01-023.überschneiden=戦乙女+姫騎士 ~ティナその1~

2156年3月18日 木曜日 午後16:20

 今の時期、ローゼンハイムでは日没が18:30頃であり、日差しはまだまだ明るい。とは言え、屋内大スタジアムで試合は行われているため、日の陰りは無関係であると誇示する様に、照明は昼の最中を思わせ、室温も快適に保たれている。

 ある意味、外部と隔絶した別世界である。

 その別世界ではDuel決闘決勝戦が開始されるのを観客も騎士シュヴァリエ達も今か今かと待ちわびている。


 騎士シュヴァリエの戦い。

 現実では在り得なかった戦いを過去と未来が融合したことで生まれた競技。

 別世界で執り行うには相応ふさわしいだろう。

 それは祭祀にて捧げる戦いであるかの様に。

 


 ティナが自分でも確信していた通り、ヘリヤとティナは順当に勝利して決勝戦を戦う運びとなった。


「(はぁ~。やっぱり戦わないといけないですよね。ランキングポイント的には、もう充分稼げたのですが。)」

「(むむむむ、床をモグラが穴だらけにするとか、動物園から脱走したアルパカが闖入ちんにゅうしてくるとか、試合中止イベントが起こらないでしょうか。)」

「(アズ先生に「飽きさせません」なんて言わなければよかったですね。結局、手札をまた切るハメになりました。)」

「(Der Mund ist die Wurzel allen Unglücks. 日本語だと『口は災いの元』でしたか。アズ先生に上手く乗せられた感が半端ないです。)」


 現在、決勝戦用の特設試合コート脇にある登録エリアで試合の準備をしている最中である。あと数分もしない内に試合が始まるのに、ティナは非常に後ろ向きの思考を展開中である。

 現世界1位の騎士シュヴァリエと決勝を戦うと言うシチュエーションであり、剣戟物語の主人公であれば、きっと盛り上がっていることだろう。

 だが、この物語の主人公は、自分イコール「姫騎士」と浸透しているならば、別に戦わなくても良いかな?などと言い出すのである。

 しかし、戦いの場に立てば手を抜くなどはしない。使の範囲で最善を尽くすのである。

 やはり彼女も騎士シュヴァリエであることが奥底に深く根付いているからだ。

 いつでも戦う準備は出来ている。


「さて、。」


 そう呟いて祝詞を紡ぐ。


「(Erweitern Sie Ihren psychische, kein Problem?)」

 ――精神を拡張します。良いですか?


「(ja. alles klar!)」

 ――問題ない



 競技者の準備が終わったことを告げる、競技コントローラに添えつけられたLEDランプが点灯する。

 解説者の選手紹介が始まる。


『さあ!いよいよ春季学内大会最後の試合、決勝戦の開始です! まずは東側オステン選手! 次々と強豪を打ち破り、遂に王者への挑戦権をもぎ取った数多の姫騎士のなかで彼女こそが最強の姫騎士と言えるでしょう! 二つ名【姫騎士】、騎士科2年エスターライヒオーストリア共和国国籍、フロレンティーナ・フォン・ブラウンシュヴァイク=カレンベルク!』


 流石に決勝戦となると、観客席の盛り上がりは騒音に近いものになっている。その音すら耳に入っていないかの如く、いつも以上に平静で丁寧なお辞儀とロイヤルお手振りを添えるファンサービスで観客に応える。



「(Die Kraft des Sonne, entsperren.)」

 ――陽の力、開錠


「(Initialisierung des psychischen Status.)」

 ――精神状態初期化



『そしてそして! 西側ヴェステン選手! 学園在籍中最後の試合を勝利で飾ることが出来るのか! 現世界最強の騎士シュヴァリエ! 二つ名【壊滅の戦乙女】、騎士科6年ノォゥズィンノルウェー王国国籍、ヘリヤ・ロズブローク!』



「(Schweigen, Konzentration.)」

 ――静寂、集中


「(Aggregation, Eindringen.)」

 ――集約、浸透



 ヘリヤはいつもと同じ様に片手を観客に向け軽く上げる。観客席からの歓声もいつもより盛り上がる。観客達もヘリヤが学生として戦う見納めの試合であることを知っているからだ。

