第8話 星系統治権限保有者と星核

 二人並んで歩く。歩調がいつの間にか揃っている。そのことにエリハは少し前から気がついていたが、自分だけの秘密にした。

 繁華街に通じる通りに出ると民家を兼ねた昔ながらの電気屋があった。錆び付いた看板の下には狭いショーウィンドウがあり、大画面テレビが鎮座していた。画面には外国で起きた大地震を伝える臨時ニュース番組が映し出されている。

 店の前を通りかかった二人は、足を止めた。

 テレビの画面を食い入るように見ていた二人だが、被害が甚大であることを知らせるテロップが写し出されるとエリハの顔が悲しげに曇る。

 コウは急に静かになったエリハに声をかけた。


「どうした?」


「この地震で亡くなった人たちは本当のことを知ったら私達を恨むでしょうね・・・地震が起きるのは太陽系統治権限保有者のせいでもあるの」


 地震の発生と太陽系統治権限保有者の関係について初めて聞く言葉だったがコウは素直に信じることができた。帝国の首都惑星星系統治権限保有者でもある帝国女王の例を挙げるまでもなく、星を動かす者としての能力は女系の子供だけに遺伝すること、星を動かす者が星系の統治権限を保有するようになると髪の色が紅に変わること、星系統治権限保有者に任命された者は星系内の星々を爆砕させるくらいは簡単にできることは帝国内の学校で教えられることでもあり、帝国民なら誰でも知っている常識であった。地震と星系統治権限保有者の関係が今さら明らかにされても驚くにはあたらない。


「でも、それは避けられないことなのだろう」


「ええ。お母さんから聞いた話なんだけど。星核(せいかく)というのがあって・・・星核といのは、星を作り出す装置みたいな物なんだけど・・・」


「知っている。帝国の学校で習った。第一世代人間が創作したといわれているやつだ」


「恒星や惑星の中心に星核があって、それに思念を使って命令を出し、地球内部を高温に維持しているの。もし、地球内部が冷えてしまったらあっという間に地上水は内部まで染み込んでいってしまうから。でも、その代わりにマントル対流が発生して地殻に歪みがたまり地震が起きてしまう」


「なるほど、そういうこと。星系統治権限保有者になるのは・・・大変なことだな」


「まあね・・・。お母さんは娘にも話すことができない秘密もあると言ってた。どうせ太陽系統治権限保有者になれば自然とわかることだしとも。コウは星を動かす者に係わる秘密をそんなに知りたいの?」


「知りたい。すごく知りたい」


 エリハは少しためらった。星を動かす者、星系統治権限保有者に関してすべてを知らない方が楽しく生きていけることもある。他人に話してはいけない決まりはない。星系統治権限保有者になれば誰に教えられることもなく自然に分かってしまうことなのだそうだが、事実を知ると自然と口が重くなってしまうのだとエリハの母親も口癖のように言っていた。時期がくればわかるからと・・・。


「やっぱり、教えてあげない。知らない方が幸せということもあるからね。さあ、元気を取り戻してお昼食べに行きましょう。でも、カレーは嫌。あっ、ラーメンもだめ。デリカシーのない選択はしないで。コウ、上手にエスコートしなさい。太陽系統治権限第一継承者としての命令です」


 そう言うとエリハはさっさと歩き始めた。

 男には関係ないことだからと姉達によく言われたなと思い返しながらコウはエリハの後を追いかけた。

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