04-019.Duel予選と見習い達。 Das Qualifying für Duel und Lehrlinge.
2156年10月13日 水曜日
朝八時半。屋外Duelコートに
屋外Duelコートは通常時二十四面のコートが
早朝にも関わらず既に客席は埋まり、大型のインフォメーションスクリーンが設置されている各スタジアムや共有野外座席などにも人が溢れている。皆、
今、この場で最も人目を引いているのはルーである。観客だけではなく、会場に居合わせる
しかし、そんな視線も何処吹く風で、全く気にも留めていないルーは平常運転だ。
「おー、ナンか鎧がいっぱいです。みんなピカピカピカって目が痛いです」
見渡す限り
目立つと言えば、羽根つき幅広帽にメタリックピンクの鎧と、下腹部は二本のリボンのみと言うテレージが大抵真っ先に報道のカメラへ収められる。ヴリティカなどはシルク製の原色が鮮やかなサリー姿であり、独特な雰囲気を醸し出し視線を集める。同様に、黒を基調に金糸模様の入った、ミニスカ
身体のラインにピッタリと貼り付いた、マイクロミニスカ極深スリットチャイナドレス姿の
「ルーちゃん、今日は可愛いメイドさん姿で出るんでですね! 森みたいな服は着ないんですか?」
そう言葉をかけたベルは、墨染めの着流しに袴姿だ。腰の角帯には大小二本差しで、一見すると浪人風。足元は墨染めの
「
「葉っぱ魔人はハロウィーンみたいでした!
使い込まれていると一目で判る鎧を纏ったハンネが、シャリシャリ、カチャカチャと
「私は
「ルーは
そして、何時の間にか食べたいお菓子の話題に摺り替わっている。
「三人共、話があらぬ方向に逸れてますよ?」
ラウデがやれやれと、会話の軌道修正しようと試みる。が、ハンネが会話に巻き込んだ。既に妹三人組は、話の発端が何だったのか意識外の様子。
「ラウデは、どんなお菓子がいいですか?」
「え? 私ですか? そうですね
ふいに話を振られたのでつい答えてしまうラウデ。この辺りの受け答えから話を自然に舵取りする
ちなみに。レープクーヘンは、クリスマス定番のお菓子である。ラウデの実家があるニュルンベルクでは
「はい、皆さん。開会式が終わって仕舞いますわよ? この後、すぐに組み合わせの発表ですから見逃してはいけませんわ」
パンパンと手を叩き、妹組の注意を引くテレージア。発散した会話を軌道修正して、これから大事な発表があると誘導する。はーい、と妹組から素直に返事が返って来る様子は、引率のお姉ちゃんに引き連れられた子供達である。
時間は九時になったところだ。中央のインフォメーションスクリーンへトーナメントの組み合わせ枠が表示され、コンピュータの乱数配置により決定していく。この場に集まった
乱数計算で全ての配置は瞬間的に決定しているのだが、徐々に表示させるのは実際に試合をする
「ルーの名前はどこにあるですか! ヒトの名前いっぱいすぎでワカランです。メンドイので帰るです」
「ルーちゃん、帰るのは早いですよ! まだ始まってないですから!」
インフォメーションスクリーンに背を向けて帰ろうとするルーの腕を捕まえ、説得を試みるベル。ルーは、帰るですー、と駄々っ子の様相だ。
「今帰ればティナから特訓と言う名のお仕置きが始まること請け合い」
「うぐぅ」
ポロリと
「ダレと
「ルーや。様式美は大切ヨ」
「いや
ほへーそうなんです?と、ルーは大して興味を抱いていないのが直ぐ判る御座なりな相槌を打っている。
本来、
冬季学内大会第一部の目玉とも言える
学園四年生から六年生までの上級生組がAグループに括られた第一、第二トーナメントへ割り振られる。学園新入生から三年生までの下級生組はBグループで用意されている第三、第四トーナメントが対象だ。各トーナメントは九十名を八つのブロックに分け、ブロックの勝者八名がベストエイトとなり、四つのトーナメントで合計三十二名が、翌週に開催される冬季学内大会第二部
尚、上級生と下級生を明確にトーナメントを分けるのは、純粋に
新入生を含む下級生組でも、過去の実績と技術の評価により、上級生組のトーナメントに組み込まれる。春季学内大会のティナなどが最もな例だ。今大会では下級生組である
第一回戦の開始時刻は九時半。二十四面の試合コートで
その一方、最初の試合に出場する
「うゆ? ルーは第四トーナメント会場、五番コート第三試合ってかいてあるです。どこいきゃいいです?」
先ほど通知された試合組み合わせをたどたどしい手付きで視界に表示させながら、ルーは素朴な疑問を口にする。ARコンソールで通知の詳細を表示すれば場所などの案内図も見られるのだが、如何せんルーはこの手の装置を殆ど活用しないため、まず人に聞くのが標準行動だ。
「ルーさん、屋外Duelコートの図面です。この場所が試合コートになります」
ラウデがMRで図面を空中に表示させ、ルーの試合コートを教えている。ほら、あの場所ですよ、と実際のコートを指差す。ルーは、おーありがとうです、と感謝の言葉を口にし、示された先へ手で額に
「どうやら全員ブロックが別のようだな。
「私のブロックにはエイルがいるわ。勝ち進むにはかなり厳しいわ、厳しいのよ」
「あら、マグダレナさんとエイルさんは共に二回戦のシード枠ですから、順当に進めば三回戦で対面するのですわね」
上級生組が今日試合をしないと聞いたルーは、ずーるーいーでーすー、とブチブチ言っていたが、テレージアに
――学園校舎正面玄関前噴水広場
