第9夜・八剱騎士団戯曲【後編】

(だ、ダメよ!

わたくしは御館様がいてくださらないと何もできないんだもの!!御館様が間違っている事なんて絶対にないわ。

世界の人々がそう言っても、御館様は間違えない。

そんなの、世界の奴らが間違っているんだから。

邪心をはらいなさい、神楽。)

神楽は脳裏によぎった疑問を払いのけた。

誠の考える‘作戦’とは_________騎士団の集落に住む者全員の生命を使って“イラー”を覚醒させる事。

オールを心身共にギリギリまで追い込み、中身の“イラー”が暴走したところで、コンタクトをとる。


と神楽は聞いている。情報はかなり少ないのだが、誠に心酔する神楽はそれに気が付かない。それほどに彼女は盲目だった。

神楽がまだ幼い頃、似たような作戦があった。戦えない女性や子供、怪我人を中心に犠牲者が出て、怪我を負った者は後から死んだ。

そう覚えていた。

後から文書を読めば、それは犠牲者を出すつもりのない作戦だったが、今回は犠牲を前提としたものだ。現実的ではあるが、残酷だ。

今回も、昔と同じような事が起こるのだろうか。同じようなことを起こすのだろうか。そうならば。

そんな争いや、作戦を実行しなくてはならないようにしてしまう“イラー”はなんて罪深い存在なのだろう。

まず、神楽は“イラー”をよく知らない。見たことも、話したことも、触れたことも、手合わせしたこともない。

誠から聞く話だけが頼りで、あとは何も知らない。






《御館様に従うべき》


《みんなを護る為に逆らうべき》


神楽の中で、その二つの考えが交差する。

(やっぱり、力のないわたくしなんかが実力で御館様に世代交代を申し込むのは無理だし……

私だけで作戦を実行するには力と人手が足りない………

やっぱりダメなのかしら…………。)







「神楽。夕食を持ってきたよ、

調子はどうかな?余計なことはしてない?」

丁度、神楽の部屋に誠が来た。絶好のタイミングなのだが、神楽の中ではまだ覚悟は決まっていない。しかし、これ以上に話を聞いてもらえる機会はきっとない。

だから、勇気を振り絞って、音にする。

「……ぉ…、御館様!

わたくし…、わたくし、思っていることがございまして…………」

「ん?なあに?謝罪なら……」

依然謝罪を拒否する誠だが、神楽の今までにはなかった真剣さに押され、言葉を紡ぐのをやめて話を聞こうとする。

「なあに。どうしたの?」

「…ぇ………、わたくしのお話を聞いてくださるのですか……?」

「うん。お前があまりにも真剣に話し掛けるから。

頼み事や提案なら、内容によっては許容できないけどね。」

上手く言葉を選ばなければ御館様に瞬時に跳ね除けられる……

そんな恐怖と不安に駆られながら、神楽は必死に言葉を探す。

「………御館様…、わたくし…、一つ。

一つだけ、思う事がございまして…。提案です。ただの提案ですので…。

その…、わたくし、会議では賛成しましたが、例の作戦に、実は反対しています!

あれでは、沢山の犠牲が伴い……………っ」

「だぁめ。あのガキが大人しく来てくれないんだ。

何?神楽はあれを説得できるの?できるならやってみなよ。人間は、わが身可愛さに他を陥れる。騎士団に所属していない_____集団で運命を共にしていないあの子は特にね。」

誠は煽るような口調で神楽と距離を詰める。いかし神楽はひるむことなく返答する。

「します!絶対に。」

「………ふーん?そっかあ。

なら、しておいで。

ただし!

2日後の日没までに、だよ。でなきゃ、作戦が没になるから。」

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