03-004.Verkäufen. 販売促進を促す戦略が齎す影響と結果。
2156年6月21日 月曜日
今週の木曜から金曜にかけて、この学園では6月祭と呼ばれる一般公開のイベントが行われる。木曜である24日には、ティナのアバター用格闘データが発売となるため、イベントで出店するアバターショップの販促係として売り子となる予定だ。その打ち合わせのため電子工学科へ赴いている。
「うーん、攻城戦のモーションデータなんだけどさー、いつ撮ろうか的な?」
「ウルスラ…。口を開くなり話題がそちらですか。今日はショップの打ち合わせでしょう?」
「判っちゃいるけどスケジュールは決めておきたい的。できれば夏季休暇までにはリリースしたいかなー。」
「どのみち、エスターライヒの選手選考大会が終わってからですね。早くても7月12日以降ですかね。」
「結構先だねー。じゃ、一応12日から考えといてー。でもその次に本格的な更新は世界選手権後かなー。」
ティナは少し驚いた。世界選手権までに、今週の6月祭、7月の選手選考大会、10月の冬季学内大会とイベントが含まれているが、その間は新しい技を出さないだろうとウルスラが読んでいたからだ。
ウルスラの根拠としては、現在までに公開した技で
「なかなか穿った意見ですね。概ねその考えであってますよ? まぁ、途中で見せたことない技を出すかもしれませんが。」
「その時にはパッチレベルのプログラム修正で済む的にして欲しいなー。結構、立て込んできたからー。」
現在、電子工学科のアバター担当は、学年を跨いで20名以上いる。そしてアバタープログラム担当も同数以上が別に存在している。ティナの様に新技をポンポン出すような
春季学内大会ではティナの他、
ウルスラはアバター作成の練度が高いため、作成難易度が高いアバターを一番上から数えて幾つかまでが割り振られているのである。
「あー、売り子の件は
「制服ではダメなんですか? アレ、金属鎧なんで季節的に1日中纏いたくはないんですが…。」
「やっぱり格闘データ実装するアバターと同じカッコの方がいい的かなー。」
「はぁ~。仕方ないですね。」
「たのむね~。それで売り上げが開幕ダッシュ的になるからさー。」
ティナが渋ったのは今現在、「私は姫騎士ですよー」週間を実施しているからである。先日二つ名が変わるかも知れない危険を孕んだため緊急措置の真っただ中なのだ。
「ところでウルスラ。」
「んー? なにー?」
「なんでウサギの毛皮を被ってるんですか。」
ウルスラは、自分の弓で狩猟したウサギなどの皮を
そして、今は何故かその毛皮を頭に被っているのだ。頭の上にヘニャリと鎮座したウサギ頭がとてもシュールである。
「今日はウッサウサ的な気分なのさ~♪ ティナも被るー?」
ご遠慮します、と丁重にお断りするティナ。ウルスラはマイペースな上、独特な感覚から時たま怪しいことをやりだす。学園生達もスルー安泰と学習したので皆慣れたものだ。
「じゃあ、24日は午前中から店頭で販促と言うことで。」
「ほーい。9時半くらいに軽く打ち合わせするから装備着てアバターブースの場所に来てチョーだい的ー。」
「了解です。それじゃ、私は帰りますね。お疲れさまでした。」
「おつかれー。」
全く関係ない話だが。
お疲れ様という言葉は日本独特の言語であり、海外では違う意味の言葉が使われ……あれ?コレ前にやったな。
2156年6月24日 木曜日
今日は朝から学園全体が慌ただしい。6月祭は学園生たちの技術の集大成として造り上げた一般公開向けイベントのため、一般入場の対応が必要になるからだ。下準備はとうに終えているが、各処では入念なスケジュールチェックやブリーフィングを行っているところも多い。
ここの学園生はその道のプロを目指す者が多いため、学園生主催のイベントであっても手作り感などは全くなく、本格的なプロデュース、プログラムスケジュールと綿密なタスク割り、人員のアサインや警備体制など運営に携わる部分まで全体の一貫した統括がなされており、アミューズメント施設や遊園地などと遜色ないレベルに仕上がっている。
つまり、元々の規模が違うのである。来客数も万単位であるため、催し物を開催するメンツを除き4年生以上の上級生組は顧客対応スタッフやイベントアクターとして忙しく動き回り、3年生以下の下級生組は裏方に回る。
学園敷地の入り口から校舎まで繋がる道は4車線道路よりも幅を広く取ってあり、植えられた街路樹が季節がら緑を茂らせ辺りに夏を感じさせる草木の香りを運んでいる。その外側を沿う様にトラムが走っており、公園や競技場などを経由して学園正面駅まで約1km弱を運行するため、徒歩での来園も苦にはならない。学園校舎の正面玄関の前は噴水がある広場となっており、学生達の出展する屋台や、一部本職の屋台が混じっている。こちらも広場を囲む様に木々が植えられ木陰を作る。
アバターショップは、その広場と屋内中スタジアムを外から繋ぐ路地の角に陣取っており、そこそこのスペースを確保している簡易店舗と言って良い造りだ。アバターのダウンロード販売とは違い、ショップでの購入特典として購入する
アバターショップ前でウロチョロしている本日の売り子は、一際
ティナは
彼女も、ドイツの全国大会で
ティナとテレージアもキラキラと目に眩しく、二人揃って威力は二倍である。ぶっちゃけ眩しいので、この人達が呼び込みをする時は雨が降った際に店舗前に伸ばす
