第10夜・八剱神楽

わたくしは、この八剱騎士団の集落で生まれた、普通の女の子だった。

2歳の頃に流行病で母が他界し、7歳で父が戦死するまでは、父がわたくしの世話を一人でしてくれた。


父が戦死してから、わたくしの生活は一気に変わった。保護者がいない7歳児は、やはり襲撃で命を落としてしまう。

だからと言って、近所に住む人にお世話になれるほどの余裕も、信頼関係もなく。



気付けば八剱騎士団に入団させられていた。その団長の八剱誠が、わたくしの面倒を見てくれた。代わりにわたくしは、彼の最強の兵器にならなくてはいけなかった。

泣いても吐いても、骨が折れても終わらない鍛錬が辛くて、何度死のうと思った事か。

それでも嫌になって抜けださなかったのは、【桃姉様】がいたから。

例の作戦と似たような作戦の犠牲になって、今はいないのだけれど……


桃姉様は八剱騎士団の幹部で、わたくしと同じ、団長に保護された孤児。違うのは、元々集落で暮らしていなかった、旅人の娘だということだけ。

わたくしによく構ってくれて、剣術のコツも沢山教えてもらった。


熱を出していた時も看病してくれたし、(その日も鍛錬はあった)

怪我の手当てもしてもらった。

当時は気が付かなかったし、気付いても特に気に留めなかったけれど、

姉様は、わたくしよりも沢山怪我をしていた。

手当すべきは姉様だったのに。

姉様は『鍛錬でドジしちゃったんだ』とか、『荷物降ろそうと思ったら落ちてきちゃったの、だから大丈夫』って言ってたから、あの頃は大丈夫なんだ、って思ってたけど…

大丈夫じゃなかった。今考えれば、姉様の色んな行動が、今のわたくしに起こっている出来事で、

その理由もわかる。


あの頃安全だった理由も、

姉様が大丈夫だと言った理由も。


あの時、気が付いていれば。

あの時、気に留めていれば。


きっと姉様は自分から犠牲を買って出ることはなかった。

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