 感慨深いものがあるのだろう。ヘリヤは少し目を瞑り、そして笑顔で観客に応えた。

 ティナのすぐ側で、なんだか青春っぽい一幕が上がっているが相変わらず蚊帳の外で気にもせず、コツコツと自身を高める祝詞を綴る。



「(Sonne Macht, Befreiung.)」

 ――陽の力、解放


「(Stagnation.)」

 ――停滞


 「停滞」の一言で祝詞を止める。なにかのキーワードなのだろう。

 それが何かは後に判ることなので省く。



 ヘリヤは満面の笑顔である。待ち遠しかった夏休みが始まった子供の様にウキウキとしながら言葉を紡ぐ。


「いやー、ようやくティナと戦えるな。待ち遠しかったよ、ホンとに。」

「あら? 冬季学内大会では戦ったじゃありませんか。」

「だって、あの時おまえ、してなかっただろ? 最後に何かしそうだったけど抑えてたよな?」


 昨年10月の冬季学内大会で、ティナは初戦でいきなりヘリヤと当たり、ヘリヤ戦を想定した準備をしていなかったためストレート負けしたのだ。

 その時には、まだ隠している技を公にする予定はなかったが、最後に一瞬、使うかどうか逡巡したのを見抜かれていた様だ。


「はぁ~、あの時から目を付けられていたのですね。私としてはヘリヤとは当たりたくなかったのですが。」

「そりゃ無理だ。おまえはあたしと当たるまで負けることはないからな。」


 ティナが3位に入賞したエスターライヒ全国大会の試合は、もちろんヘリヤも見ている。ランキングポイント的に3位入賞するために、今まで隠してきた技術を少しだけ表に出したのだ。それを見てティナの持つ実力を確信していたからこそ出た台詞であった。

 更には予選ベスト8戦でみせたエイルを圧倒した戦いを見せたことが決まりだった。


 もっともティナとしては、全国大会の話は可能な限り避けたいところ。準決勝でチマチマと王道派騎士スタイルの戦いで双方フルカウントまで達したが、やらかして勝ちを取られた恥じ入る内容が思い出されるので。

 

「(なんですか! その謎の信頼は! 熱血少年漫画の世界ですか! それは乙女に不要です!)」

「そこまで高く評価していただき、ありがとうございます。ヘリヤが学園生最後の公式試合で戦う相手が私であったことが光栄です。」


 建前と本音の乖離が酷い。


「また固いこと言うなぁ。その鎧、くれるんだろ?」


 本日のティナは、オレンジ色に輝くKampf格闘panzerung装甲を身に纏っている。激しい動きとなるため、髪はシニヨンに編み込んで後頭部にお団子で纏めている。

 更に武器デバイスとサブ武器デバイスウェポンを両方とも鞘を持ち込まずに手に携えている。この姿だけで何かあると言っているものだ。


「卒業するあなたへの餞別に、かつて経験したことのない戦いを味わって戴きます。期待して良いですよ?」

「それは素晴らしい! なんかドキドキしてきた! 今日は良い日だなぁ。」


 ヘリヤは、新しいオモチャを買って貰う子供の様に心から楽しみにしている。その笑顔は期待に満ちている。



 審判が「抜剣」の合図を出し、ティナの武器デバイスから刀身が生成された。メインとなる武器デバイスは、いつもの騎士剣両手剣であるが、サブ武器デバイスウェポンが公式試合で初めて見せるものであった。

 柄自体が握り部分も手の形に合わせて強固に持てる造りになっており、親指、中指を引っ掛ける専用の張り出しがある。刀身は30cm程ある片刃のナイフ。しかし、一言で言えば異様。刀剣の類としては異常なほど分厚く、峰部分で1cmは超えている。刀の様に断面は5角形であり、両側面の頂点(刀で言う鎬部分)は鋭角。この部分の厚さは2cm近くある。

 更に、刃から2、3cmの距離を取り平行になる様に鍔から長さ15cm程ある鋭利な尖端を持つ串が生えている。串の構造は1辺1cmの四角柱で、刀身と平行になる様、面が向けられている。そして、刀身と串に渡り、マーブル状の波紋が浮いている。

 ティナの騎士剣とはいわれが異なる刀剣と思われるが、オリジナルは坩堝るつぼ鋼を使用したであろうことが伺える。


 問題は、このナイフが刀剣の類としては不自然極まりない造りとなっていることだろう。物を斬るためには串が邪魔をする。刺突を主にするならば、刃は返って邪魔である。用途が全く分からない武器である。

