04-005.見習いと見習いと見習いと見習い。 Knapp und Écuyers und Samurai-Lehrling.
レクリエーションが終わった次の時限から、普通に授業が始まり午前中が終了した。
物理、倫理の授業と続いたため、ルーがボヤいたのは言うまでもない事だが。
昼食は入学準備期間から一階の食堂が営業していたため、新入生達も既に慣れたものだ。食堂へ向かう者、敷地内のコンビニエンスストアやバーガーショップへ向かう者、弁当を持参する者等、様々である。
食堂は国際色豊かな学園生向けに、肉・魚メインのメニューから、野菜中心のベジタリアン、ビーガン、アレルギー対策など、生活習慣や宗教的戒律による摂取禁止の食材などにも気を使われたメニューが取り揃えられている。
特に騎士科の生徒は女子でも消費カロリーが多いため、量が多いメニューを用意されていたりする。アスリート向けに脂分が少なく良質なタンパク質を摂取できるメニューが人気だ。
食堂の中庭側に張り出したオープンテラスでルーが席を陣取っている。ティナ達が入り口から入って来る気配を
「姫姉さま、皆さん、こちらです! 席とっときましたです!」
「あら、早かったですね、ルー。」
「確かに随分速いな。二階と言っても騎士科の教室位置から食堂は反対方向だったと思うんだが。」
「中庭のテラスから飛び降りればスグヨ。いつもミンナに止められたネ。」
「まさかルー、あなた飛び降りたんですか?」
「ほえ? 当たり前じゃないですか。直ぐ下がオープンテラスですよ? 場所取りには最短距離です!」
皆から仕方ない
元々、
そうこうする内にメンツが集まってきた。
「おまた。
「ハイハイ。今、お重開けますよ。」
「おー、すごいです! 四段重ねのお弁当なんて。ルーは初めてです!」
「殿下、皆さん、お待たせいたしましたでしょうか。」
「遅くなりまして申し訳ありません皆さま。」
「おそくなりましたー。おねえさまからの差し入れで無糖ケーキを持って来ました!」
「ふえー。遅くなりました~。ティナさん
別動隊が合流した。
追加でやってきたのは、テレージアと
肩より少し長い黒髪に濃い緑の瞳を持ち、代々貴族家に仕えて来た家系であるゲルトラウデ・シュッセル。愛称はラウデ。
ダークブラウンの髪をボーイッシュなショートにクリっとした目をした妹キャラであるハンネ・パラッシュ。
そして、もう一人。オランダからやって来た時代劇のお侍さんになりたいヒルベルタ・ファン・ハウゼン。愛称はベルだ。
この計九人が食卓で一堂に介することは今までにも無かった。通りすがりの生徒が思わず二度見をしたり、遠くから
全員、ルーの鍛錬に協力する者の集まりなのだ。昼食後に本日放課後の鍛錬内容を話し合うのである。
ティナは入学準備期間の
ベルは進化速度の違う鍛錬相手として手伝いをお願いしている。彼女の出身であるオランダでも国内トップレベルの競技者を輩出する激戦区に身を置きながら、剣術を始めてからたった二、三年の少女が全国大会一歩手前まで食い込んだのだ。全くの素人が、その短い期間で武術の理合いを身に付けたのは異常な程の吸収力と、それを行使するための身体運用があっという間に仕上がったことを示す。
だが身に付けた技術と比べ、身体が成長途中であり技に追い付いていないこと、戦法や駆け引きなどの戦術が追い付いてないこともあり、熟練の相手にはまだまだ
詰まるところ、ベルは天才なのである。そのような絶えず成長を続けている相手との研鑽は得るものが多い。
だが、まだ見習いと言っても良いだろう。だから彼女には
「そう言えば
食事時の話題として、ティナが日本で突発イベントを開催した際に参加協力して貰った、
「ああ。
「また、SAMURAIな決断ですね。国を飛び出た
チラリと
「
「いや、長いこと苗字で呼んできましたから、ついつい。」
「ダレです? そのアカリとか言うヒト。このタマゴ焼いたのウメーです。」
「私もこのタマゴ美味しいと思います! ほんのり甘いです!」
「おねーさま、この焼きタマゴ、黄色が綺麗です!」
