第2夜・いざ、クエストへ

「あ~、荷馬車を借りられるくらいの金、残しててよかった~!!」

荷馬車置き場に着くと、ひとりでそう言葉を零した。出した金額上、どうしても小さくなる荷馬車と馬だが、今のオールには充分だ。

荷馬車に乗せるのはその身と補給物資、そして剣を研ぐための道具。生活に困っていたとは言えど、売ってしまわなくてよかったと安堵したオールが出発しようとすると、何かに服の裾が引っかかった。


…気がした。


何にも引っかかっている様子は無い。オールの比較的小柄な身体にしては大きく、少々だぼついた服だが、引っかかる程オールの周辺には物が置かれていない。

「ん…?気のせいか…、ちょっとビビって損した。」

「気のせいじゃねーよ。下を見ろや、下!」

下から声がした気がする。ただ、異常に下______地面からだ。

オールはそれを半分無視し、残りの確認作業を続ける。

「気のせいか、」

「だーかーら。気のせいじゃねーの!お前もふざけるなよ?

子供だからって相手にしないのは後々損だぜ?」

「そーいう様な奴は一番相手にしないほうが得だと思う性分でね。

で、結局は何の用ですか、坊や。」

半分無視しても尚下から投げ掛けられる声を、結局オールは相手にする事にした。

先程までわざと上を見て見ないようにしていたが、視線を声がする方へ落とす。そこには、床で胡坐をかいている少年がいた。相手にされたことをやっと理解したらしい少年はたちあがった。必死さが少し漏れ出す少年が可愛く思えてきたオールは、わざと少し屈んでは少し小さな少年より下の目線からそう訊いた。

「お前、此処に来てるって事はクエストチャレンジに行くんだよな?」

質問を質問で返してくるあたり、相当焦っているのだろう。ただ、それすら『少年』らしさが伺える。

「まぁ、そうだけど?でも、装備には言及するなよ!!気が付いたらココ来てて、持ってるのはクエストの紙!

もう分かってるんだよ、充分!」

「なんでお前は初期装備以下なんだ?今時の初心者だってもう少しマシな支給品がもらえるだろ?」

「だぁーからそこは突っ込むなって言ったろクソガキ!」





「知ってるの俺も分かってるんだよだってこんなの勇者の初期装備より弱いよ比べたら勇者の初期装備に失礼だもんねわかってますよちゃんとした武器もないし体術も使えないんだよねでもどうせサバクウツボには体術なんて効かないからねサイズの差でわかってるってばもう!」

「今の一息か、すげぇな。

オレにも教えてくれ。」

「もう黙ってくれ!」

マイペース(?)に会話を進める少年と、年上の余裕が全く無く、大人の対応ができないオール。

からかうつもりが、からかわれた。

「で!なんなの!結局!」

「オレも、そのクエストへ連れて行って欲しい。

報酬はいらないし、護って貰わなくていい。オレ、サバクウツボの歯が欲しいだけだから。」

先程のへらへらとした表情とは変わって、突然真剣な顔をした少年に、オールの表情も自然と引き締まる

「それで?俺への利益は?」

「オレ、魔法が使える。あ、あんたを出来る限り護る。討伐の補佐はする。

…………どう、だ?」

かと思えば、少年は不安そうに、自信なさげに訊いてくる。それが面白くなってきたオールは「うーん、どーかなぁー?」と少し悩む振りをしてやる。

「でもな〜、食費もかさんじゃうしぃ、怪我しても俺ぇ、自分で手当ができねぇんだよなぁー。ガキの面倒見るのも面倒だしぃ…、」

「お、お願い!言うことなんでも聞くから!」

「ん?何でも?」

「…?うん、何でも…………………………

……あ"!!」

言わされたことを自覚した少年は、悔しそうに眉間にしわをよせる。

「言質取ったからな〜!

よし、取り敢えず交渉成立か?……っと、出発の前に。

俺はオール。オール・キャンベル。どこにでもいる普通の人間!

職を転々としてるっていうかテキトーに簡単なクエストを漁ってる。お前は?」

きょとんとする少年に、オールは少し不機嫌そうな顔をして首を傾げてみせる。

「ぇ……、オレ?」

「お前以外に誰がいんだよ、」

「ぁ…、オレはリヒト。

あとは………」

突然困った様に黙るリヒトに、オールは嬉しそうに微笑んで手を差し出した。

「宜しくな、リヒト!」

「え…………?

オレ、お前みたいに家名も、職も、立場も言ってないのに、」

「いーっていーって。

隠しておきたいコト、人には言えないコトは誰にでもあるからさ。

それに、俺らはただの同じクエストクリアを目指すただの同志。つまり他人だ。他人の過去やら事情をそんなに掘り下げたくねーよ、めんどくせーだろ?」

オールはくしゃっと笑い、「ん、」ともう一度リヒトに手を差し出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る