 観戦していた騎士シュヴァリエ達も、ティナのサブ武器デバイスウェポンを見てざわついている。戦う者にとっては、一目で異様だと判る武器だからである。

 もちろん、ヘリヤも同じである。だが、彼女は逆に期待する。用途が判らない武器を携えてきたと言うことは、全く未知の技を見せて貰えるだろうから。



『双方、構え』


 ヘリヤは、剣先は真っすぐ上向け胸の高さで柄を持つ型、Vom Tag屋根の構えを取る。しかし、脚元は右脚を前に左脚を身体の重心から少し後ろ側につま先を外側に開く様に逆配置としている。歩法でのみ込みを前提とせず、そのまま力を乗せた切り下ろしが出来る脚の配置である。


 ティナは。

 止めていた祝詞を紡ぐ。


「(Wiederaufnahme.)」

 ――再開


 祝詞による暗示。

 一気にアドレナリンが分泌される。

 思考が加速し、時間が引き延ばされる。

 世界の音が薄れていく。

 その逆に自分とヘリヤの世界が隔絶され研ぎ澄まされていく。


 母から継いだ、Waldヴァルトmenschenメンシェン、森の民の武術。

 FinsternisElysium MassakerKünste ――フィンスターニスエリシゥム鏖殺おうさつ

 その奥義の一つである、Sonne陽の Machtと呼ばれる暗示によるゾーン状態の強制励起。

 この奥義はキーワードで基底状態と励起状態をオンオフすることが出来、オンの状態では思考加速の恩恵で身体能力を効率よく使用可能となり、通常の2、3割増し程度、パフォーマンスが向上する。

 更に、ほんの一瞬ではあるが、もう一つの奥義であるSchatten陰の Machtによる身体能力のリミッター解除が可能となる。


 ここで、公式でも初公開となる新たな構えを取る。

 両足は肩幅に開き、軽く膝に余裕を持たせる。ほんの少しだけ右脚を前に出し、小刻みにトントンとステップを踏む。エイル戦で見せたボクサーに似た歩法を彷彿させる。

 そして、剣の持ち方も初めて見せる構えだ。右腕は腰の高さで、拳の位置は臍から左寄りに置き、剣先は左脚より外に向いている。左腕は右胸の高さに置き、剣先は右腕の外側に向いている。丁度、左右の剣が斜めに一直線となっている。


『用意、――始め!』


 審判の開始合図と共にティナは飛び出す。

 短い歩幅で脚の回転数を上げて進む、マラソンで言うところのピッチ走法の様だ。細かく脚を動かすことで、たいの制御がし易くなり、攻撃や防御へ即座に対応が可能となる。

 自分から見てヘリヤの左側へ回り込む様に歩を進める。通常なら1歩、今の短くした歩幅でも2、3歩も近づけば接敵する距離をキープする。

 

 相手も当然、こちらの回り込む動きに追従してくる。ヘリヤからすれば右回りに移動することとなる。

 そう、ヘリヤから見て右外側を取る様に移動しているのだ。右外側は右腕の構造上、剣を振るう場合は払う程度しか出来ない。

 つまり、攻撃、もしくは反撃の動作を制限させるための一手である。


 一度、移動を右へ振ってから、すぐ左側へ切り替え急接近する。

 ヘリヤの反応速度は非常に優秀だ。だから右への移動に即座に反応してくれた。その結果、左側への切り返しにタイミングが一瞬遅れる。

 そこで一気に距離を詰める。

 想定通り、ヘリヤは右腕の外側へ剣で薙いだ。剣に添えた左手を離し右腕のみで振るうことで可動範囲を拡大し、正確に接近するティナの胴を薙ぐ軌跡を取る。

 攻撃が来ることを判っていれば、如何様にも対応が出来る。


「(ちょっ!? 来るのが判ってるのに速すぎです!)」


 辛うじて左肩付近で構えていたナイフをヘリヤの剣が描く軌跡に合わせ、刃と串の間に剣を挟むように受ける。梃子の原理で手首を回し、剣を加締めて固定する。これで直ぐには剣を引き抜けない。

