【閑話】「Épée et magie RPG」競技ゲーム「無事に戻るまでが探索です」プレイ活動録 ~競技ゲームプロチーム:Blue Blood~
「
フッ、と杖の先から零れる様に切り離された火の
途端に色とりどりの火が
都合、4度の
「コストパフォーマンスが悪すぎるわ。後12回しか呪文が残ってないもの。この
ブツブツと言い出す少女の名は、リーゼロッテ・ウルリーケ・クローヴィンケル。愛称はロッテ。【極彩色】の二つ名を持つ自称大魔導士だ。
「それは仕方ないだろう、ロッテ。まだオレ達はレベル1なんだから。」
このチームのリーダーである、【聖騎士】エリアーシュ・シェスターク。大型の両刃片手剣を使う騎士である。
「アーシュ殿はまだ良いではござらぬか。拙者は獲物が刀故、骸骨相手には
【斬り燕】の二つ名を持つ
「自分が思うにサブに鈍器を仕込む様に促されてるんじゃないか? シールドバッシュが使えりゃ打撃扱いになるんだが、それがレベル2スキルなのは序盤じゃ対策して苦労しろと言ってるんじゃ?」
そう零すヨーナス・マルク・グリューニングは【移動要塞】の二つ名を持つ、守護騎士と呼ばれる防御力特化の騎士である。
「つーかさー。骨、硬すぎない? アタシのナイフだとダメ入んなかったよ? リアの鈍器はどーだった?」
手の中でクルクルとナイフを回す少女は、斥候であるフランツィスカ・アルニム。彼女は暗闇での隠密活動を得意とするため、【夜鴉】の二つ名が付いている。
「リアのメイスでも通常と変わらないダメージでしたわ。弱点の打撃属性ですのに。それなのに体力の削りが少ないと言うことは、レベル1では相手をしてはいけない敵だったのでは?」
メイスを愛おし気に撫でる女性は【
彼等は慎重に移動しながら先ほどの戦闘について話し合っている。一所で足を止めていると敵の徘徊索敵に引っかかり易くなるためだ。
「確かに、序盤としては強すぎだ。徘徊系強モブの可能性が高いな。」
「ちょっと、アーシュ。あんなの度々エンカウントしたら魔法が枯渇するわ。探索途中で死に戻り確定よ!」
「自分が思うに
「マルク、裏付けがないわ。私はあると思って、いざって時のために
「はいはーい、そこまでそこまで。索敵に引っかかったよー。このカンジだとコボルト6匹かな?」
「それならメイスで潰せますね♪ せめて次こそは宝箱をドロップしてくれれば良いのですが。」
斥候のフランツィスカ――愛称フラン――が指差した方向に目を凝らすと、子供大の身長で土色の肌を持ち鼻と耳が長く醜悪な面持ちをした
すかさずリーダーであるアーシュが指示を出す。
「よし、オレ、
本来、後衛ポジションの聖職者が前衛に組み込まれているのは、彼女を放っておくと嬉々としてメイスで敵を殴りに行くからだ。窘めても無駄であり、回復役の仕事もしっかり
そして、接敵。先程の
「みんな。そろそろ経験値は貯まったと思う。ここは一度、レベルを上げに戻って仕切り直さないか?」
「自分が思うに、それが最善策だ。せめてレベル2スキルがあれば立ち回りに余裕が出る。」
「意義なーし! 帰りも結構、距離あるし今が戻り時っしょ。」
「そうですね。少し殴り足りませんが、余裕がある内に引き返した方が良いですわね。」
「殴り足りないって、リア殿…。まぁ、拙者もレベル2で護法が得られる故、撤退は賛成でござるよ。」
「やっぱ、戻った方が無難よね。さて、レベルアップで
全員一致で帰還を選択する。探索に不確定要素を孕んだ場合、彼等の判断は早い。撤退するべき時にそれを選択できるだけの経験を積んできているのだ。
――
最も油断しがちである帰還時に難易度が高くなる設定がされていることを揶揄した
――彼等のチーム名「
カテゴリーとしては、プレイヤーが実際に身体を動かす「eスポーツ」であり、スポーツ選手の扱いとなる。故に、彼等は実際に倣い覚えた武術の技を使い、また自ら生み出した技術を使って戦うのだ。
