【閑話】ヘリヤ、日本で忍者と手裏剣を投げる。 ~ヘリヤその3~
2156年10月20日 水曜日
この時期、日本と言えば秋であり、朝晩が涼しく感じられる季節である。だが、それは都内などの盆地の気温であり、信州など山が多く、標高も高いとすると冬一歩手前の季節に移り変わっているところが出始めている。
ティナが夏の間日本に滞在する際の足としてドイツから輸送された要人警護用転輪型装甲戦闘車
「いやー、早い早い。リニア並みの速度が出る大型車なんて、あたしは乗ったことないよ。」
高速道路の区間を抜けたと聞いた時のヘリヤが漏らした感想だ。ヘリヤと番組スタッフはここまで「人をダメにするソファー」に魂を奪われており、カレンベルクから派遣された護衛であるイルムに声を掛けられ覚醒する。イルムから目的地近くまで移動していたことを告げられ、皆が驚きを露にしていた。
要人警護用転輪型装甲戦闘車
この地方ではまず見ることのない外国産の白い大型車は、黒姫山と飯縄山の山間を走る山岳道路を抜け、と言うよりは山中にある小さな町に辿り着いた。
「もう直に到着しますよ、ヘリヤさん。」
「あはははは。東京を出た辺りから記憶がないですよ、イルムさん。このソファー、座り心地が良すぎて。」
同席しているスタッフ達も思いは同じなのだろう。うんうんと頷いている。
「ええ。このソファー、私達護衛は極力座らない様にしてるくらいです。仕事になりませんから。」
そして、今回はもう一人、護衛が就いている。エスターライヒ大使館とカレンベルクの連絡員であるソフィヤ・カチャノヴァが
これから向かう先は、戸隠流忍法の本拠地。先々代の当主が戸隠流忍法の総本山とすべく建立した。訪問相手は戸隠流忍法四十代宗家、
その縁とは、夏に渡日したティナが強行した突発イベントの参加メンバーとして
そもそも事の始まりは。
突発イベントで
ヘリヤが大いに興味を持ち、その結果とんとん拍子で話が進み、世界選手権大会開出場前に確保してあった調整期間の日程を削ってまで
「楽しみだなー。どんな忍術があるんだろう。」
窓の外は木々がうっすらと赤や黄に色付き始めてコントラストが出来始めている、一種独特の景色を見やりながらヘリヤは呟いた。
ここは、長野県長野市戸隠。数十年前にあった第三期区画整備の際、街並みも積層構造の道路に改修され、少し背の高い建物や洒落た店なども多くなってきてはいるが、未だに古風な造りの家や旅館がそのまま残り、少し歩くだけで必ず何処かの蕎麦屋に辿り着く土地柄だ。少し道を外れれば緑の多い山空間となり、山を少し入れば子供向けの忍者村なる遊具施設が営業していたり、自然の中にポツリポツリと名所となる施設などが点在するのである。
戸隠神社中社と小鳥ヶ池をを結ぶ中間辺りに、信濃信州新線から林道を100m程入ったところに目的地が見えた。
自然の中に現れる、瓦の屋根をかけた土塀が敷地を囲っている。その長さから内部は中々に広いと想像出来る程だ。林道の突き当りが入り口となっており、上り二段の階段と、その奥に幅三間はある大きな数寄屋門が土塀を一段奥まったところに伺える。数寄屋門は縦桟を長く取る格子の引き戸となっており、敷地の庭園部分と母屋が目に入る構造である。その母屋は瓦を葺いて縁側などがある古式の日本家屋の様式を採用しているが、近代の技術がふんだんに組み込まれているのは門の格子越しからでも見て取れる。
数寄屋門から少し離れた箇所で土塀に切り欠きが造られ、車両の入り口は
そのスペースに
プシュー、とエアコックの解放音がし、
「うわー、これまた面白い建物だなー。
「ヘリヤさん、護衛より先に出ないでください。万が一がありますから。」
「ありゃイルムさん、ごめんごめん。もう待ちきれなくって。」
頭を掻きながら謝るヘリヤだが、感情の高ぶりで行動を起こすところは子供の様だ。反省すれどもまた繰り返すことだろう。もっとも、たとえ危険に見舞われたとしても彼女をどうにか出来る者がいるのか怪しいところである。
