02-020.ホーエンザルツブルク要塞を、堪能です!

 ホーエンザルツブルク要塞見学チケット購入の際、Cコースを含めていないと入場できない「Fürsten Zimmer」、つまり大司教の居室だが、ほぼ当時のまま保存されている。

 この居室はコイチャッハ大司教の城塞大改革の目玉として、後期ゴシック様式で造られた黄金の広間、黄金の間、寝室で構成されており、どの部屋も金細工をあしらった豪華な造りとなっている。実のところ、市内の大司教宮殿が危機的状況になった際に備えて城内に大司教の居室を造ることが急務だったのである。近い過去で市民の反乱や、バイエルン、ハプスブルグ家などとの諍いがあり、防衛機能を高める必要があったのだ。


 ザルツブルクは、7世紀のバイエルン公国から塩泉と塩釜の利益の一部を含んで割譲された司教区管轄地が元である。布教の財源として、ザルツァッハ川を通じて各塩生産地からヨーロッパ各地へ送られる際の通行税、塩泉を入手後はその利益を元に繁栄してきた。8世紀には大司教区へ昇格し徐々に版図も拡大していく。19世紀にエスターライヒに組み込まれるまで、ドイツ諸邦の独立した大司教領邦国家であり、エスターライヒとは対等の国家関係であった。

 宗教領主制が廃止される1803年まで、実に1100年続いた宗教国家であり、その中でもホーエンザルツブルク要塞の大改革を行ったコイチャッハ大司教の功績は大きい。

 彼は、改革に携わった箇所に自身の家紋である白カブの紋章が描かれたレリーフをはめ込んでおり、要塞全体で50カ所以上に及ぶレリーフがある。


 黄金の広間。居城4階に位置するこの場所は、大司教が晩餐や宴席を開いていた大広間であり、特に外国からの来客に富と権力を見せ付けるための政治的意味合いを含む場であった。位置的には北側の城壁に面した最上階であり、5つの窓から城下を望める。窓側の近くには、螺旋状になったアドネット大理石の列柱が4本並び、格子の裏からパネルをはめ込むごう天井は蒼く塗装されている。そこへ丸い黄金の鋲が等間隔で打ち込まれており、夜空に輝く星の様である。天井を南北で分ける様に東西方向へ17mのはりが設けられ、コイチャッハ大司教の白カブを象った紋章、神聖ローマ帝国の紋章、ドイツの権勢を誇る都市の紋章、ザルツブルクと同盟を結んだ都市の紋章が描かれている。


 現在この広間は、列柱の窓側ではない方向に一段高くなった舞台があり、グランドピアノや譜面台などが置かれている。ここは城内コンサートホールとして活用されており、中々予約が取れないことでも有名である。


「ハル、見てごらん。天井に星がいっぱいだ。」

「おほしさまー。いっぱいあるねぇ。」

「いっぱいヨ。ひとつくらい流れ星になて落ちてくるヨ。捕まえるヨ。」

「落ちてきませんて。たとえ捕まえても提出は必須ですからね?」

「ええー? 星はダレのモノでもナイてエライひとが言ってたヨ。」


 その星は明らかにこの城が保有している財産だろう。


 黄金の広間と扉を介して黄金の間が繋がっている。

 大司教の居間であった黄金の間は、壁の2/5から上と天井が蒼く塗装され、丸い黄金の鋲だけではなく、ごう天井の格子部分、天井と壁の堺や柱部分など、大量に金細工が施されている。

 扉は木製であるが、蝶番を止める部位から鉄の蔦が這う様にデザインされ、扉をはめ込む壁は上部がアーチ形の金細工、その周りを金の蔦が天井まで複雑に絡み合っている。

 壁に造り付けられたベンチは大司教が説法を行う際の待合用だろうか。ブドウの木から葉が生い茂りブドウが実っている細工や動物が彫られ、ひじ掛けやベンチの側面にまで金の蔦が煌めく。天井の格子や、黄金の鋲、柱などは赤く縁取りされており、蒼と金にコントラストを与えている。