ルー、ベル、ハンネが天然系会話術で話のベクトルを見事に明後日方向へ。
この妹キャラ系三人が揃うと示し合わせたかのように話しがすり替わること
「はいはい。
そして話の方向を元に戻すのは、いつもテレージアの役目だ。面倒見の良いお姉ちゃん気質が自然とそうさせている。
ナチュラルに流れた話をナチュラルに戻してくれるので実のところティナ達は大助かりである。コントが始まる前に潰してくれるからだ。
「テレージアさま、その方は【
「そうですよ、ラウデ。二つ名を知ってらしたのね。」
「はい。フェンサーとしては、あの方の回避はとても参考になりますので。」
ラウデはフェンシング競技からの転向組だ。突きと斬撃を主としたサーブルと言うカテゴリの選手であったが、この競技は元々ハンガリー騎兵隊の剣技から発祥したものである。ラウデの先祖は十五世紀、ハンガリーの黒軍に参加していたドイツ人種傭兵であり、当時参戦したウィーン占領以降に神聖ローマ帝国――現在のドイツ――の貴族に腕を見込まれて召し抱えられた一族の出自だ。先祖から伝わった剣技がフェンシング競技ではルール的に生かせなかったため、
真剣な面持ちで受け答えをするラウデとは対照的に、モッチモッチと咀嚼していたルーは、何かを思い出したように口を開こうとしたが、慌ててゴックンと飲み込んでから言葉を出した。以前、食べながら喋ってゲンコツでも貰ったのだろう。
「回避です? あー、この間見た姫姉さまの
「ルー、あなたは全く…。自分の理解が及ばない相手を適当な語録で表現するのはそろそろ控えませんと。」
ティナの一言でスヒュースヒューと吹けない口笛をしながら目を逸らすルー。姫騎士さんもヤレヤレと言ったリアクション。
「
「ん? あの避けるウマい
「いや、
「先祖からナンか伝わたか、本人の才能か、ヨ。具体的言うと
つまり、
「言われてみれば
「
「おもしろい。波を察する技は持ってない。他の
「良く
「ドリルん
「確かに当家に伝わる技法では相手が発する音から先読みする法がございますが…。その先の技術となる訳ですか。」
「なるほど。テレージアと戦った時、ずっと私の上手を取られていたのは、その技法が使われていたと言う訳か。」
春の学内大会でテレージアは
「おねーさま、すごいです! ビュッ!バッ!って音だと私は判りません!」
「
「使えるヨ。
「ほぇ? 姫姉さまよりルーの才能あるです? どこです? 思い当たらないですよ?」
その辺りはティナも気になるところだ。
「ティナの歩法は、自然の中に溶ける歩法ヨ。足の置き方で音を掴むように消すネ。でも安定してないヨ。」
ティナは
「ルーの歩法も自然の音に溶け込るケド、波起こさないヨ。波は足で大地掴む時にも出るヨ。それ抑えると後ろから近づかれても判らなくナルヨ。」
歩法で完全に音を消せるのは人工物の上など、ごく少数に限られる。自然の中では落葉や雑草、木の根や小石など、様々なものが大地に敷き詰められており、その上を音を出さずに歩くことは極めて難しい。だから
「そうなんです? ルーは習った通りニャンコの動きをしただけですが。」
「動物の動きチャンと出来るは少ないヨ。ヒトは肉球ナイから波出さない難シイネ。」
「衝撃の事実です! ルーはニャンコだったです!」
「ルーちゃんはネコちゃんだったんですか! ビックリしました!」
「ニャンコミミが付いてないですよ! オランダのニャンコはミミ取れるんですか?」
妹キャラ達の間では、ニャンコ
すかさずテレージアが話のベクトルを変えつつ、本来話し合う内容に導く。
「ルーさんは猫のようにしなやかな素晴らしい身体能力をお持ちと言うことですわ。日々、鍛錬の積み重ねが成せる技ですわね。」
「そうですよ、ルー。今日は身体の使い方を重点的にお
ティナが導かれた話に肉付けしていく。褒め言葉を入れて、鍛錬への拒絶反応を誤魔化しながら。
姫姉さまより優れているですか?うへへへ、などと見事に誤魔化されている。相変わらず安上がりだ。
「猫はとても良いもの。静と動を直ぐに切り替える。そして癒しを運ぶ。」