 その一連の動作と並行して、左下に向けていた剣をヘリヤの胴を狙い、斜め右上に切り上げた。


 ――ポーン

 ポイントを取得したことを知らせる機械音が響く。

 その音がなる中、ティナとヘリヤは同時に飛び退き距離を空けた。



 ティナは冷汗が止まらない。ヘリヤの高い技量を逆手に取る戦法は、一応シナリオ通りには進んだ。

 しかし、想定外のことが起こった。

 ゾーン状態の時間が間延びした感覚の最中さなかにあって尚、ヘリヤは通常と変わりない神速の薙ぎを放った。

 更に、こちらから胴を狙った薙ぎは、離していた左手を剣に添え直すことで、左前腕で受けて防がれた。

 結果、2ポイント取れるはずが、1ポイントに抑えられた。


「(やはり、ヘリヤはゾーン状態にいつでもなれるようです。その上で身体能力のリミッター解除が自由自在なんて反則じゃないですか!)」

「(しかも、胴への薙ぎを左腕で防がれました! 強引に柄も被せて剣を振り抜かせないなんて超反応過ぎです!)」

「(ヘリヤに全力をだされると、奥義を使った優位性がほぼなくなると思った方が良いですね。むしろ、使ってようやくスタートラインですか。)」


 ポイントは取れているが、内容では押されている。

 だが早い段階で得ることが出来た情報があった。ナイフで固定した感触から、ヘリヤの剣がどの程度の強度を持っているか凡そ知ることが出来た。

 あの攻撃をする一瞬だけSchatten陰の Machtを使えば行ける――、その判断が出来たことは収穫だったとティナは思う。



「(いやー、ティナは予想以上だ。嬉しいねぇ。)」


 ヘリヤはニヤニヤと笑みが止まらない。ご機嫌になる相手とは、戦いの最中であるにも関わらず笑顔になってしまう。

 学園生最後の学内大会。彼女が望む、素晴らしい武術を見せてくれた対戦者と数多く戦えた。

 そして、最後の戦いを締めくくるティナは、自分が想像していた以上に相応しい相手だった。


「(ホントに経験したことがない戦いだ。魅せてくれるねぇ。)」


 エイル戦で見せた、全く初めて見る武術。それを遺憾なく発揮してくれている。

 攻撃手段を絞らされ、剣を絡め捕られる経験も初めてだ。


「(さて、今度はこちらから行かせてもらう。どう捌くかな?)」


 ヘリヤは、剣を背中に向けて担いだ型、Zornhut怒りの構えを取る。ダメージペナルティにより、左腕は動作が緩慢になっている筈だが問題としていない様だ。いざとなれば右腕一本で両腕と変わらない威力の技を出せる。彼女はそういった騎士シュヴァリエである。対するティナは、最初と変わらず腕を交差する様な、ナイフと剣が斜めに一直線となる構えを取っている。


 縮地。正にその言葉を使うに相応しく、ヘリヤは一瞬で間合いを詰めた。その勢いを遠心力に乗せて剣が円を描く。ティナの左肩口を狙った高速のはたき切りで強襲した。

 キャリン、と甲高い音が鳴り響く。


「(なんですか!? 今の剣速は! 受けに余裕がないじゃないですか!)」


 左肩口に到達する前にティナは、下に剣、上にナイフとなる様、ヘリヤのへ剣を挟み込んだ。刃に対して垂直に挟んでいるため、ヘリヤからバインド鍔迫り合いも出来ない。また、攻撃の導線が繋がらない位置であるため、突きへの変化も不可能である。剣を引くしかないのだが、追撃を鑑みて真っすぐ後ろに引くしか選択肢がない。


 ヘリヤは瞬時に後退を選択する。最初の一交差の時と同様、あの独特のナイフで剣を固定しようとする感触が伝わったからだ。バックステップで身体ごと剣を引き抜く。

 その動きに追従する様にティナが接近し、剣で右脚へ切り下ろしを、ナイフは剣を追いかけ絡め捕る様、同時に攻撃してくる。


「(凄いな。剣とナイフが別々の生き物の様に動いてる。双剣使いと全く違う動きだ。)」


 右脚を引き、剣の軌跡から逃す。ナイフは下から右外側へ弾き、そのままナイフを持つ左腕を切りつける挙動を開始する。

 が、ティナの剣が跳ね上がりヘリヤの左腕を切り上げてくる。ダメージペナルティが終わっていない左腕だけでは回避出来ないため、右腕にて剣を打ち据え、ティナの剣を止める。その瞬間、ナイフが右腕へ向かって切り下ろして来た。