 コイチャッハ大司教以降、この居城に住んでいた大司教は数えるだけであった。そのため室内の劣化が少なく、良い状態が保たれて今に至る。


「…流れ星、落ちてコナイカ?」

「すごく豪奢な部屋だな。当時の権勢が良く判る。」

「代々の領主に塩泉の利権が継がれてましたからね。当時では金鉱脈より価値があるものですし。」

「ぴかぴかだねー。きれいねー。」

「この入ったらイケマせんロープが邪魔ヨ。もっと近くで剥がし…観察したいヨ。」

「全くもう。何おバカなことを言ってるんですか。ネタが不穏に聞こえますよ?」


 黄金の広間から入って来た扉側を振り向くと、部屋の右隅に高さ4mはあるマヨルカ焼きの陶器ストーブが据えられている。

 鮮やかな色彩で、植物のレリーフ、聖人、聖書の一場面が表され、非常に繊細な造りだ。16世紀初期ではこの規模で装飾を施した大判タイルの製作は非常に難しかったため、最初の成功例となっている。正に資金を湯水の如く投入し、贅を尽くしたと言える。この規模の大判タイルを製作する方法は17世紀まで確立しなかったと言う。

 タイルの意外と上の方にコイチャッハ大司教がちゃっかり象られている。そのため彼はこのストーブが存在する限り、物語の一部として生きることとなった。


「おっきいね。すごいね。」

「きらきらヨ。これがストーブなんて判んないヨ。」

「これもあったかくないよ?」


 博物館で見た陶器ストーブと同様に、ハルはストーブに手をかざして花花ファファに振り返っている。

 花花ファファは、あったかいヨ~、とハルの頬を両手で挟んでいる。

 あったかーい、などとはしゃいでいる姿は実に微笑ましい。

 それを脇目に、ティナは少し眉尻を下げて器用にもほんのり頬を染めながら艶が入った声で一言囁いた。


「すごく…大きいです…」

「何言ってるんだ、ティナ?」

「いえ、お約束事です。本当は、ウホッ!いい男…、やらないか、の順にこなさなければならないのですが…。」

「いや、ホントに真面目な顔をして何言ってるんだ?」

「フロレンティーナとは薔薇の種類ですから。」


 最後はキリリと決め顔で言い放つティナ。十中八九、ティナの人生を変えた親戚のお姉さんから悪影響を受けているのだろう。ブラウンシュヴァイク=カレンベルク邸の建築時に風呂の設計図を捻じ込んできた貴腐人である。

 この手のマニアックな話題に疎い京姫みやこへは全く通じていなかったが、そもそも誰かに向けて言っている訳ではない。

 たとえ一人きりだったとしても同じ台詞を言っているのがティナである。お約束事をこなす自動化ルーチンが搭載されている。…らしい。


「いったい、何やってるかネ~」

「ね~」


 花花ファファとハルが二人して首をコテンと傾ける。見事なシンクロ具合である。


 黄金の間から寝室に繋がっているのだが、そちらは非公開であるため見学することは出来ない。

 その代わりと言っては何だが、当時のトイレが公開されている。まさしく個室に木製のベンチがあり、真ん中に穴が開いているのだろう、丸い蓋がしてある質素な造りだ。得てして城のトイレは質素、宮殿のトイレは豪華なのである。見た目だけは。

 ちなみに城、特に城塞のトイレは汲み取り式ではない。深い竪穴を経てから少し傾斜し城壁外に直接排出される。水堀がある城であれば、そこに落ちる様に造られる。排出口から侵入されない様に、途中で棘が埋め込まれていたり対策がされていることが多い。そして、王族や上級貴族専用だったりして設置数も少ないため、オマル式の方が使われることが多いだろう。中身をどうするかはお察し。


 黄金の間を出ると、城内ショップがある。

 定番のクッキーやチョコレートを筆頭に、ポスターやTシャツ、オーナメントやポストカード、糸繰人形等、幅広く品揃えがあり、ホーエンザルツブルク要塞をドローンで空撮した動画や、要塞の3Dモデリングデータまで販売している。無論、データ類はショップ限定のポストカード付でダウンロードコンテンツではない。

