思惑

 警察は莉桜の家にまで来て、自殺した男の子と何かなかったかなどと事情聴取を行った。


 莉桜は真相も真犯人も分かっているが、警察に言うべきことでもなく、男子生徒とは日常会話をする程度の間だったと告げた。


 古株の刑事と女性警察官といった組み合わせだったが、それ以上何を追及するでもなく立ち去った。


 小津源家を出た後に刑事は女性警察官に呟いた。


 「この事件は、何か分からん力が働いているかもしれないな、さっきのお嬢ちゃんも、ただの女の子じゃなさそうだ」


 「そうですか?かわいらしい高校1年生に見えましたけど?」


 「いや、何かあるな」


 「そうなんですね、警部がおっしゃるのなら」




 事情聴取が終わると、莉桜は要町の翔太のアパートまで向かった。


 翔太はまだ仕事だろう。


 アパートに着くと、合鍵で扉を開け中に入る。


 玄関には榊が置かれ、結界の補助をしている。


 翔太が帰ってくるまで3時間。


 莉桜はニットの黒いセーターにミニスカートとタイツ、明るいブルーのダウンジャケットを着ていたが、ダウンジャケットは脱いで翔太の部屋に置いてあったパーカーを上から着た。


 片づけをして、掃除機をかけて、洗濯物まで洗ってあげる。


 それが終わると翔太の夕食を作り始める。


 呪詛に対抗するには普段通りの生活をすること、まずはそこだと考えていた。


 ただ、麗華に対してどういう行動を移すか。


 家事をこなしながら、莉桜は考えていた。


 それと、翔太のことが心配でたまらなかった。



 一番に狙われるのは、同級生の子ではなく、翔太だ。



 麗華の力は分からないが、学校での監視は感じられるが、自宅や翔太の家までは今の所、麗華の監視はないようだ。


 おそらく、麗華の力は呪詛のみ、遠隔監視のようなことはできない。


 そして、呪詛を行うには、相手のなんらかのデータが必要だ。


 お鍋をぐつぐつと煮込み、味見をしながら莉桜は考えていた。



 ガチャっという音がして、玄関が開く。


 「ただいま」そう言って翔太が現れた。


 「おかえり」そう言うと、莉桜らしくもなく抱き着く。


 「ん?どうした?甘えただな」


 「ううん、翔太が私にとってどれほど大切な人なのかを改めて感じられただけだよ」


 「いい匂いだな、鍋?」


 「うん、味付けも翔太が好きそうなのにしておいたから」


 「いい奥さんだ」


 「2月で16歳だよ、結婚できるんだからね」


 「ああ、そうだな」莉桜の頭をなでつける。


 「ねえ、」


 「ん?」


 「麗華、多分悪霊に憑りつかれている、可哀そうな子」


 「そうか」


 「悪霊と本人の結びつきが強ければ悪霊を祓うだけで本人まで死んでしまう」


 「ただ、このままにはしておけないな」


 「うん、翔太、助けてくれる?」


 「ああ、もちろんだ、俺に何かできることがあるのか?」


 「翔太が近くにいるだけで、私の力は何倍にも増幅されるから」


 「そうか、じゃあ、麗華と対決するときは一緒にいないとだな」


 「翔太は怖くないの?」


 「怖くないと言えば嘘になる、ただ、莉桜のやることは間違っていないし、亡くなった子のためにも、してあげるべきだろう」


 「うん、ありがとうね、翔太」


 「ああ、学校はどうするんだ?」


 「あんな事件があったし、ちょっと自主的に休もうかと思って、一週間も休んだら冬休みだし」


 「そうか、その間俺の所にいればいいよ」


 「そのつもりよ?パパとママにはもう言ってあるから」


 部屋の奥を見ると見慣れない旅行用のキャリーバックが置かれていた。

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