第29話 君のためにつくった物語
いつも頭の中で、ストーリーを掻き上げ、すぐに破る。
君は言った。
「初めての恋は実らない方が素敵よ。なぜって、思い出が一生煌くから」
また、ぼくは真夜中頭を掻き無視る。
「そんなはずはない。素敵な恋は実るべきだ」
明け方の始発電車が軌跡と奇跡をもたらす。
昼過ぎに目覚めたぼくの頭には、過去の出来事などは全て忘れていたつもりが、完璧に昔のことを想い出したのだ。
初恋の恋文
初めてのデート
進学の失敗と挫折
恋人との別れ
就職して毎日変わり映えない日々
生涯の伴侶との別れ
独身に戻った哀愁
虚無感
初恋の人からの連絡
きらめき感
そして、今日、40年ぶりにあの人と会う。
「久しぶり」
「ああ、久しぶり」
「元気だった」
「ああ、色々あったけど元気だよ」
「あのー」
「あ、そうだ」
「あなたから先に」
「じゃあ」
ぼくは君に創った物語を書いたレターを読む。
『ぼくは君に出会うために生まれた。一生かかっても感謝しきれない。初めて君を見た時に運命感じたよ。ありがとう、君は初恋は実らない方が美しいと言った。ぼくはそう思わない。だって、全て想い出したから』
続きを読もうとしたら、彼女は遮った。
「もうわかったわ。なぜ奥様が亡くなって辛かったのに、連絡くれなかったの」
「なぜって、全て想い出せなかったから」
「だから、こんな弔文作ってたのね。全て奥様に向けた思い出でしょ」
「・・・・・」
「SAYONARA」
彼女は静かに去って行った。
またひとり。ひとり、グラスを傾けプリズムを集める。
君の為に創った物語が、君のための物語だったとは…あっ全部想い出した!SAY GOOD LIFE
「わたしのONARAを聞いても、なんとも思わない?」
「君のONARAなら全然かまわないよ。気にしないで」
「あなたって、素敵。寛容な人ね」
「人間だから、だれでもONARAするでしょ」
「ふふふ」
「HAHAHA」
「あなたは結婚にむいていないわ」
「ああ そうかもしれない」
「わたし出ていくわ」
「わかった。WARUKATTA。ごめん」
「なによ、いつもそう」
「ちょっと風にあたって来る」
私鉄沿線の路地にある自販機で缶コーヒーを2本買う。
1本を亡き妻の墓前に備えに行く。
もう辛くない。君もだね。
花を飾る。その横にオネスティに書いた物語を添える。美しく咲くストーリーが穏やかな風とともに蘇る。
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