「癒しって、
見習い組の放課後鍛錬の内容もこの一言で決定。半ば済し崩しのようにも見えるが、事前に鍛錬期間を設定した際に大まかな方針は決定しており、その方針に則した選択であるため問題はない。
ベルは、ニャン月殺法を覚えます!などと時代劇のお侍さんがやらかした様な技名をナチュラルに口からこぼしてたり、ハンネなど、ネコちゃんは丸くなる動きに秘密が!と明後日の方向に思考が向いている。ラウデだけが「注意する身体の動きですか。なるほど動き一つで戦いが変わると言うことですね」とマジメに言葉を受け取っているのを見ると、常識人と妹キャラ三人組の思考回路が如何に違うベクトルなのかを比較出来るのも面白いところだろう。
「そういえば、ルー。あなた、クラスに馴染めそうですか?」
「姫姉さま、ルーはどこでも人気者になるですよ? 人心把握と誘導は基本なのです。」
会話後半が暗部としての意見を混ぜている困った回答をするルーに、ティナも苦笑い。
「あなたが興味を引く、おもしろそうな人はいましたか?」
キョトンとするルー。何かあったかなぁ的に思い出そうと視線を上に向けていたが、該当者がいたらしい。視線を戻して勢い付けて語り出す。
「ヘンなヤツいたです! ルーが学校通ってる間にチームに参加しろって言ってたです! グウィルト侯爵家の次男です!」
「あら、アシュリーの弟でしたか。同じクラスになったのですね。」
「確か、彼も小等部時代チームを率いて集団戦で好成績を上げていたな。」
「グウィルト侯の侯弟殿下は二つ名が【一番槍】と呼ばれるほど侵略戦が得意な方だと記憶しておりますわ。」
「へー。電撃戦とかやりそうですね。ルーはチームに参加するんですか?」
「へ? ルーは
ぶっちゃけ、貴族相手に対する、と言うより初対面での言葉使いとしては大変宜しくないのだが、それがルーなので仕方がない。むしろ、相手が貴族であるならばカレンベルク
少し、考え込む姫騎士さん。と言ってもそれほど深く考える必要もないと言った短い時間で結論が出たようだ。
「ルー。その申し出、受けて見なさい。もちろん、相手が
「姫姉さま、ルーは面倒事に自ら突撃するのはカシコイ子だとは思いませんです。日々平々凡々と暮らしていきたいのです。」
「
ルーは相当焦ったらしく、ティナの言葉に勢いよく被せる手の平返し。その様子を見て
「しかし弟君、確か
「ほぇ? 部隊ですか? ルーは孤高な
先ほどまでニャンコ
「何言ってるんですか。部隊の中で自身の運用を考える必要は必ず出ますて。あなた、戦術基本と戦術理論、それに指揮教養の教科を私と一緒の時間にスケジュールしたのは何のためと思ってるんですか。いずれ実務に入ったら部隊に指示を出す立場にもなるんですよ?」
戦術や指揮系の講義は、知識が有る者と一緒に学べば理解度が跳ね上がるのである。
「
「あら、エレさんは護衛達の管理と指揮をしてますよ? あなたにはその補佐と、何れ指揮権の一部が委譲されるハズですから、って露骨に嫌そうな顔はしないでください!」
明らかにウゲェとしかめっ面を晒すルーは、誰が見ても「めんどくさい」と雄弁に物語っている顔芸である。
「ルーさんは隊長さんですか! スゴイです! 敬礼します!」
ハンネが片手を斜めに挙げて敬礼をするのだが、その所作は旧ドイツ軍で
うーん敬礼は難しいですー、と言うハンネ。彼女は、元々活動していた競技が
――アーマードバトル。
金属の鎧を纏い、ラタンを芯に持つ剣や、刃を付けずに角を丸めた金属の模造剣、強化ゴムのヘッドを持つメイスなど、
戦闘訓練をエミュレートしているため、当時でもルールとして有効だった蹴りや殴打、体術も使用するが、相手を負傷させる危険な技や、負傷を目的で技を行使することは当然の如く禁止である。
しかし、中世の武術などが持つ本来の技――体術を織り込んだ――が使用可能となるため、駆け引きなど戦術の幅が広がる。何より当時の騎士
ハンネは幼少の頃からアーマードバトルを続けて来た。それがある日、
