第5夜・少年達と騎士少女

「オール、サバクウツボの弱点は知ってるのか!?」

「俺みたいな軽いクエストを転々としてる奴が、んなコト知ってると思うかーっ?

まぁでも…!“砂漠”に住む“ウツボ”だから、、取り敢えず斬りつけとくか!!!」

サバクウツボの生態を全く知らないオールは、取り敢えず適当に、とでも言うようにウツボの体のあちこちに短剣で傷を付けていく。剣の技量はそこそこあるものの、客観的に見れば最早「やけくそ」だ。

「オレも、あんまり知らねーんだよな!『舞い上がる木の葉フライ・リーブス』!!!!」

サバクウツボの歯を求めていたリヒトさえも知らない様で、草属性の魔法を打ち込む。この世界の魔法には、ある「法則」がある。それを考えれば、一応リヒトの攻撃魔法は間違ってはいない。

だが、小さなリヒトから生み出される小さな攻撃は、目の前で暴れる巨大な魔生物にはまるで効いていない。

「なぁ、マジでどーやったらコイツ死ぬの!?」

「知らねーよそんなの!!っつーかオール、このクエストにチャレンジするんなら、

少しは調べとけよ!!」

攻撃の効果が目に見えないことに腹を立てたのか、リヒトは軽くオールに八つ当たりをはじめる。

「うるせぇな横取りされそうだったからだよ!焦ってたの!」









「坊や、あなたいいもの持ってるわね。

お姉さんに頂戴???」

戦いながら喧嘩をするという二人の余裕も、この声ですぐに崩れ去った。

リヒトの真後ろからかかるその声の主は、一人の可憐な少女だった。腰辺りまである美しい黒髪を両耳の下で緩く二つに結って、前髪は眉が隠れるくらいの位置で綺麗に切りそろえている。

ぱっちりとした紅い瞳とその黒髪が特徴的な美少女だ。

「いい…もの?」

そう不思議そうに首を傾げるリヒトに微笑みかけた少女は、自身の前髪を弄りながら話す。

「そう。そのピアスとネックレス。とても綺麗で____。御館様、きっと喜んでくださるわぁ。ね?わたくしにくださらない?」

「やだ。これは大事なモノだから。」

少女は優しく微笑みかけるが、リヒトは全く動じず即答する。

即答されてしまった少女は、駄々をこねるかとオールは思った。だが、「それなら別にいいわぁ。」と潔く諦めた。そして今度は、オールに視線を移す。

「……イラー…。

御館様が呼んでる。わたくし達と一緒に行きましょう…?」

「……は?」

撫でる様な優しい声音で語り掛ける少女に、オールは眉を潜める。

「だからぁ。お兄さんじゃないわよ。わたくしが話しかけてるのは“イラー”。あなたみたいな下等生物と一緒にしないでくださる?

貴方なんてただの“器”。それに………あなたが器なんて信じられない。そんなに気配を漏らして、…力も小さいし。

でもいいわ。御館様が間違ったことをわたくしに伝えるわけがないもの!

イラー…、すぐにお連れしますわ…♪」

ぺらぺらと話を続ける少女に、オールとリヒトは呆れはじめた。

「はぁ…?」

「じっとしていてね、お兄さん…!!

上手に斬れないからぁ!!」

少女は自身の左耳に付けられた装飾________ピアスから何かを引っ張り出した__と思えば、それがみるみる長剣に変わって行く。

そして、少し前の優しそうで可憐な少女と同一人物とは思えない形相で、その剣を手にオールに襲い掛かってきた。














オールを攻撃する少女は、時間が経つにつれて焦りが見えてきた。殺意の籠っていた一撃から、だんだんと必死さの溢れ出す一撃に変化し、それと同じように表情にも必死さが滲み出てくる。

「ねぇ!ねぇってば!早く朽ちなさいよ、下等生物!御館様はきっとお怒りだわ!だから_______っ!!」

「知らねーよそんなコト!

っつーか誰だよ!オヤカタサマって!!!」

長く続く攻防に、オールは呆れ始めていた。十分前後経った今では、あの時の少女の覇気は完全に消えている。

代わりに泣き叫びながら剣を振るっていた。小柄な体躯故か、一撃一撃のパワーはなく、スピードも人並みより少し早い程だったので、オールの余裕は保たれていた。それからもう少し少女の攻撃を避け続けていると、見物客、というほど平穏な者ではなさそうな男が来た。そして、ゆっくり口を開く。

「神楽ァ、またそんなこともできねェのかァ?

いつもいつも。お前は…」

「「馬鹿で 間抜けの 能無しで……」」

男と少女の声が重なった。

そして、たった今、少女の目から光が失われた。

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