第11夜・あの日、あの時

「寂しいし残念だけど、“あの日”、“あの時”はどれだけ思い出しても…

悔やんでも…

変わんねぇぞ。」

「………え……?」

昔を思い出していた神楽に掛けられた言葉を紡ぐ声は、酷く震え、寂しそうだった。

まるで、自分もそうであったかの様にどこか遠くを見つめるオールは、今までとは違う雰囲気を纏っていた。

「どういう…、こと…、?」

「そのまんま。どれだけ

『あの日こうしてれば』とか、『あの時こうじゃなけりゃ』って後から行動を悔やんでも……

後悔、しても…。結局その『あの日』も『あの時』も…

どっちも変わる事はねえんだ…………。

俺も、お前も。お前の主人だって。誰も結果は出るまで見ることはできない。

見れたとして、それを変えることもできない、って意味。」

意味を尋いておきながら、神楽にはあまり理解できない内容だった。

難しいのだ。誰かの指示のみで生きてきた神楽には、経験が足りなさすぎる。神楽が見る限り、オールと神楽の年齢は近い。生き方だけで、こんなに思考が変わるのか、と神楽は驚愕した。それ程に、神楽にとってオールの考えは大人に見えた。

「わからないわ…。もう少し、わかりやすく……、、、」


「んー、?わかりやすく?

そーだなぁ。

『運命』って言うんだっけ?いや……………なんかちがうな…?」


「『運命』…?わたくしたちは、それに全部を決められているって事?

………今のわたくしが、貴方と話しているのも…。。…それは…、嫌、だわ………。」

神楽が難しい顔をすると、オールが突然吹き出す。

「ふはっ、おもしれーの、お前。

一緒だよ、俺も。運命とかいうフザけたヤツに縛られるのは…、全部決められるのは嫌だ。

俺の夢の一つなんだ!

《運命を断ち切り、自分たちで誰もが笑っていられる世界を、

運命なんかが追い付けない騎士団を作ってみせる》ってね。」

「それは……、今、あるの…?」

「んーん。ない。

でもいつか。騎士団が組める人数が集まった瞬間に、

結成してやるんだ。」

素敵…、

そう言おうとした神楽の脳裏に浮かんだのは、誠だ。

『平和?戦うのをやめる?綺麗事を吐き続けるのも大概にしろよ!

誰かが平和じゃ、誰かが危険にさらされている!

誰かの平和は、他の誰かの平和を犠牲にした上で成り立っている!思想が違う者達が暮らす世界では、

真の平和なんて存在しない!訪れない!』

「でもやっぱり…、綺麗事、なのかしら……………。

わたくしたちが今、こうして話していられるのも、幸せ、なのも…、

誰かの幸せを踏み躙って掴み取ったものなのかしら…。」

「ああ、綺麗事だな。」

「!?」

オールは少し寂しそうに、何処か遠くを見つめる様に話す。この集落に来てから、オールがこの表情を見せる機会が増えた。

「そうやって、誰かの幸せを踏み躙っているのならば。

誰かの幸せが犠牲になっているのならば。

俺らは、その人の幸せの分も幸せになって、そんな幸せが積み重なった時…

いつか、その人たちた上乗せされた幸せを分けてやるんだ。」

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