ここは、ドイツのザクセン自由州ドレスデン行政管区バウツェン郡にある大型アミューズメントパーク。広大な敷地と数々のアトラクションはとても1日では回り切れない規模である。そのアトラクションの一つ、「Épée et magie RPG」ゲームタイプの常設型アトラクションが8月半ばからリニューアルするため、月初めから宣伝を兼ねた先行プレイ実況を撮影するプレイヤー役として、運営会社から仕事を受けて彼等は訪れたのだ。この手のアトラクションは、大抵、半年から1年のサイクルで新しい催し物に入れ替わる。
今回のゲームは
「ぐぬぬ…。やっぱり
そして、レベルアップで上昇可能な項目、回数制限のある魔術
この「Épée et magie RPG」競技体系のゲームはレベルアップで身体能力の上昇はない。その代わり、上昇したレベルはそのままポイントとして扱い、スキルスロットや、
リーゼロッテ・ウルリーケ・クローヴィンケル。彼女は以前、本編に一度だけ登場したティナの同級生である。ティナがマクシミリアンへ入学するまでの、小等部時代から中等部2年間はクラスメイトであった。家を行き来する程度には仲が良いのだが、余暇のサイクルが異なってしまったので直接顔を合わせるタイミングが中々取れない。なにせ、学生の内から「Épée et magie RPG」のプロチームに所属しているので、彼女の時間に合わせてチーム活動が週末や長期休暇などになったからだ。
「帰りに
斥候のフランが作成した
「自分が思うにエリア違いだったんじゃないか? もう一度同じエリアまで行って様子見するか、まだ探索していないルートに行ってみるか、かな?」
「リアは
「ウチの聖女様は
「私も弾数増やしたからどっちでもいいわ。だけど帰りがあるから魔法は温存するわよ?」
「ああ~、帰りでござるか。まさか疲弊したところに戦力投入してくるとは思わなかったでござるよ。」
「それじゃ、もう一度
リーダーの言葉に誰も文句はない様だ。チーム全員のレベルが一つ上がっているため、多少の余裕が出ており、現在の戦力を図るには丁度良い相手でもあるからだ。
誰かが促さなくとも皆が
「さっそく探知にかかったよー。
「混成か。
「ならば拙者が1体受け持つでござる。」
そう言うが早いか
一足遅れて戦線に到達したアーシュは、リアをターゲットして飛びかかろうとした
「やっぱり初期レベルの相手なら問題なく一撃で仕留められるわ。」
「自分が思うに、味方を避けつつ動目標を2匹纏めて魔法で当てるのは相当な技術だと言える。」
「アタシもそー思う。実際凄くナい? 命中率80%超えで味方被弾率2%て記録になるんじゃん?」
どの様な状況でも味方の隙間を縫って敵に魔法を当てる技術。それこそが、ロッテにプロチームからスカウトが来た理由だ。
「Épée et magie RPG」競技の魔法は、細胞給電式コンタクトモニターに表示されたターゲットをロックして、魔法を発動すると発射する仕組みだ。当初、ロックは発射のタイミングでターゲットに固定され、遮蔽物が無ければ必中であった。また、フレンドリーファイアがデフォルトで設定される競技であるため、乱戦の中で敵に向かって直線で飛ぶ魔法は、
しかし、魔法使いのスキルは自動追尾などの機能で優遇され過ぎとなり、ゲームバランス的にもスポーツの観点からもズレてきたところで、現在のシステムに改修された。主たるところは自動追尾機能の撤廃。敵をロックした位置が着弾ポイントとなるため、魔法からの回避は
ある時、一人の少女が敵にロックせず魔法を
今までにも、似た様なことを試した者はいた。しかし、難易度が非常に高く、実用可能になるレベルに至った者は極々一部だ。
その様な技術を持つ魔法使いは引く手
「こっちも久しぶりにクリティカルが出せた。」
「クリティカルは難しいでござるよ…。
「ああ、自分もあれには驚いた。流れる様にとは正にあのことを言うんだな。」
聖騎士と守護騎士、それに侍の前衛3人は、マクシミリアン国際騎士育成学園で一般公開される6月祭を見に行っていた。催し物の一つ、電子工学科が作成した今冬リリース予定でベータ版として公開した「Épée et magie RPG」のゲーム(タイトル未定)を最上級生組の
「へー。そんなに凄かったんだー。アタシもイベント見に行けば良かったなー。」
「私は学校だったから行けないのよね。一度はティナの試合を生で見たいところだけど。」
「そう言えば、メインイベントは格闘試合だったとリアは聞きましたが。」