 また、兜や盾、剣などを模倣した装備があり、買い揃えればなんちゃって騎士になれるのだが、訪れた客が騎士シュヴァリエなので、そちらは眼中にない。


 ティナは、以前には無かった品物を見つけて手に取る。それは金属で出来た紋章のレリーフ。大きさ5cm程の法冠と白カブが象られたコイチャッハ大司教の紋章と、ここホーエンザルツブルク要塞の紋章である。

 観光地の建築物が刻印された記念メダルなどは見かけるが、紋章そのものを象ったアイテムは珍しい。全てではないが、歴代大司教の紋章があったので試しに一揃い種類を買ってみた。

 前に来た時は、「ザルツブルクの牡牛」が奏でる曲の優秀録音データが発売直後だったので購入していた。


 ハルは城の写真がプリントされた丸いバッジが気になる様で、ティナは欲しい図柄を買ってあげた。直ぐにお気に入りのカバンに付けて付けてとせがみ、京姫みやこがカバンの紐へバッジをピン留めすると満面の笑みで皆に見せて回るハル。

 京姫みやこが言うには、写真と思ったら精度の高い七宝焼きだったとのこと。道理で単価が高い筈だ。観光地価格だからではなかった。


 その京姫みやこは、Tシャツを買っている。赤い生地に白い線画で、リアルに描画されたホーエンザルツブルク要塞にデフォルメされた幾つもの白カブがてんこ盛りになっている。手足付きの白カブが1匹、城壁を登ろうとしている。チョイスしたのが何とも斜め上の図柄だ。

 なんでも小乃花このかが、こう言った少し外したセンスのご当地土産が大好きらしいので買った様だ。Tシャツの裏は漢字で「栄華」と書かれ、その下には丸い写真フレームにデフォルメされたコイチャッハ大司教が白カブを抱えている。

 自分用には、陶器ストーブのミニチュアを買っていた。意外と精巧な作りで、薪の代わりに香が焚ける様になっている。


 花花ファファが、空撮動画と要塞の詳細な内部構造が再現された3Dモデリングデータを買っていた。ホントに城攻めする気なのかも、とちょっとだけ心配になったティナであった。


 帰りは歩いて下山しようと言うことになり、どうせならばと城郭内を一回りすることにした。

 城の1階まで降り、西側の入り口から出る。すぐ側にベンチと飲料の自動販売機があり、老夫婦が休憩していた。城の城壁に繋がって造られているアーチをくぐる。振り返ってアーチの上を見ると、石で造られた紋章が見える。城郭内に入って最初に見たものだ。


 再び塩の保管庫の前に辿り着き、今度は道なりに進む。左には居城の内部城壁、右には城郭を兼ねた4階建ての建物。2つの塔に挟まれており、どちらかが鍛冶塔と薬草塔だったので関連した施設であったのだろう。今は要塞の修復管理をする部署が陣取っていた筈である。その隣の建物は、レストランが入っているが、隣接した塔から南側の稜堡りょうほへ出入り可能なため、上部は兵舎も兼ねていたと思われる。

 この辺りは岩盤を下に掘って居城の高低差を造り出している。広場との高さが違うのもそれが理由のひとつでもある。


 先に目をやると、広場への坂道と、右側に窓の縁と建物の角が黄色く塗装された3階建ての大きな建物が見える。3階の窓の上、屋根のすぐ下部分になるが、小窓が付いており、屋根には出窓がある。ロフト付き邸宅の様な外観だ。


「随分と可愛らしい造りの建物だな。これは何の施設なんだ?」

「たぶん、食糧庫ヨ。」

「…正解です。良く判りましたね?」

「その建物、下の窓が鉄格子に鉄の鎧戸ヨ。大事だから入られたくないネ。煙突奥に二つだけヨ。規模からすると数少ない過ぎるは人住む用違うヨ。それに屋根の下と上の窓、アレは換気と湿気飛ばす用ヨ。」