荷物や機材を下したスタッフを引き連れ、母屋に向かう。他には道場と見える建物が二棟、宿舎と思われる建物が一棟、白い斜め格子が入った
護衛に挟まれ、意気揚々と歩くヘリヤ。今にもスキップしそうなくらいである。
「たのもーう!」
玄関前で声を大に呼びかけるヘリヤの姿は、既に定番となっている。
この時代、外国人との会話は基本、英語を用いられる。ほぼ万国共通で会話可能なレベルで教えられているため、海外でも言葉が通じないことは殆どない。だが、敢て「たのもう」の一言を現地語で覚えてくるヘリヤの意気込みがどれ程であるか伺える一幕である。
玄関の引き戸がカラカラと開かれる。一人を除いて皆、自動で扉が開いたと思ったが、そこには
ヘリヤは、まるで気配を感じられなかったことに驚いた。ソフィヤだけが
「初めまして、ヘリヤさん。ようこそ忍者の里へ。私は戸隠流忍法四十代宗家、
「ご丁寧にありがとうございます。
「それはそれは。有難い話です。おや、ソフィヤさんもお久しぶりですね。」
『お久しぶりです
続いて護衛やスタッフ英語で挨拶する中、ソフィヤだけが挨拶を流暢な日本語で行っていた。
客間に案内され、黒檀のテーブルを挟んで一寛ぎする一行。
「今日は平日ですから日中帯は訓練生と門派の徒弟が鍛錬に来てるくらいなので、皆さんをゆっくり持て成せそうですよ。」
出された緑茶と茶菓子を摘まみながらスケジュールの打ち合わせをする。予定としては2日間の滞在とし、1日目は忍術や体術、特殊武器などの体験、2日目は戸隠流忍法四十代宗家との
この道場、スタントマンや自衛隊隊員などが定期的に鍛錬に訪れるため、十人、二十人程度は問題なく滞在可能な施設となっている。
準備を終えたスタッフは、動きやすい恰好をしているが、護衛達は何時もの如く黒スーツ姿だ。足元も革靴に見えるが、実は靴底には滑り止めなどのパターンが彫り込まれており、戦闘に影響が出ない造りとなっている。
そしてヘリヤは、鎧下に着ている黒い騎士服姿である。縁を彩る金糸が中々に目立つ。
作務衣姿の
「この時間は骨法の練習時間となっていますから、武道館へご案内します。どうぞ、皆さんこちらへ。」
「骨法ですか? それはどんな武術なんですか?」
ヘリヤが初めて聞く「骨法」と言う単語に食いついた。
「ははは、余り聞かない名前ですからね。古い体術ですよ。ちょっと特徴があるんで見て面白いと思いますよ。」
案内された武道館は、隣の競技館と渡り廊下で繋がっている構造だ。通常の練習は武道館で行い、武器などを用いた実戦形式の鍛錬は
武道館では骨法の師範が2名と6名の練習生が組手を行っていた。夕方や週末などは通いの練習生が多くいるが、平日昼間に鍛錬する者は、纏めて休みを取って訪れたり、月に何度か訪れて宿泊施設に泊まり込んで励む者が主体となる。今回は定期的にやってくるスタントマンを
「練習やめ!」
師範の一人が
「皆に紹介しよう。遠い所から武術を見に来てくれたお嬢さんだ。名前は皆知っていると思うが、
「まず、ウチの体術は玉虎流骨指術と言いまして、武器の在りなしに関わらず、身体の急所を突きながら相手を封じる技法になります。」
「封じる技法ですか? 斃すとかではなくて?」
「ええ。基本は相手の動きを読み、人体で無数に存在する急所を押えながら戦力を削ぐことが第一です。」
骨法は玉虎流忍法であり、白雲流忍法が本流であった。現在、甲賀流五十三家、伊賀流三十八家など、様々な忍法流派が存在するが、殆どの忍法体術の根本として派生している。
極端に言えば、指一本で相手の
「まずは基本の型をご紹介します。」
「一文字之型!」
左脚を前に、右脚は少し後ろに下げて肩幅より広く取り腰を落とす。左手を真っすぐ手刀の形で置き、肘の内側に当てた右手は軽く拳を握っている。体幹が整っているからか、全体的に重心が低く、且つ即座に動けるような姿勢となっている。
「次! 飛鳥之型!」
練習生達は、右脚で立ち、左脚は曲げ、足の裏を右脚の膝内側に置く。左手を手刀で心持ち上を向く様に真っすぐ伸ばし、右
