02-025.5.【閑話】よろづにその道を知れる者は、やんごとなきものなり。
本編には含めないが、ティナの誕生日に集まった面々で一寛ぎ後の話。
彼女達の何気ない日常では、ポロリと怪しいネタが零れ落ちるひとつの例。
何となくの流れで学園販売の3D格闘ゲーム「
ティナだけでなく、
アバターを提供した本人には無料で配布されるが、学園に在籍している生徒であれば格安で入手可能。それも50円、100円の世界だ。
「そういえばティナのアバター、格闘術も実装するんだってな。」
ヘリヤは、テレージアのアバターを使っている。
彼女のアバターは、1000を超える
テレージアの切り上げがそのまま後方への切り下ろしとなり、そこには
「…ヘリヤ、どこからそれを? 一応、発売まで秘密なんですが。」
ティナは、
ティナが操っているアバターはウルスラだ。弓の射撃に命中率補正を付けることで彼女の精密射撃を再現している。更にサーカス射撃中はコンマ1秒ほどの無敵時間があるため、回避性能も高い。そしてエイミングモードはFPSになる。
「6代目総受け君の無残な姿を見る機会があってなぁ。アレ見たら誰でも格闘術実装のためと思うけどな? ちょっとつついたらウルスラも隠しきれなかったぞ。」
「
「
普通は老朽化による劣化以外では壊すのは難しいだろう。トラックに撥ねられてもピンピンしてるので異世界転生も出来ない御仁である。
製作協力メーカーが破損状況のデータを取るために回収に来たのだが、関節が増えたり逆に曲がったり顔面陥没した頭から何か漏れてたりと、業者の顔が引きつっていた。
そして今、ベルを除く全員の顔が引きつった。
やったー!勝ちましたー!とティナのアバターを使うベルは、ゲージを溜めて姫騎士
ちなみに
「うーん、ベルはゲームが上手いな。ボタンを押す指が追い付かなかったぞ?」
ゲーム用コントローラを置いてヘリヤは感嘆の息を吐きながらベルの頭を一撫でする。
えへへー、とはにかむベルはやはり妹キャラだ。
そして、ヘリヤは笑顔で先ほどのネタを掘り返した。
「総受け君を再起不能にさせる格闘家がいるなんてな。しかも二人も、だ。」
ここでヘリヤはニヤリと笑う。
「で、ティナと
確かに気になるところではあろうが、
「また聞きにくいことをシレッと聞きますね。」
「そりゃ、あたしは格闘出来ないからな。だから聞かないと判らないんだよ。」
格闘術。競技のルール上でも、
「それ。私も気になる。森の民がどんな体術使ってたのか。」
「私も聞いてみたいです! この学園だと
「みんな、妙に食いつきが良いですね。
「ソレ風評被害ヨ! ワタシ、料理には真摯ヨ!」
料理以外は?、と問いただされそうである。
さすがに
「
「あれは組手では絶対禁止です。ヘリヤでも触れられた時点でほぼ決められますよ。」
「おお! そんなに凄いのか! 格闘出来ないのが悔しいなぁ。」
「
「二つくらい上を行かれてる認識ですが。技のレベルを上げても簡単に凌駕してきますからね。」
「それほど差はナイヨ。ティナの技、
「その状態のティナと、
「手脚の1本捨てれば勝てるヨ。虎は二撃必要だたケド、人なら一撃で
目を瞑り顎に手を当てウンウンと頷く
「
「ソウネ、
「例えいるカ? まずアズ先生。あのヒトは
ティナの母であるルーンを含めているところが
「ティナさんのお母さんですか?」
「ティナママは
「ああ、だから
ふむふむ、と頷くヘリヤ。ここのところ
「ところで、ヘリヤ。アズ先生が何か企んでるようですけど知りませんか?」
「かあさんが? 特に何も聞いてないなぁ。そんな素振りもなかったぞ。」
ティナはアスラウグから鍛錬の相手として自分の母親が名指しされたことをヘリヤに聞かせた。
「確かに怪しいな。絶対何かやらかす気だ。それよりも、ティナ。おまえ【剣舞の姫】の娘だったのか。」
「あら、ご存知ありませんでした?