しかし、彼女はアーマードバトルを辞めた訳ではない。それぞれの楽しさがあることを知っているからだ。現在でも週一、二回程、ローゼンハイムにある道場に通っている。
彼女の場合、それぞれの競技で優れている点を、異なる競技間で最適化することを目標に鍛錬している。競技によって戦い方を切り替えているのである。この辺りはルーに見習って欲しいところだ。
「ハンネ、その敬礼は違うと思われます。」
ピシリと敬礼するラウデ。右上腕を肩の位置で横に開き、指先が側頭部に触れるように肘を曲げる、現ドイツ軍の敬礼だ。
「ほぇー。ラウデは物知りです! こうですね!」
早速、真似をするハンネ。ビシッっと敬礼してるつもりだろうが、やはりフニャリとした何とも気の抜けた敬礼であるのは変わりないが。
「ふはははは! ルーをもっともっと崇めるです! ルーは隊長です!」
「あらあら、随分と可愛らしい隊長さんですこと。」
テレージアの言葉に気を良くしたルーは、無い胸をググーッと反らす。しかし、椅子に座った状態で思いっきり背を反らせば自ずと次の結果が見えてくると言うもので。
「ふはは、はわ? はわわー‼」
「おっと。」
ルーの隣に座っていた
ルーが驚いた理由は、目を見開きながらゆっくりと
「…
「世界三大七不思議って…。実際、そんな大したことはしてないよ。私はただ身体の整列を伝えただけだぞ?」
キーワードだけでは伝わらない技法であることは、その言葉を聞いた皆の様子から伺える。驚きや理解出来ないなどと言った顔をしているからだ。早く、続きを話せ、と皆の視線が訴えている。さすがに説明を乞われていると見て取った
その中で只一人、
「ルーの身体に触れながら、私の仙骨を締めて骨盤を少し前に出してから、肩甲骨を下に移動させたんだ。」
「あー、やぱり動きの伝播だたヨ。投げるトキ身体の力コントロールする骨を緩めると相手も同じトコ緩むヨ。そうすると相手重心保てなくなてコッチの重さ全て伝わるから簡単にポイ出来るヨ。」
「
「ドリルの言う通りヨ。
「どうですか? ルー。他流を知るとはこういうことですよ。我々が知らない身体の使い方は幾らでもあります。それに触れることが出来るだけで価値があるのですよ?」
「おどろきです。相手に影響を与える身体の使い方なんてルーは知らないです。…ハッ! 初日の手合わせ!
「まあ、身体運用は違うけど、技の方向性は同じかな。」
「ナンてこったですか…。そんな身体の使い方、
「身体操作は武術や流派によって違うからな。でも人の身体は同じだから突き詰めたら似た様な運用法になるさ。」
「そうですよ、ルー。
スッと顔を逸らしスヒュースヒューと吹けない口笛を吹くルー。ダラダラと汗を流しながら何とかこの後の展開をうやむやにしてやり過ごそうと必死だ。当然無駄であるが。
「ルー、今日は身体の動かし方をお
「姫姉さま…プロテクター装備じゃないですか⁉ ルーが投げられるです‼ オカシイです! 競技は投げ技禁止です! 必要性が感じられねえです!」
「あなた、修得した技と競技の技を切り替える訓練も必要だって忘れていませんよね? 時たま、今までの技法で研鑽することも大事ですよ?」
ギャーギャーと理由を付けて口早に文句を並び立て始めるルーであるが、まるっきり理由が子供理論だった。特に、死んだオババが投げ技するとノーミソひっくり返ってオバカになる言ってたです、の一言は、ハイハイと軽くあしらってくれと自ら言い出した様なものである。ちなみにルーの祖母は健在で、現役バリバリの戦闘士だ。
「投げは経験が必要。猫は一日にして成らず。」
「ニャンコになる投げ技は興味あります! 私も覚えたいです!」
ハンネが食い付いて来た。彼女はアーマードバトルの試合では甲冑同士で投げを打つこともあるため、有効になりそうな技術に貪欲である。二足の
「
「あら。投げられた時の対応に持ってこいじゃないですか。滅多にない投げ技を経験出来るのですから、ルーはすごく恵まれているんですよ?」
「姫姉さま…。ルーは恵まれてるですか? ポイポイ投げられる
「私は