「次! 十文字之型!」
今度は一文字之型と同様に足を開き、腕を胸元に十字に交差させている。
何れの型も、上半身は正面を向く様になっている。そして、鎧武者姿の練習生も淀みなく
「この三つが構えの基本となります。技としては、骨指拳と言う拳の構えは九法あり、蹴りの構えは三法、骨指体変術と呼ばれる体術は龍変、虎変、豹変の三種がそれぞれ三法を持っています。もちろん、全ての構えは左右で二通りあります。」
「立ちの基本が三つなんですか。あたしは体術は良く判ってないですけど、それでも少なく感じますよ。」
「そうでしょう? 実際に少ないですから。でもこの三つで賄えてしまうんですよ。むしろ突き詰めた結果、三つに集約されたんだと私は思っています。」
「へー。無駄が省かれたってことですかね。」
「どうです? ちょっと型をやってみませんか?」
教えを受けながら一文字之型を取る。身体が正面に向きながら左半身に近い構えとなる不思議な型である。
「あれ? これだと相手の利き腕が真ん前になるかな? 剣相手だと剣先に触れそうだ。」
「ははは、最初にそこを気付きましたか。相手は利き腕で武器を持つでしょう? だから最短距離で対応出来る構えなんですよ。」
「相手が武器を持ってる前提なんですか?」
「ええ。戦国の世で練られた技ですから。むろん、武器がなくとも意識しなければ人は利き腕を使ってきますから対応は変わりませんよ。」
この構えに相対する時、武器を持つ方に身体を向けられれば、突き以外の攻撃は自身の身体を利き腕側に少し開く必要が出る。相手が徒手空拳であろうが、自分に向かって伸ばされた腕を無視出来ない。どの様な技を使われるか判らない状態だからだ。無視して斬り込んだ場合、体を捻るだけで躱され、腕を極められる。どの道、相手の攻撃を躱して極める、攻撃の出を潰すなどの目的がある構えである。相手の身体に触れさえすれば流れを一瞬で引き寄せる技が骨法である。
「おお、さすがに体幹が素晴らしいですね。初めて飛鳥之型を取って微動だにしないのは見事ですよ。」
ヘリヤは片脚で立ち、もう一方の足を軸足の膝横に添える飛鳥之型を教わって構えている。
飛鳥之型は、右脚一本で立つのだが、そもそもその右脚自体も曲げて重心を落としているのだ。外から見れば少し蟹股気味と言えば判りやすいだろうか。兎も角、身体運用が出来ていないと必ずふらついてしまう類の型である。
「飛鳥之型は防御と攻撃を兼ねた構えです。その左脚を前に伸ばすだけで蹴り技や相手の侵攻を抑えるつっかえになります。」
「いやー、これ面白いですね。左脚を出す時、右脚も伸ばしたら距離も稼げるんですね。」
「面白いでしょ? 虚実が入った構えなんですよ。」
その後は十文字之型を教わり構えるヘリヤ。にこやかに行ってはいるが隙はない。意識せずとも全身にくまなく力が入った自護体となっているからである。現世界最強の名は伊達ではない。
「では実際に骨指術がどのようなものであるか体験してみませんか? 相手の戦闘力を奪う術は覚えておいて損はないですよ?」
「いいんですか! 是非ともお願いします! いやぁ、楽しみだなぁ。」
技を体験できると言うことで、ヘリヤは随分とご機嫌になっている。最初に練習生の技を見た時、力など使わずにコロコロと転がされているところを見ている。それに、骨法が極端な話、指一本で相手を崩すことが出来ると聞いて、どの様な武術なのか想像がつかなく、初めて見る武術にワクワクしているのだ。
そこへゴム製の懐剣を渡された。丁度ナイフくらいのサイズである。
そして
「それではヘリヤさん。そのナイフで私に攻撃してみてください。おっと、本気で来られたら対応出来ませんから手加減してお願いしますよ?」
「はーい! 突きいきますよー!」
手加減していてもヘリヤの剣速は正確で速い。生半可な技量の者では技を出す前に斬られたことも判らないだろう。その相手役として
