彼女が現れた。「好きだ」と告白する前に、自動ドアは閉まった。


高校受験の時もそう難問を考えていたら「チン!」となって回答を見せてすぐ閉まった。


結婚相手も「珍」エレベーターの中から「こんにちは」と白いウエディングドレスを纏って出て来た。


何の不自由もない。嫁さんもだ。


「ちん、オギャー、おとこの子だ!」


嫁さんもすっかりエレベーター式に慣れた。「フーフー チン」のエレベーター式呼吸法でお産もゼロコンマ1秒で乗り切った。なにせドアが開いて自然と生まれてくるのが分かっているから。




気付けば、俺は何もしないまま老人になっていた。今では、365日公共施設を巡り歩いている。コツは田舎のエレベーターがない公共施設。一日中居座れるし、も現れないから安心なのだ。


「ちーーーん」いつもと違う寂し気な音が鳴った。


ついに来たと俺は覚悟する。



自動ドアが開く


目を瞑り一歩前へ


落ちる


底は人々が苦労して築きあげた基礎。


「頭を使い、学び働き、充実することがやっとできた」


俺は石を切り、ヒエラルキーピラミッドを作るため、せっせと運ぶ労働をする。エレベーターを使って…

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