ハンネは甲冑相手の投げ技として、
「みんなネコちゃんになるんですね! わたしもニャン月殺法の巻物を手に入れます! まずはネコちゃんの動きをマスターしなければ!」
シュパッと元気よく挙手するベルであるが、巻物どころかニャン月殺法なる技は、まず存在しないと思われる。仮に実在していたとすればTV番組レベルの話だろう。だが、心配召されることはない。この手のオモシロ技術などは
「私は体術が全くの素人ですから、お話が新鮮ですね。ですから何やら凄そうなことを話しているのでは?と、しか認識出来ません。」
「あら、ラウデは体術の経験は全くありませんでしたのかしら? 授業の古式レスリングくらいですの?」
「はい。テレージアさま。元々、スポーツとしてサーブル競技を嗜んでおりましたので体術を本式で学ぶ機会はありませんでしたから。」
騎士科の授業には武術基本の教科で、簡単な体術を教えている。
「そうですわねぇ。護身が行える程度には覚えておいた方が宜しくてよ? 身体の動かし方を知ると色々と武術の幅が広がりますし、何より無手の場合に対応手段が増えますもの。」
「なるほど。丁度良い機会の様ですし、私も教えを乞うた方が良いかもしれません。」
「ここで教えてくれる方達は、体術も相当の上位者ですから短い期間だったとしても得るものは大きい筈ですわ。と、言う訳で
テレージアは保護者として板についた振舞いで、礼を尽くしながら
「ああ、私は
「うん。ラウデはかなりいい。あの斜めに崩れた姿勢から、反作用に変えて次の攻撃をノーモーションで斬り返すのは中々の技。移動の一つ一つが技に繋がるように練られている。でもよく崩れるのは体幹の安定性が足りていないから。身体に芯が通れば相当延びると思う。
「驚きました
「新入学限定ヴァージョン。」
事も無げに一言で終わらす
「あら。どうやら今日の鍛錬内容はガッツリ体術系に決まったようですね。ほら、ルー。一人だけ投げられるんではないですから、拗ねて椅子にしがみつくのはやめてください。」
「ルーだけ装備Cです。ポイポイってされるです。そんな死地にはいかないのがカシコイ選択なのです。」
装備Cと呼ばれる軍用プロテクターと軍用衝撃吸収スーツの基本装備。軍用アイテムのラッチベルト、戦闘用グローブにタクティカルブーツ、場合によっては各種武器や暗器をマウントして最大戦闘重量で訓練をすることもある。そして、何より頸椎から背骨、仙骨までを補助するケミカルボーンと呼ばれる素材が身体のラインへ張り付くように装着されている。パワーアシスト機能はなく、基本的にケミカルボーンが装着されている箇所は、骨折等を含む致死攻撃を吸収・分散し、無効化する仕様だ。その効果は頭を逆さに二階から落としてもアイタタタ、レベルで済むのだ。純粋に首や背骨を折ったりすることが
「逆を言えば、ルーが一番安全だと思いますよ? 何せ、
「姫姉さま…。その
「何を言うかと思えば。それはルーの技術が普通より遥かに高いからですよ? あなたは
「ルーちゃん、すごいネコちゃんだったんですね! キャット空中三回半捻りです! とってんぱらりのにゃんぱらりん!」
ベルは大昔のアニメーションでも見たのだろう。明らかに一般では存在しない技名に謎の掛け声をオマケで付けていた。しかも言葉を口にしながら、両腕を横に開いた手振りは器用にもウェーブをうたせ、右から左へ波が移動する芸の細かさ。その動きは宙返りに全く関係ないのだが。この様子だと、ニャン月殺法もアニメーションで見たのでは、と思われる。そのまま真似されないことを祈ろう。
「チッチッチ、ルーは孤高の
狼に猫にと忙しいルーは、また無い胸を反らせてドヤッとしている。会話内容を考えると胸を張るレベルでないのはご愛敬。ルーはヴォルカッツェなどと相反する動物を合体させたが、はっきり言って謎生物である。
「ふふふ。あなた達が集まると、食事時が楽しいものになりますわね。」
テレージアは、目を細めながら元気な子供を見るように頬を緩め、三人へ穏やかに語り掛ける。