「見て来たよ…。まさかコミックやアニメーションの様なアクションが現実で出来るなんてな…。」
「ロッテ殿のご友人は
「まぁ、そのくらい出来ても不思議じゃないわ。ティナは物心ついた時から剣以外にも
「俺が思うに、ロッテがモンスターの腕を取って頭から落とす技はその時教わったものだろう。自衛と言うより攻撃技だが。」
「うん。歳の割に信じられないくらい体術とか巧いもんねー。ホントは武闘家じゃないかと思うくらい。」
「フラン、私は大魔導士よ! 大魔導士たる者、魔法が使えない時でもその存在は確固たるものなのよ!」
のんびりしている様だが、彼等チームはマッピングした地図を元に道を違えることなく正確に強敵が出現したエリアへ戦闘を繰り返しながら着々と進んでいる
ちなみに、前衛3人組が客席から見たティナと
「みんな警戒! アタシの索敵に
「
「先ほどより余裕がござったら、もう一当てして判断材料を増やしませんでござるか?」
「2戦するの? じゃあ、
「
「敵の特性が判らん。リーダーとしては軽装メンバーは状況が判別出来るまで後方支援を頼みたい。」
敵に近付いたことで、会話がハンドサインに変わる。まず、マルクが音を立てない様に慎重に曲がり角まで先行し、そっと鏡を通路に差し込み様子を見る。マルクが確認役なのは、万が一敵に奇襲されたとしても守護騎士の防御力で持ち堪えられる可能性が高いからだ。
マルクからハンドサインが出される。数は4、人型、武器は剣、動きは無し、と次々に情報を送って来る。どうやら敵は相手を認識後に行動を起こすタイプの様だ。
ここで、斥候であるフランがマルクと位置を入れ替える。彼女のスキルには鑑定レベル1をセットしてあるので、鏡越しに敵を確認してから後方で待機しているチームの元へ戻る。
『(アイツらは
この体系のゲームでは所謂パーティーチャットなどの情報共有手段に利便性はないため、小声で情報を伝達するフラン。それはスキルなども同様で、鑑定スキルも主に敵の名称や主たる特徴のみ通知される簡易辞典的な扱いとなっている。レベルや弱点など詳細事項が判ることはない。相手の攻略方法は、実際自分で戦って見付けていくのが「Épée et magie RPG」で発売されるゲームで主流になっている仕様だ。しかし、索敵する際に敵の名前が判る様になるのは大きい。一度戦ったことのある敵ならば、どの様に立ち回れば良いか事前に判断できるからだ。今まで遭遇した敵は殆どがドイツの妖精をモチーフとしていた。だが、ゲームのキャラクターは別物で、必ずしも伝承にある特性が使われている訳ではない。
『(では、マルクが先頭で敵を引き付けてからオレが右、
了承の旨は
声もなく、それぞれが配置につく。前衛3人は右からアーシュ、マルク、
盾を構えながら声を上げてマルクが敵のど真ん中に突撃する。敵の注意がマルクに集中したところで、マルクの影から現れる様に右からアーシュが、左から
一撃二撃と剣を振るうが、敵の体力はなかなか減らない。その時点で明らかに推奨レベル以上の敵であることをチーム全員が認識している。だから、その様な敵に対する連携へ言葉がなくとも自然と切り替える。
「
体力が減った
その隣で戦っていた
「
リアから放たれた回復魔法は、
「助かったでござる! こいつら出血量がえげつないでござる! 一気に身体の自由が効かなくなったでござる!」
アーシュやマルクの体力は、フランが回復薬(微)を投擲するだけで済んでいるが、出血値の蓄積量が危ういだろうと予見される。そろそろ戦闘を終わらせる必要がある。
「ロッテ!」
「
アーシュの合図と同時にロッテから魔法が放たれる。アーシュとマルクの隙間から火の
最後の1体は体力がまだ十分残っている様で、身体の動きに疲労も見えなかったのだが、
「
以前、ザルツブルクの宮殿美術館にチームでゲームのPV撮影に来た際、偶然ティナ達三人娘と出会い、ロッテの伝手で少しだけ交流を持った。その時、
「あ~! 宝箱出たよ、ホラ! アタシの出番~♪ 開錠、開錠っと。」
「苦労した分、ランクが高いものだと良いな。」
「リアはメイスを強化する
「自分が思うに期待するのは宜しくないのでは。」
「
「ちょっと!?