手加減を相当しているだろうが、傍から見れば実戦で撃ち合うレベルの速度でナイフの突きが放たれる。が、その剣先は虚空を打った。
そして。
「あいたたた!」
腕に走る痛みでヘリヤの身体が思わず引き寄せられ、そのままコロンと転がされた。
今の交差でされたことと言えば、伸びた下腕を片手で掴まれ、指で腕の急所を押さえつけられただけだ。しかし、その痛みを逃れる様に身体が崩れたところに、もう一本の腕を差し込まれて簡単にヘリヤを転がした。
「今のびっくりした! 指一本で全部崩された! いったいどうなってるんですか?」
「今回は下腕にある急所を押したんです。ただ指で押さえただけで普段感じない痛さがあったでしょう。慣れない痛さは、技云々の前にそれを回避するために身体が痛みから逃れようとするんです。」
「なんか腕全体にも奥から響く様な鈍痛がありました。だから、あたしは簡単に転がされた、と。」
今のは下腕にある
「その通りですよ。ちょっと手の平を見せてください。」
手を差し出すヘリヤ。親指側の手首を指で押さえられる。
「あたたたた!」
「ほら、これだけでも簡単に転がせるでしょ?」
「ひゃー、急所ってこんな簡単に崩せるんだ。」
「人体には鍛えようがない急所が以外と多くあります。それを利用し、本来であれば、相手を崩して何もさせないままどんどん腕から身体の動きを封じて無力化するんですよ。」
「すごいなぁ。見たことない技だ…。出来る限りでいいんで、その急所を押える技を色々、あたしに掛けてもらっていいですか?」
「ええ、どうぞ。色々と体験していってください。」
そうして小一時間程、ヘリヤは転がされるのであった。だが、それは得難い体験である。身体のどこに急所があるのか身を以て知ったからだ。
練習生の練習が再開してヘリヤは目を見張る。鎧武者などは、その装甲からヘリヤが体験した急所の攻撃は効かない。しかし、腕を取り、捻り、各関節よりも大きく逆に動かすことで、簡単に
正直、ヘリヤは相当楽しんだ。それは自身が体験したことで一層身体で理解したのだ。
「ヘリヤさん、どうです? 手裏剣投げて見ますか?」
「手裏剣ですか! 忍者がシュシュシュッって投げるヤツ!」
「実際の手裏剣は投擲技ですから番組の様な派手さはないですけどね。」
「やります! やります! あたしも手裏剣投げてみたいです!
「ああ、神戸の
非常に食いつきの良いヘリヤ。
彼女とて、ヨーロッパ武術で投擲術は修めているが、やはり忍者の使う手裏剣に興味深々、と言ったところだろう。
更に言うと、弓、投擲エリアと反対側にはアスレチックの様に立体的な訓練施設が備わっていた。ある意味パルクールの訓練が十分可能な様々な空間構成がされている。
物珍し気にヘリヤが覗き込んでいる。
「あちらの
「高速に移動、ですか?」
「そうです。障害物があろうとも同じ速度を保てれば、普通よりも移動距離が長くなります。」
「へー、なるほど。追いかけっこが有利になりそうですね。」
「
忍の技は兵法ではない。敵陣に忍び込んで情報収集や暗殺、破壊工作や奇襲などが主で、武士の様に正面切って戦うことは余りない。特に情報収集を行う場合は、無駄な戦闘を避け、無事に帰還することが第一となる。そのために相手を無力化したり、逃走を助ける技が数多くあるのだ。古流である玉虎流忍法などは、常に二つの玉を持ち、それを投擲などの目くらましに使うことで自在に姿を消したと言う。
むろん、忍びの者とは言えども下級の武士であるため、
手裏剣の投擲も、それ自体で敵を倒すものではない。先の目くらましや逃走のための一手として用いることが多い。
「これが戸隠流銛盤手裏剣と標準的な棒手裏剣です。」
野外修練場の投擲エリアで
もう一つの棒手裏剣は、四角い径を持つ大きな釘と言った方が判りやすいだろう。投擲に直打法、半回転打法、回転打法など、投擲距離などにより軌跡を変える複数の用法があり、本来、忍者が主に使用する手裏剣は此方になる。
「こっちの四角い方は実物を初めて見ますけどNINJAがTVで使ってました! ニンニンって!」
「見栄えが良いですからね。この四角い形状は手の平に隠して相手の武器を受けたり、直接斬り付けたりも出来るんですよ。更に投げ易い。」
車剣タイプの手裏剣は、投擲で回転させるため、縁が全て刃を付けられていることが多い。どの角や辺に当たっても威力が期待できる。対して棒手裏剣は、杭である。尖端が刺さる様に投擲する技能を必要とする。故に打法が複数あるのだ。
「棒手裏剣の場合、大体2~3mくらいの距離で投擲します。銛盤手裏剣は5mくらいが射程ですね。」
「意外と距離が短いんですね。もっと離れて投げるかと思いました。」
「10m離れたところから飛んで来たらヘリヤさんはどうしますか?」
「よけます。」
「でしょう? 暗器ですから距離が開くと効果が薄くなるんですよ。」
ヘリヤは車剣に向いた急回転打法を教わり、銛盤手裏剣を標的となる木の柱に投擲する。コーンと小気味好い音と共に、手裏剣が深々と刺さる。
投擲するヘリヤの姿に
「お見事! とても初めて扱うとは思えないですね。とても綺麗に投げられてますよ。」
「ありがとうございます。ナイフと違って肘から先しか使わないんで的が狙い易かったです。」
「では、棒手裏剣を投げて見ましょうか。ナイフの投擲と似ていますが持ち方が全く異なります。ほら、この様に手の平と伸ばした指で挟む様に持つんです。」
「こうですか? 手の中に隠してるみたいですね。」
「ええ、暗器ですから。
「ああ! 確かに投げられるまで判らなかった! なるほど、隠すから効果が高くなるのか。」
「
ヘリヤは棒手裏剣の投擲打法三法と、上手で投擲する直投げ、下手から投擲する逆投げと、二つの投擲姿勢を教わる。直打法はナイフ投擲で言うところの無回転打法と同等な技法であり、彼女が修めた投擲の技にもあり馴染みが深いものであるが、回転打法は投擲物を一回転しかさせないと言う点では初めての技法となる。そして投擲の際は肘から先しか使わない点も新鮮であった。近距離、しかも暗器として使用するならば、即座に投擲が出来る合理的な運用方法なのかと彼女は納得する。
コーンと手裏剣の打突とは思えない高い音が響く。
「うん、これはなかなか面白いな。」
打法を変えて再び投擲する。
コーンと再び音がする。
投擲姿勢を変え、打法を変え、投擲を続ける。
途中からヘリヤが仮想で誰かの相手をしていることを感じた
「これなら相手に当てやすいでしょう。」
「おー、これならイメージし易い! ありがとうございます。」
また教わった打法を繰り返し、投擲を続けるエリア。その顔は楽しんでいる子供と何ら変わりない。
たまに、「お?」「やるなぁ」などの見えない敵に対して言葉をかけたりもしていた。
気付けば2時間近くを手裏剣の投擲に費やしていた。
「随分、楽しんでいただけたようですね。途中から狙う場所を変えてたでしょう?」
「いやあ、面目ないです。ついつい相手のどこに当てるのが効果的か色々試しちゃいました。」
「上手く当てられましたか?」
「ダメですね。全部回避されました。」
嬉しそうに笑いながらヘリヤが答える。自分の投擲技ではまだまだ驚かせる程には到達していないなぁ、と呑気に構えているが、そもそも投擲とは言えヘリヤの攻撃を躱す相手など指折り数える程度だろう。
「どちらの方を相手に投擲したんですか?」
磁雷矢の問いに明るく答えるヘリヤ。
「ティナです。あの娘も特殊な技を沢山隠してますから。せめてビックリはさせたいなぁ。」
「ああ、ティナちゃんですか。彼女も言うなれば西洋の忍者みたいですからね。上位者しか判らないフェイントを使って罠を仕掛ける度胸も大したものでした。」
「あたしなんか、剣を折られてますから。坩堝の剣が折れるなんて思いもしなかった。アレでまだ
子供の様な笑みを浮かべるヘリヤ。
しかし、その眼差しは遥か遠くを見ている。
まだ見ぬ武術と出会うことに思いを馳せて。
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