大会中は、校舎正面玄関前の噴水広場に電子工学科のアバターショップが開店している。このショップは開店時間が十時からで、更新したアバター販促のため、アバターの元となった本人が購入者へ手渡しするサービスが定着している。
販促担当の
姫騎士さんの場合、六月の攻城戦イベントで新調した
「ウルスラ、私の耳がおかしくなったんでしょうか。用意されている商品の数をもう一度お聞かせ願いますか?」
「ん~? じゃあもっかい言う的~。予約限定の姫騎士フルセットが六千、エロスーツが一万、
それ以外に
「やっぱり単位がおかしいですて! 全部合わせると四万近いじゃないですか!」
「へーき、へーき。本選合わせて五日もある的~。
ウルスラの軽い一言には聞き逃せない単語があった姫騎士さん。
「いえ、待って下さい。サラッと仰ってますけど、私が
「うん、そだよ~。装備は日ごとに交換してくれるとウレシイ的~」
「何気に拘束時間がえらいことになるんですが……。そんなに売れるんですか? 四万弱が」
「去年は
「ええー……」
ウルスラから聞きたくなかった回答を受けて明らかにテンションが急降下するティナ。
昨年の冬季学内大会では、
「都合五日も鎧を装備しっぱなしなのはどうかと。私の鎧、一日中装備する前提じゃない金属製もあるんですが」
「そこはバカスカ新技術出しまくったティナが自業自得的~。アバターチームの夏季休暇を返せって詰め寄られるレベル~」
「ぐぬぬ」
姫騎士さんが要塞攻略イベントやエスターライヒの選手選考会で
結局、閉店までミッチリと購入者への手渡しサービスに勤しむのだった。
「おねーさま、勝ちました!」
「テレージアさま、一回戦は無事に勝利しました」
「二人共、おめでとう。試合は楽しめましたかしら」
はい、と元気よくテレージアへ返事をするハンネとラウデ。二人は連れ立って試合結果をテレージアへ報告に来たのだ。
この第一試合でハンネとラウデは、テレージアの
テレージアの技術はドイツ式武術を元に、家伝流派で特殊進化したものだ。それを
ならばと、剣技の教導を切り捨てた。彼女が一年を通じ教導したのは基礎である。それも、身体の使い方を重点に教え込んだ。体軸を揺らすことなく安定させる姿勢、身体の連動と
武術の土台となるのは身体の使い方だ。身体運用が向上すれば、自ずと元から持っていた技も冴える。更に新学年に入ってからは、テレージアがルーの鍛錬に協力したことで、その鍛錬を教導する面々からルーやベルと一緒にハンネとラウデも実戦に基づく技術などを面倒見て貰ったのだ。繰り返し身体に馴染ませて来た基礎と技術が繋がり、実戦で出せるようになったと証明された試合だった。テレージアも
同じく下級生組のベルも、危なげなく勝ちを掴んだ。僅か数年で流派上位に組する技を学ぶに至った一種の天才である彼女も、前回の春季学内大会よりも更に加速度的な技量向上をしている。そして今回は面白要素まで合流した。
「
「うむ、それは
妙なコントを繰り広げる
つい先日、
なんちゃって奥義ではあるが、浮身――脚裏から頭頂部まで関節含め脱力し不安定の中で安定させる――を中心とした身体操作の法で構成されており実用性が無駄に高く、普通に奥義と変わらぬ技になっている。新陰流兵法を修行中のベルに合わせて、刀術に馴染み深い浮身が基本なのだ。
ちなみに「にゃんこだまし」は、居着きをさせないよう肘を伸ばす状態で一段目の横薙ぎを仕掛け、肩甲骨を回し頭上で刀を旋回させ続ける螺旋の剣である。一段目は相手を崩すためのフェイントだが、二段目以降はドイツ式武術の「はたき切り」を想起させる軌跡を取る。
「にゃん月殺法の道のりは長いです!」
フンスと意気込むベル。新陰流兵法の奥義を学び始めているところに、怪しげなにゃん月殺法も覚えさせて良いのか
閉店後のアバターショップ。後片付けと翌日スケジュールの軽いミューティングを終え、長時間の拘束から解放されたティナの元にルーがトテトテとやって来た。午前中の試合後ではなく、この時間にやって来たのは、間違いなくショップを手伝わなくても良いタイミングを狙ったのだろう。
「姫姉さまー、勝ちましたですー。ルーはやれば出来る子なのですよ」
「はい、よく出来ました。どうでしたか、初めて試合会場に立って」
ティナは褒めて欲しそうに寄って来たルーの頭を撫でながら、
うひひ、と嬉しそうに笑みを浮かべるルーは、子犬のようだ。
「ルーは出来る子なのでナンも問題ないのです。相手の身体さわれないから時間かかってメンドイくらいです」
「ふむ、そうですか。
うーん、と唸るルー。その様子に口元を綻ばせながらティナは言葉を続ける。
「相手の力を抜いて裏に回り込めますし、ついでに崩しも入れられます。まぁ高位者には対応されますが」
少し考えこんでからルーは顔を上げてモソモソ話し出す。
「姫姉さま。ルーは受け抜き苦手です。そんならもう一本の
「あら、体術だとちゃんと出来るでしょう? 腕を掴まれて丹田使った移動と抜き投げは得意じゃないですか。アレと同じ身体の使い方ですよ?」
ティナが言ったのは、護衛術で有効になる身体の使い方だ。
「ふぬー、うぬー……よくワカランです。それよりお腹減りました! とりあえず食堂の
「はいはい、仕方ないですね。私も昼はゼリー補給食しか食べていないですから、ちゃんと温かいものをいただきましょうか」
早くいくですー、とティナの背中を押して校舎一階にある食堂へ進むルー。
試合のことよりも、食い気の方が先に立つのだった。
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