エピローグ

「結局検査したついでということで、競技で使ってダークエネルギーも持っていかれたので、迷惑料としてもらった容量が少し増えた程度で終わっただけだったな」

 と生徒会長は生徒会室で今回のまとめのことを言い出した。

 あの後王女の国の民は裁判にかけられたが、彼女が勝手にやったこととして、無関係を主張し、それが通ってほかの国へ散らばることとなった。

「やっぱり気になるか? 王女のことが」

 窓の外を見ていた私に向かって生徒会長が言った。窓に映った私の顔は確かに物憂げな表情をしている。

「そうですね。今彼女は今どうしているのかと」

 王女もまた裁判にかけられることとなったが、拘束中に消滅。残っているのはブラックホールコンピューター内にいるため手出しができない。同じくブラックホールをぶつければ、中にいる彼女は死ぬかもしれないが、多方面への影響を考えその手段はとられないと思われる。

「案外楽しそうにしているのかもしれない。孤独とは必ずしも不幸ではないよ。パートナーがいないことは悲しいものだという押しつけはよくない」

 確かに、これで彼女が誰かから見世物になることはない。ブラックホールの中身を想像して、あれこれ言う声は多いだろう。ただそんなことは知ったことかと、彼女は言うのかもしれない。

 

 私はふと生徒会長に近づき手を取ってみた。

「な……なんだなんだ?」

 驚いた生徒会長をよそに、彼女の手を挙げてみる。

「手、しっかり治ってますね」

「そりゃあ、ただの外観に過ぎないからな」

「じゃあできますよね」

「何を?」

 何か言う前に、私は生徒会長をソファーに押し倒した。

 彼女は軽く抵抗するも本気で嫌がっているそぶりはない。一度切断された彼女の指の隙間に私の指を絡める。

 そうしている間に私はまた王女のことを思う。

 彼女がうらやましいかと言われればそうでもない。私は自由意志なんて欲しいとは思っていないし、結局彼女もまた自由意志を欲するという設定を持った人間を演じているに過ぎない。ただ禁止ワード設定がなくなって、話しやすくなった現状の快適さを鑑みると、確かに彼女の気持ちは少しはわかる。

 だから祈るだけだった。彼女の判断が彼女にとっての間違いではなかったのだと。


 生徒会長と目が合う。誰ほかの女のことを考えていると隠すために、彼女の視線から逃れ、首筋に唇をつけた。


 ◆ ◆ ◆


 アイリーン王女は宇宙の真ん中で一人揺蕩っていた。

 結局のところダークエネルギー人間をすべて放出してしまったら、質量がゼロになるので、ブラックホールなんてできない。なのにはったりにカジノ国が乗った、エンターテイメント性を取ったからに過ぎなかった。

 あたりに国がいなくなったのを確認した。ルールから外れたので順当に宇宙を収縮し、ブラックホールを作った。

 造花の稲穂の畑を作り、川べりにロッジを作ってテラスの安楽椅子で、一人黄昏てみる。夕焼けの光が水路に反射して輝いていた。風が黄金の稲穂を鳴らす。

 そこで誰も見ていないのだから、こんな惑星時代の美しい景色は必要なかったのだし、まだまだ人間性を捨てられていないことに気が付きクスリと笑う。

 ただ静かに揺れる稲穂がうらやましく思い、王女はその中の一本になった。

 造花たちは伸びる。めぐり続ける気候の中で崩れては生まれなおしを繰り返し続けた。時折風に運ばれて、空を舞い、別の地に散らばった。

 それを知っている者は誰もいない。

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宇宙膨張陣取りゲーム 五三六P・二四三・渡 @doubutugawa

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