 その台詞にはティナも京姫みやこも素直に驚く。花花ファファは、やはり建築物の外見から内部を推察する方法を習得している様だ。

 位置的にも他に食糧倉庫として使えそうな構造の建物が見当たらなかった、とも付け加えていた。


 ホーエンザルツブルク要塞の食糧庫では、麦などの穀物は袋から出して床へ直に置かれる。床と屋根を木製で作っており、穀物は常に換気される。その結果、湿気とカビが防がれることで長期保存を可能としているのである。この倉庫は「Schütt注ぐkasten倉庫」と名付けられており、300人を1年間養える備蓄量を誇る。また、建物の地下には11万5千リットルのワインが保管されていた。故に倉庫としては巨大であり、その備蓄から兵糧攻めが効かない要塞なのである。


 食糧庫を右手に見ながら坂道を登りきるところで、倉庫から雨どいが広場の地下に繋がっているのが見える。ヴェネチアンフィルター貯水槽へ雨水を送る設備なのだろう。

 ぼうがあるよ!、とハルが雨どいを覗き込んでいる。

 道幅は車1台通れる程度。建物1階入り口の鉄扉が地面から少し高い位置にあるので、馬車の荷台から直接物資を搬入したのだろう。


 坂道を登りきると、また右手側に窓の縁と建物の角が黄色く塗装された建物が建っている。こちらは2階建ての様だ。1階の窓に鉄の鎧扉、屋根には出窓が付いており、倉庫と構造が似通っている。


「これ、武器庫ヨ。要塞の入り口が一番戦うヨ。だからすぐ武器取れる位置ヨ。そこの線路の両脇は詰所ネ。」

「確かに武器庫だったと聞いてます。今はインフォメーションセンターとお店が入ってますが。」

「詰所っていうと、門兵の番所か。確かに、向こう側には稜堡りょうほもあるし、門前は激戦区になるな。」

「もんぺ~♪ もんぺ~♪」


 ハルが門兵の言葉尻を拾って音程がずれた歌を口ずさんでいる。大変楽しそうな様子だ。

 京姫みやこは門兵を「Pförtnerプフェルトナァ」と言っているのだが、ハルは「Pförnerプフェルナァ」と微妙に違う意味のない言葉で歌っているのだ。

 ティナと手を繋いでるハルは謳いながら機嫌よくブンブンと手を振っている。


 こちらの地方では個人の自立を促すため、幼児に対して間違った言葉や文法を大人が無理に訂正することはない。家族や周りとの会話で自然と自分で理解し身に付けるのを見守るだけだ。あまり酷い場合は、正しい方向へ向かう様に手助けはするが。


 広場の北側――居城の正面にあたる――の聖ゲオルク教会は、居城に入る際から入り口の扉が閉まったままであるため、どうやら本日は見学出来ない様だ。この教会、広場側にコイチャッハ大司教の肖像レリーフがある。ザルツブルクは大司教領邦であるため、血族による統治ではなく宗派から派遣された大司教が当主になる。つまり、大司教が何度も変わるのである。なのに、宗教国家のシンボルである教会に一統治者であったコイチャッハ大司教のレリーフがいつまでも残っているのは、彼の功績によるものなのか、宗派の方針なのかは判らないが。

 ちなみにコイチャッハ大司教は、政治・経済の手腕は確かで、ホーエンザルツブルク要塞を大改築するだけの資金は余裕をもって稼ぎ出している。しかし、領民からは随分と嫌われていたらしく、市内の宮殿に住むことを避け、急ぎ要塞に居住スペースを造った理由がほんのりと伺える。


 城郭内も一通り周り終え出口に向かう。キューエンブルク稜堡りょうほで見えていた、荷物搬送用ケーブルカーの路線横を通る様に東側の城壁に出入口がある。

 そこから外へ出ると、城壁に囲まれた空間が現れ、出入り口から下へ降る階段が設置されている。階段を使って降り、その先の城壁にあるアーチをくぐれば北へ向かう下り坂となる。

 もちろん、まだ城郭内であるため、両壁はそそり立った城壁である。ケーブルカーの線路を頭上に見て坂を下るのだが、中々勾配がきつい。坂を下った突き当りは門兵の番所となっており、左へ道が続いている。