 右脚を引き、姿勢を左半身に移行することでナイフの軌道を避ける。

 今度は、打ち据えたティナの剣が巻き越え(剣を接触したまま相手の剣の上にクルリと移動する技)をし、ヘリヤへ正対する様にみ込みながら、胴へ切り上げる軌道を描いた。


 ――ブーと、合わせて1本となった通知音の後に、ヴィーーと、1本取得を知らせる通知音が鳴り響いた。


『双方1本、第一試合終了。待機線へ』


 場内は割れんばかりの歓声に満ちている。観客と解説者が非常に騒がしい。ヘリヤが公式試合で1本取られたのは実に2年半ぶりである。それも、ヘリヤが押され、明確に攻撃を繋げられないまま相討ちになると言うドラマチックな展開であったため、周囲の反応が一入ひとしお過熱する原因となっている。



「(Stagnation.)」

 ――停滞


 Sonne陽の Machtを基底状態へ移行する。1分にも満たない攻防ではあったが、精神疲労と身体疲労は大きく蓄積している。本来はオン、オフをこまめに切り替えながら使用する奥義だ。ここまで長い時間連続して使うことは想定されていない。


「(二刀の攻撃がことごとく防がれました! 普段通り対応されてます! なんですか、あれ! チートです!)」


 ティナはにこやかに微笑んでいるが、内心猛っているのはいつものことである。


「(最後にしてやられました! ヘリヤの剣は絶対フリーにしてはダメです! こちらの軌道をずらして自分は心臓部分クリティカル決めるって何事ですか!)」

「(とりあえず呼吸の安定化が先です!)ひっひっふー、ひっひっふー、吸って~吐いて~、吸う吐く、吸う吐く」


 ティナが放った胴への切り上げ。ヘリヤの心臓部分クリティカルを斬り裂く軌跡を取っていた。それを、ヘリヤは腰の捻りとスウェーで躱しながら、ティナの剣を下から追従して跳ね上げる。その瞬間、たいを戻し、正確に心臓部分クリティカルへ突きを放った。ティナは跳ね上げられた剣をすぐさまヘリヤの肩口へ高速に切り落とし、1本の判定が出る0.2秒の猶予中に駆け込みでポイントを奪えた。お陰でなんとか相討ちに持ってこれた。



 ヘリヤは、まるで夢を見ている様な表情をしている。いや、夢の世界に生きる住人であるならば当然なのかもしれない。

 先ほどの攻防を何度も繰り返し思い浮かべている。


「(攻撃や防御を絞る攻防を仕掛けてくるなんて、やっぱりティナは一味違うなぁ。あたしが押されるなんて何時ぶりだろう。)」

「(剣とナイフがまるで別々の人間が操っているようだった。あのナイフ、透花トゥファが使った串と用途は同じなんだろうな。)」


 花花ファファがマグダレナとの試合で使った筆架叉ひっかさで、パリイ受け流しどころかレイピアを固定したことが思い出される。


「(剣が使い物にならない状況じゃ、こっちもナイフ使うことを考えとこう。)」

「(ああ、ホントに恵まれてるなぁ。下(下級生)から来る者たちが高みに上がって、素晴らしい武術を魅せてくれる。)」

「(学内大会最後なのが悔しいなぁ。強く高く練られていく様をもっと見ていたかったなぁ。)」

「それに。きっとティナはまだ魅せてくれるはずだ。」


 最後の一言だけ肉声で言葉を紡いだ。



「(ぐぬぬ。やはり姫騎士らしくない技の数々です。一般にも姫騎士Kampf格闘panzerung装甲バージョンを浸透させないと)」

「(いつもの格好でも技は使えますが、Kampf格闘panzerung装甲との差別化を今後どうするかが問題ですね。)」

「(ともかく次でやる技もアバター案件として弩級の技ですから情報統制して内密に進行させないと。)」


 ティナの思考が明後日に飛ぶことは多々あるが、まだ試合中ですよ。

 アバター更新については試合が終わってからでいいんじゃない?


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