「【剣舞の姫】て
歴代の
――そして最も恐ろしいのは誰かと問えば【剣舞の姫】の名が挙がる。
彼女だけは
「あたしは【剣舞の姫】のファンなんだよ。あの人の技に魅せられて
「あら、それを聞けば母が喜びますよ。現役時代は怖がられることが多かった様ですから。」
「今にして思えば、
「あれはフィンスターニスエリシゥム格闘術に伝わる剣技の奧伝ですから。」
かつて、【永世女王】からポイントを奪った技である5連撃は
「ふーん。ティナママはそこまでの
「
「
「ほえー? 私もですか? 何で探せばいいんでしょう?」
「それならアドレス送りますよ? 流石に家族の記録ですから情報は抑えてます。うーんと、そーれ、一斉配信!」
ティナからここにいる全員にアドレスが送られた。国際シュヴァルリ評議会のデータベースには、
アドレスのリンクを開くと
年代と参加した大会、対戦者名が記載されており、その横に試合画像がアイコン化しており、5秒くらいの動画を繰り返して表示している。
「
「比較的新しい
「うん、妙な
「その中から、対戦者をかあさん、すまん。アスラウグになってる試合を見た方がいいぞ。世界選手権の第9回と10回だな。他は単なる蹂躙劇だ。」
あなた、春季学内大会でフラッと
そして動画鑑賞大会になり、急に静かになった。彼女達の細胞給電式のコンタクトレンズ型モニタやゲームで使ったメガネ型のグラスモニターなどでお行儀よく閲覧中だ。真剣に見ている者、口をポカンと開けて見ている者と様々だ。
その様子を見回すティナ。時たま、ふやぁ、と言いながらビクンとするベルや、どう防御するか手を動かして検討している
「いやー、何度見ても美しい連撃だ。かあさんを防戦一方にするなんて【剣舞の姫】以外出来ないぞ。」
「予想以上。アズ先生が本気出してるとこ始めて見た。正に実戦の技。鬼が二匹戦ってる。」
「ふぇー、ビックリです。ティナさんのお母さん、お侍さんが戦ってるみたいです。ブワァーとなってシュバッと! ナイフがピューンです!」
ベルは自分が大好きな日本の時代劇を引き合いに出しているが、表現が天才語録系だった。彼女は武術を始めてまだ3年目だが、今年は年齢制限のないシニアクラスの全国大会州予選に初出場で4位入賞を果たしている。将来を期待させる、急速に伸びている
「ある意味、想像通りだったな。
「ソウネ。やぱり
「そうなのか? 格闘家と言うことは、あの連撃には体術が入ってるのか? あたしは格闘はわからんからなぁ。」
「2発目の剣吹き抜けて、ホンとは肘入れるハズヨ。その
「あら、やっぱり
「大変です! 8ポイントも取られます! ナイフがピューンも達人みたいでした!」
「ああ、落としたナイフを蹴り上げて刺す技は格闘っぽいな。かあさんが驚く姿を見たのは後にも先にもあの1度しかないよ。」
第10回世界選手権大会の決勝戦ではルーンが剣とナイフの二刀を使い、緊迫した接戦中にナイフを手放し剣を両手持ちに移行する。しかし、それは見せかけで、落下するナイフを蹴り上げてアスラウグの腕に突き刺し1ポイントを取っていた。
フィンスターニスエリシゥム
姫騎士と呼ばれている少女は、そんな技を継いでいることをついこの間まで素振りも見せずに隠し
「ティナママが出来るなら、ティナも出来ると言うこと。これは姫騎士詐欺案件。」
「
「ソウネ。イロイロ出来るヨ。イロイロ出来るから姫騎士狩りしてるヨ。」
「
「いや、してるだろ? 姫騎士狩り。二つ名【姫騎士】を持つ相手には明らかにマウント取りに行くじゃないか。」
「……。」
「ティナさん、辻斬りですか? 岡っ引きに捕まっちゃいますよ?」
「いえいえいえ、さすがに闇討ちや喧嘩をふっかけてる訳じゃありませんて。対戦相手が【姫騎士】だった場合、丁重に敗北頂いてるだけです。」
「言葉変えただけヨ。姫騎士狩りヨ。」
「……。」
ベルは時代劇の知識に偏ってるが言いたいことは伝わった様だ。否定を入れるティナであるが、ぶっちゃけ
ここで二つ名【姫騎士】について話をしよう。
二つ名とは、基本的に観客やファンが呼び始めた
特に、【姫騎士】と言う二つ名はポピュラーであり、お嬢様風な見た目や言動を持つ剣士などは直ぐに【姫騎士】と呼ばれたりする。その
ティナは、自分が二つ名を【姫騎士】と呼ばれるために様々な行動を積み重ねて今がある。まず、王道派騎士スタイルを用いる公爵の姫であることをアピール。二つ名ではなく、本物の姫騎士として印象付ける。公で姫として振舞う所作や態度も日常に取り入れ、地道なファンサービスで支持者を増やしてきた。そうやって二つ名を【姫騎士】と呼ばれる様に画策して来たのである。
【姫騎士】と言う二つ名を不動のものとするため、他の姫騎士と対戦することがあれば必ず勝利することを課している。同じ姫騎士の中で一番強くなれば世間の注目度も上がり、ティナ=姫騎士と言う図式が成り立つからだ。印象操作とはそういうものである。
ティナを黒いと言うなかれ。彼女は正々堂々、真正面から実力を持って姫騎士を排除して、もとい討伐して、もとい打ち倒しているのだ。
「つまり、ティナは姫騎士の一番になりたいのか。」
「ヘリヤ、その認識で
拳を高々と振り上げ、かの独裁者の様に演説するティナ。
元々ティナは姫騎士に拘っていることは知れ渡っているので「ふーん、そうなんですか」レベルの話なのだが、この場にいた皆の思いはひとつだろう。「開き直ったな」と。
だからどうしたと言う訳でもない。
物騒な単語も出たが、全て単なる話題のひとつに過ぎない。
これも彼女達の日常である。
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