「ざ~んね~ん。微妙なお宝でした~。回復薬(微)が2個と回復薬(小)が1個。」
「微妙だな。」
「微妙ですわね。」
「ガン無視でござるか!」
「微妙よ。」
「微妙だ。」
「なんでコッチ見て言うでござるか!?」
遭遇した敵の強さから、ほぼこちらのルートは推奨レベルが高めであると想定される。自分達も1つレベルを上げても苦戦することから、想定されるレベル帯は3~4が最低限必要だろうと彼等は結論付けた。確認のためにもう1回だけ戦うと決め、進路をそのままに少し進むとフランの索敵に敵が検知される。
「警戒、警戒~! 索敵に引っかかったよ。今度は
「やはり別エリアだな。戦闘は
結局、
強敵と2戦した結果から適正レベルに達していないエリアであると判断し別ルートへ引き返した彼等だったが、「
「うーん、この
「そうでござるなぁ。既にトータル2時間は掛かってまだ半分も攻略出来てないことを考えれば…。」
「どうだろ? アタシは未探索ルートが正規順路で、レベル爆上がりとか、攻略アイテムが手に入るとかな気がする。」
「Épée et magie RPG」競技ゲームに於けるレベルアップの概念は、拠点や特定の安全地帯でしかレベルアップをすることが出来ないソフトウェアパッケージが多い。特にダンジョン系のゲームはレベルアップに一度ダンジョンから外へ出る必要がある方法を採用しているソフトウェアメーカーが大半だ。これは、レベルアップさえすれば強引に進めてしまうことを防ぐためだ。
行き詰まれば近辺で敵のリスポーンを待ちながら只管レベルアップする。その方式ではダンジョンと言う特殊空間の醍醐味である謎解きや探索などが二の次になり、ゲームを攻略する楽しみが半減したと言う過去の統計から産まれた仕様でもあるのだ。とは言え、簡単にレベルが上がり、ストレスなく先に進める爽快感をテーマとしたゲームもあるが、それは購買層のターゲットが明らかに違うので棲み分けは出来ている。
「自分が思うに、さっきのルートは自分達だから対応出来たが、一般客ならゲームオーバーだ。」
「リアも侵入不可を促す立て札とかメッセージとか区別出来る様なものは見てないですわね。」
「ある意味、初見殺しよね。死に覚えゲーかしら? それ
「だな。普通に進める場所にあるから躍起に挑んで玉砕し続けるケースも多そうだ。」
「リスポーンは30秒後で身体負荷増大のペナルティが1分だったよね? 下手なトコだとそのまま全滅する光景しかアタシは浮かばない…。」
このゲーム、全滅時はダンジョンの最初から攻略し直す。その際は戦闘の強制終了、敵との遭遇は止められ、ダンジョン入り口まで別の出口から退出する。また、パーティがギブアップ申請をすれば同様に裏口退出となる。問題は、ダンジョンに入ってから敵や宝箱から得た金貨は没収され、一度も拠点に戻らなかった場合は無一文となる。そうすると、拠点にあるショップなどの金銭がかかる設備が利用出来なくなる。武器の劣化修復や、回復アイテムなどの装備を整えることが出来ずに再度ダンジョンに潜ることを強いられる訳だ。
最終的に
シンプルだが王道で、謎解きも探索も奥が深く、振り返れば確かに面白かったと感想が出る。
しかし。一本道の分岐が多く、ギミック発動のためや、正しい道を選ばなかった際に長い距離を引き返す必要が度々起こり、戻ると言う行為が発生した時点で敵の遭遇率が倍に跳ね上がり攻略速度を遅らせる。
更には2層目でボスを斃して出口となる3層目に入った途端、帰還ミッションが発動し、敵の遭遇率は2倍、尚且つ後ろから敵が追いかけてくると言う鬼畜仕様。
よく無事に戻れたとチームメンバーの誰もが思った。
「いやー、ホンとに冒険だったでござるな!」
「確かに面白かったけど、アタシは疲れたよー。」
「自分が思うに、一般客ではクリアが難しいんじゃないか?」
「依頼料が高い筈だよ。仕事の拘束が長引けば1週間と言われたのが頷けるよ。」
「リアは聞いたのですが、デフォルトは難易度イージーで、且つ妖精さんが着いて来てナビゲートしてくれるとのことですよ。」
「あー、ナビ着きじゃなきゃマニアしか来なくなるわね。私達、難易度ノーマルだったわよね? ハードだったらどんだけなの…。」
難易度設定は、ダンジョンへ入場する際に選択して決定する。彼等はプロのチームであり、ちゃんとチーム連携と頭を使って攻略すればクリア出来ることを証明するため、難易度ノーマルでテストプレイする契約であった。
「まぁ、私の見せ場が結構造れたからよかったわ。」
自称大魔導士は、仕事の出来に満足だった様だ。
自分の見せ場となる時を見逃すことはない。
だからこそ、この競技で魔法使い系のトップグループに数えられるのだ。
後日、彼等「
だが、ダンジョンの構造は月ごとに移動パネルによって変更される。インターネット攻略情報サイト泣かせのアミューズメントであったと言う。
人気が着々と出てくるころを見計らい、「
動画にはオープニングでチーム「
彼等の動画を見たことがある者は誰でも知っている。
可愛らしくも臆面なく香ばしさを振りまく彼女の姿を。
画面の中、ロッテはクルリとターンを決めた後、マントをヴァサッと翻し、腰に差していた杖を取り出す。軽く1回転させコーンと床を突く。
肩にかかった髪をファサッと左手で流し、その左手は親指と人差し指をピーンと伸ばして顔の前面、左目の下に来るように置き、右目を瞑る。身体は妙に斜めに傾いているがピーンと伸ばされている。
そして声高々に名乗るのだ。
「我こそは「Épée et magie RPG」競技チーム「
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