 道を塞ぐように城郭の門塔――要塞の入り口――があり、車1台通れるくらいのアーチを抜けて城郭外へ出る。

 このアーチの上から来訪者を誰何すいかするのだが、この門は2番目の関所であり防衛施設だ。大型の円塔となっており、普段は市長舎として機能しているが、円周に沿って設置された窓は銃眼となり一方的にいしゆみや銃器などで狙撃を可能としている。

 ゲートを越えればメンヒスベルク通りであるが、その先に見える1番目の関所であるコイチャッハゲートを繋ぐ道程みちのりは、要塞側と山裾側の両方が城壁に囲まれており、ここまでが城郭の延長線上にあると判る構造だ。


 コイチャッハゲートは、斜面に沿って建てられた3階建ての砦である。丘陵のふもと側、つまり入り口側から見ると、建物の外側に外開きの木製扉、内側に内開きの鉄扉と言う2重の扉が行く手を塞ぐ。このゲートを越えれば要塞敷地内であるため、開門後は建物内の検閲スペースで厳重なチェック後に通過出来る様になる。門兵の番所でもあるため、有事の際は、わらわらと兵士が出てくる。

 現在は検問スペースに入場窓口が据えてあり、徒歩で要塞に赴く時は必ずここから入城となる。ティナ達が通り抜けると、簡易VRデバイスにインストールした入場チケットと連動して、退城チェックの結果がARメッセージで表示される。チケットは本日限り有効で、1度だけ再入場が可能であることが表示されており、入退場のタイムスタンプが記載されている。そこには14:25-16:37とあり、2時間少々滞在していたことが判る。


「意外と滞在時間が長かったですね。途中、駆け足で抜けたことを考えると時間オーバーしていたかもしれません。」

「まあ、コンなものヨ。」

「ハルは疲れてないかい? おんぶしようか?」

「つかれてないよ。でもおんぶー。」


 京姫みやこはハルを甘やかしっぱなしである。彼女も明後日には学園に戻るため、今のうちに甘えるだけ甘えさせているのである。

 彼女達は、背負われてキャッキャと喜ぶハルに癒されながらホーエンザルツブルク要塞を後にした。


 花花ファファが城攻めのルートを考案したり、ティナがこの要塞でよく行われるイベントの話をしたりと、一部不穏だが取り留めもないおしゃべりをしながら家路に向かうのだった。



 ホーエンザルツブルク要塞は、90分もあれば一通り周ることが出来る。彼女達は、やんごとなき教育に悪い理由でほぼ素通りしていた展示物があることを考えれば、随分ゆっくりしていた様に見える。

 しかし、実際の見学時間は90分を下回る。

 では残りの時間は何をしていたかと言えば、――ファンからのサイン攻撃に対応していた。


 ティナはご当地騎士シュヴァリエなので古くから顔なじみの地元民も多く、プライベート時はサイン攻撃を控えてくれるのだが、観光客は違う。

 時に控えめに、時に無遠慮で訪れる波状攻撃を前に、笑顔を持って対応した。

 しかも、今、話題に上る一番ホットな新進気鋭の騎士シュヴァリエが三人揃っていたため、波状攻撃も中々に強力であった。

 結果、6度に渡る波状攻撃を凌いだのである。


 騎士シュヴァリエは、ある程度有名になってくると外出する際のスケジュールにゆとりを持たせる様になる。Chevalerieシュヴァルリ競技がファンと共に楽しむことを掲げて時代を重ねてきたため、騎士シュヴァリエ達もおのずとファンの大切さを身をもって知ることになる。特にプロの騎士シュヴァリエは人気のありなしで仕事に大きな影響が出る。故に、ファンサービスの時間を考慮する様になるのだ。


 素っ気ない対応やファンをないがしろにする行為は不興を買い、ネット経由で情報が一気に拡散する。それは騎士シュヴァリエとして人気が下がる要因であり、改善しなければ名前すら忘れられることになる。

 プライベートを大切にしたいのならば、変装などで一手間かければ良い。たとえ騎士シュヴァリエだと見破られてもファンが察してくれる暗黙の了解が出来上がっている。


 それが、Chevalerieシュヴァルリ競技が30年以上かけて少しづつ築いてきたファンとの距離感であり絆である。


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