ルー、ベル、ハンネが寄り合うと、賑やかで場が明るくなるのだが、話がどんどん明後日の方角へずれていくのも、ここ数日で慣れたものである。特にテレージアは、その面倒見の良さで、この三人の引率状態である。
「テレージアさまは、時たま少々甘くなると思います。ハンネもベルも新入生と変わらずに扱われるのは、余り成長が見られなかったと
「フフン! ラウデ、私は意外と成長してるんですよ! 全身鎧の人がポイーン、と飛んでくところを見たら、多少のことなんか全然余裕になるんです!」
「ま、まあまあ。二人共、そのくらいにして置きましょう。あなた達が去年のあなた達より、確実に成長していますのは私が一番存じ上げてますわ。」
「テレージアさま…」
「おねえさま…」
が、取り繕うようにテレージアが二人を窘めたことを姫騎士さんは見逃さなかった。これはオモシロ案件であると。
「おやおや~? 人がポイ~ンと飛ぶんですか~。その辺りを詳しく聞きたいところですね~。」
「
「いえいえ、殿下も
「ほお~。なるほど、なるほど。ハンネ、何があったんですか?」
「はい! テレージアさまが、たまにアーマードバトルの練習を付き合ってくれるんですが、大剣の
テレージアが止める間もなく一気に
本人ではなく、いきなりハンネに話を振れば、直前の話題がまだ温かいのでポロッと漏らすだろうと踏んだ姫騎士さん。予想通りの結果であるが、話の内容がチョットとんでもない事例だった。姫騎士さんも「へぇー、そうなんですか。それはすごいですね」と、少し引き
テレージアのお相手をした方に合掌をする姫騎士さん。殊勝な雰囲気は微塵も無い御座なり感満載であるが。
「良いオチがついた。今日の締め、八十点は
「
重箱を片付けながら、
この面子で雑談を始めると、妹キャラ三人組がコントのように話を変えたり、
「さて。そろそろお昼休みも良い時間ですね。今日の方針も決まりましたし、次の授業準備が間に合う内に戻りましょうか。」
姫騎士さんが言葉で締めたので、それぞれが席を立ち移動を始める。やはり妹キャラ三人組は帰り道も賑やかだ。話が脱線しそうになると、さり気なくテレージアが方向修正するのもお決まりである。
ルーと言うイレギュラーが起爆剤となり、日常に変化をもたらした。普段、技術的には接点が少ないテレージア達と、毎日顔を突き合わせて鍛錬を共にすることになろうとは誰も思わなかったことだろう。当然、テレージア達も同様の心持ちだ。
縁とは不思議なもので、ある日突然結ばれるものである。
しかし、この縁に限っては姫騎士さんが計画し、その人脈で手繰り寄せた縁だ。
お互いに得るものがあるようにと、計算しているのは言うまでもない。
一方的に受け取るだけでは健全とは言えないのだ。
――全ては
「やっぱりポイポイされたです! ルーは受け身マッスィーンと化しました! ナンか受け身が上手くなった気がするですか? いや、するです‼ …たぶん。」
「にゃんぱらりんがムツカシイです。
「ビックリでした! 私、鎧の上からでも合気って技が出来るとは思わなかったです! アーマードバトルでも
「いつもの歩法がそのまま体術に繋がるなんて、武術とは奥が深いのですね。いえ、武術から競技が生まれたことを考えれば在って
放課後の鍛錬後、下級生組四人がそれぞれ口からこぼした言葉。
そこには、ほんの僅かではあるが確かに成長を感じさせる何かが芽生えていた。
彼女達が受け継ぎ、紡いでいくものが、どのような実を結ぶのか。
まだ、その形は定まっていないのだから。
――実が色付き始めている者達はと言えば。
「今日の
「確か、アッサリ目の味付けですがUMAMIが深いお料理でしたね。煮込みやスープが秀逸でした。」
「
「イイてコトヨ。
「
「大丈夫。大人数向け中国料理は余りを持ち帰る前提と聞いてる。」
「アハハ、
年少組と比べ年長組の会話の温度差は
だが、それで良いのだ。
その域に辿り着いた者達だからこそ、いつも通りになるのだ。
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