「鎧を着てこいと言われたのにこの扱いは如何なものでしょうか、と問いただしたくなりますね。」
「そこは朝から良く晴れて良かった、とお思いになられたら如何でしょう。それに午後ならば日差しは外れますわ。」
股下0cmとV字リボンと言う下半身の防御力が足りていない二人の会話は、この地域は大抵午前中が曇っているための言葉である。だから朝っぱらからキラキラと
ちなみにこの二人を後ろから見ると、ティナが臀部下半分、テレージアが臀部全開の肌色率であり、鍛えられてキュッと上がった尻肉が色気と言うよりエロスを誘うのだが、
今回、アバターショップが建っている場所と屋内中スタジアムへの通路は密接な関係がある。それは、電子工学科の用意したイベントである3D格闘ゲーム「
通常のグラスモニターやゲーム用モニターを使った対戦ではなく、
1週間前に6月祭のプログラムが発表されてから話題が話題を呼び、若い世代から古参の格闘系ゲーマーまで注目を集めていた出し物の一つだ。
ここで使用されるホログラム
つまり、ゲーム自体も現実の
「
これは、パッチが当たったアバターや新規購入できるアバターデータが存在することを示しており、キャラクターの詳細を見れば更新情報とアバターの3D画像が表示される。購入後は更新情報エリアから本来の一覧順に並び替わる仕様である。
近日発売予定のアバターや更新データも「Coming Soon」などの文字列と共に更新情報エリアに表示される。
今回、このゲーム大会では更新情報エリアの購入が必要なアバターデータで遊べる様になっている。ユーザーの購買意欲を掻き立てる手法だ。そして帰りがけにアバターショップで特典付きのデータを購入させる流れである。通常でもアバターショップによる店頭販売では、直近で大きな更新があったアバターデータを販売する際、その本人が売り子となることが多いのでファンやマニアは必ずと言って良い程に釣れるのである。
「ありがとうございましたー。また来てくださいねー。」
「こちらでございますわね。はい、どうぞ。」
「そうですよ、今回は格闘データ追加に合わせて格闘専用のアバターになってるんですよ。」
「あら、他もお買い上げになって下さるのですね。ありがとうございますわ。」
「はい、写真ですか? 良いですよ? え? テレージアも一緒にですね。はい、おまたせしました。」
「あら、サインはブロマイドの裏で宜しいのですか? 保存用にもう一つでございますか? ありがとうございます。」
――アバターショップはフル回転であった。
通常でもこの店はそこそこ忙しいのだが、今回のゲーム大会が大当たりした煽りで繁忙を極めた。ようやく、一息付けたのは16:00を越えたあたりである。
「ふいー、やっと座って休憩がとれました。ちょっと忙し過ぎですね、これは。」
「商売繁盛は喜ばしいことですけど、さすがに今回はたまりませんですわ。」
店舗の奥に設置されたベンチでドリンク片手に寛ぐティナとテレージア。元々売り子は電子工学科のメンバーが常時3人は対応しており、販促のため手伝いに来る
「テレージアさーん、お客様対応お願いしまーす!」
「はーい、ただいま参りますわー。」
こんな具合に呼ばれるわけである。
しかし、アバターショップで
結局、閉園の18:00までティナとテレージアは忙しく働くのだった。
後で聞いたところ、アバターショップの売り上げは過去最高であり、第2位の売り上げと比べて倍以上引き離す勢いは予想外だったらしい。忙しい筈である。
「まさか、2000あった
「わたくしも完売いたしましたわ…。とても有難く嬉しいことなのですが…。」
「疲れましたね。」
「本当にそうですわね。」
店頭販売用のブロマイド付きアバターデータであるが、データ更新はなくともブロマイドの写真は
「なんか
「いいではありませんか。我々、
「判ってはいますが、こうも男女比が男性に偏っていますと薄い本がたくさん出来ていそうです。」
「薄い本、ですか? 殿下。」
「あら、テレージアはご存じないですか。
「もう、殿下ったら、旦那様だなんて~。ウフフフフ」
顔を赤くし、両の手で頬を抑えイヤイヤをする様に身体をくねらせるテレージア。その顔は物凄く嬉しそうである。
テレージアが動揺してオモシロアクションを披露するだろうと燃料投下したティナであったが、逆に喜ばせた形になり何か負けた気分になった。
お笑いキャラの逆襲。
そんな台詞が脳裏を
物凄く失礼なことを考えているのだが、ある意味いつも通りである。
ちなみに、
一番人気だったのが「ヘリヤと遊ぼう」コーナー。現世界最強の
ヘリヤが学園生最後に迎えた6月祭は、子供達に囲まれて終始笑顔が絶えなかったので、彼女としては満足がいくものであったのだろう。
お祭りごとには積極的に参加する学園生が多いため、路上パフォーマンスや仮装パレード、楽団や栄養学の料理教室にマッサージと、盛り沢山である。
「その内、テーマパークでも出来るかもしれませんね。」
今回の6月祭は忙し過ぎて全く他所の催し物を覗くことも出来なかったティナだが、本日のプログラム一覧表を見て思わず出た言葉である。
口に出してからハッとするティナ。
自分でも突拍子もないことを言ったと思うが、ここの学園生なら在り得そうである。
迂闊なことを口にしない様、心に決めるティナであった。
フラグ危険、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます